35.設定不足です。
ラウルさんが連れて来てくれたお店は大型店舗というよりは、個人商店という感じの狭くも広くもないようなお店だった。
「おい! オスカル! 来てやったぞ!」
オスカル!?
全然世代ではなかったけど、昔のアニメ特集とかで聴き慣れた…というか、印象に強く残ってる。
「何が来てやったぞだ! 別にうちに来いなんて言ってねーだろうが……って、見ない顔連れてんな」
おぅっ……イメージと全く違った。名前からしてキラキラした感じだと思ってたけど、プロレスラーみたいな大きな体したおじさんが出てきた。毛も濃い目で、ワイシャツの少しあいた胸元からはダンディーな胸毛が見える。
ワイルド〜。
「初めまして! 美桜と言います」
「ついこの間冒険者登録して、装備がねーって言うから連れてきた」
「へぇ〜お前が新人冒険者の面倒ね〜それも女の子ときた」
「あ? 何だよ?」
「いんや、珍しい事もあんだなと思ってな」
「うっせー、気分だ気分」
豹ってネコ科だから、ラウルさんもネコみたいに気分屋なのかもしれない。
「初めまして、この店の店主のオスカルだ。 宜しくな」
「宜しくお願いします」
「ミオは人族か?」
人間なのか?って事だよね?
「は、はい」
“多分”とは言えなかった。役目が聖女なだけで人間だよね?
「人族で女って事はあまり重い装備じゃないほうがいいな」
「こいつマジ筋肉ねーし、体力なさそうだから、軽めがいいだろうな。 って、いってーな!」
殴ってもダメージを与えるどころか、私の手が痛くなりそうだったから腕を思いっきりつねってやった。これは効果があるようだ。
「これでさっきのセクハラの事は水に流します」
「お前……実は根に持つタイプだろ」
「みたいですね」
あーだこーだ軽く言い合いをしていたら、オスカルさんに豪快に笑われた。
「お前ら息ぴったりじゃねーか」
「ラウルさんが子供っぽいからですかね? それとも私の精神年齢が高いんですかね?」
「あぁん? お前な__」
「あははっ! 嘘です、ごめんなさい。 ラウルさんが相手してくれるからちょっと調子に乗りました」
そう言うと、ラウルさんは開けていた口を閉じて頭をポリポリかいた。
日本にいた時は仕事ばかりしてて、結婚しなきゃって、早く子供産まなきゃって焦って……その上肌質とか体型とか変わっていって自信もどんどんなくなっていって、今思えば余裕がなかったなって思う。今だから素直に認められるけど、あの時はそれを認めるのが怖かった。
余裕があるからこそ、こうして穏やかな気持ちで相手に接することができているのかもしれない。
「ミオは武器は何を使う? それとも魔法のみか?」
「えっと……一応弓矢は持ってるんですけど、まだ使った事なくて……」
「はぁ!?」
ラウルさんの大きな声が一瞬で広がった。バカか?みたいな顔で見下ろされている。ラスカルさんは腕を組んだまま苦笑い。
「お前アルファードから来たんだろ!? いや、ちょっと待て! それならわざわざナスルで冒険者登録する必要ねーよな!? お前どっから来たんだよ!? 途中魔物に襲われたりとかなかったのかよ!?」
早口で勢いよく聞かれて軽くパニクった。そんな細かな設定してないし……アルファードって確か人間の国だよね?そこからここまでってどんくらい離れてんの?
パブロさんに指摘されてあんなにしっかりしようって、気を付けようって意気込んだのにあっという間にこの状況。
「この国の小さな村から来ました。 途中……確かアルカ…なんとかって森を抜けて__」
「アルカンシエルか!? お嬢ちゃん武器も使えねーのに本当にその森を抜けてきたのか!?」
「あの森はここ最近瘴気が濃くなって、熟練の冒険者すら近寄らない森だぞ!?」
あー……やっちまったーヘタこいたー……。
「凪が守ってくれました!!」
ジャーン!という効果音がつきそうな勢いで凪に手を向けた。
「へー、相当つえーんだな」
ラウルさんは興味津々な様子で凪を見た。そんなラウルさんを振るかのように、凪はプイっと顔を背ける。
「それか運良く凶暴な魔物に遭遇しなかったかだな。 何にせよ、嬢ちゃんたち無事で良かったな」
「あはは……凪に感謝です」
本当、凪には心の底から感謝。
話を逸らすように「装備見せてください!」と言うと、オスカルさんは「そうだな」と言って私が使えそうな物を見せてくれた。
私が色々と見せてもらってる間、ラウルさんも店内を見て回っていた。
「他に気になる物はねーか?」
「今のところ大丈夫そうです。 ありがとうございます」
「お、決まったのか?」
「はい!」
私自身軽い方がいいのもあるけど、凪の上に乗るから軽い方がいいだろうと思って、値ははるけど本皮の胸当てと弓矢用のグローブ、膝下までのブーツを選んだ。
どれも皮製品で厚みはないし、普通だったら防具になるの?って思うけど、どれも強化魔法がかけられていて、ちょっとやそっとじゃ刃物も貫通しないらしい。ただ、それは相手の力によるみたい。武器に強い魔力を纏わせていたら危ないそうだ。
グローブは弓矢を使うときに手が滑らないようにつけた方がいいんじゃないか?とアドバイスを貰った。
「これはラウルさんに……もし良かったら使って下さい」
「いいのか?」
「はい。 今日付き合って頂いたお礼です」
「ありがとな」
お礼のミサンガを早速手首に付けてくれた。小麦色の肌に少し明るめのターコイズブルーがよく似合う。
「あまり強くはないらしいんですけど、危ない時に結界が発動するらしいです」
「おっ! いーもんもらった。 まぁ使う事はないだろうけどな!」
「あはは、そうですね」
本当に自信家。でもそうならないに越した事はない。安全第一だ。




