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聖女の冒険  作者: 星野 奏


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30/118

30.脱線しました。

 棚に並んだ器を眺めて、もう一度気になる器を手に取った。



 “「んんんんんーーーっ!!」”



 念力を送るみたいに(送った事ないけど)手の中に収まっているお椀型の器を見つめた。目力も使ってみる。


 何の反応もない。



“「何をしている」”


“「魔力を注ごうと頑張ってるの!」”


“「ただ力むだけでは魔力は注げないぞ」”



 そんな呆れた顔されても……。


 日本で生活してたら魔力なんて聞きも触れもしないんだから分かるわけないじゃん。勝手に霊能力と似たようなものだとは思ってるけど、そんなの持ってる人だって世界では限られた人だけだったし、私には全く縁のないものだった。



“「一旦器を置け」”


“「うん……」”



 器を棚に戻すと、屈むよう言われ凪と目線を合わせた。



“「手を出せ」”



 掌を上に向けて出すと、その上に凪の手が乗っかった。


 素晴らしい弾力。これは肉球ですね!



“「何をしている」”



 怪訝そうな目を向けられた。



“「あ、ごめん。 つい……」”



 突然の肉球に感動してにぎにぎしてしまった。



“「目を瞑り、掌に集中しろ」”



 言われるがまま目を閉じて、右の掌に意識を集中させる。



“「何か感じるか?」”


“「ちょっとあったかい」”


“「俺の聖力せいりょくを少し流している。 己の心を相手に渡す気持ちで力を想像しろ」”


“「わ、分かった」”


“「では俺の手に魔力を流してみろ」”



 分かったようで分かってないけど、取り敢えずやってみよう。


 凪の手をそっと握った。


 心を相手に……いつもそばにいてくれてありがとう。そう思いながら身体のどこにあるかも分からない力を意識した。



“「力の流れは不安定だが、問題ないだろう」”


“「教えてくれてありがとう!」”



 握手をする様に握った手を揺らした。


 呆れながらも凪の表情は優しかった。



“「そういえば、さっき聖力って言ったよね?」”


“「あぁ」”


“「聖力って何?」”


“「この世界には目には見えないが魔素が溢れている。 その魔素が人の身体に蓄積されていき魔力となる。 蓄積できる量は成人を迎えるまでは増えていくが、成人を過ぎたらそれ以上上がることはない」


“「産まれたときから魔力が大きいわけじゃないんだね」”


“「そういう者も稀にいる。 血筋もどうやら関係しているようだ」”


“「へー」”


“「俺は聖獣であり、この世界の魔素は関係ない。 魔の力ではなく聖の力を持っているだけだ」”


“「オクタヴィアンさんも聖力ってこと?」”


“「違う。 オクタヴィアン様は神様だから神力をお持ちだ」”



 力にも色々種類があるって事?


 力だの属性だのと非日常な話ばっかり……だと思っちゃいけない世界に自分はいるんだって思うと、やっぱり不思議だなとは思わずにはいられない。



「あのぉ……大丈夫?」


「え!? あ、はい!」



 店員さんに声をかけられて慌てて立ち上がった。



「良かったわ。 気分でも悪くなっちゃったのかと思って」


「あ、いや、凪にもどれがいいか聞いてました」


「ふふっ、仲がいいのね」


「はい」



 さて、気を取り直して器を選びましょうかね!


 さっき持っていた器を手に取り、教えてもらった通りに力を送った。けど、全く光らない。



“「相性が良くないという事だろうな」”


“「あ、なるほどね」”



 光るからと言っても全部が光るわけじゃないのか。


 色んな器で試してみるものの、いまいちパッとしない。光るっちゃ光るけど、淡い黄色。


 んー……ん?あれも器だよね?


 並んだ器の奥に少し気になる器を見つけて取り出した。


 うわー……凄く綺麗。掌サイズの金魚鉢みたいなガラスの器には雪の結晶みたいな模様が彫られている。こういうのって確か切子ガラスっていうんだっけ?


 空色で涼しげで上品なデザインに一目惚れしてしまった。相性が悪くてもこれは欲しい。


 いい相性でありますように……と思いを込めると、今までにないくらい光り、その光の中には更にキラキラと何かが光っていた。色もとっても濃い黄色。



“「決まりだな」”


“「うん!」”



 買い物で運命を感じたのはいつぶりだろう。とにかくなんだか楽しくなってきた。






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