26.なんて事でしょう。
無事に部屋に入ると、そこにはダブルベッドとテーブルに椅子2脚、そしてスタンドライトというシンプルな空間が広がっていた。テレビはない。
あれ?
「どうした?」
「いや……」
どれだけ部屋の中を見渡しても、見つからない。出入口以外のドアが……。
「……お風呂は? ……トイレは!?」
「ないようだな」
「えぇー!? 嘘でしょ!? まっさかー! ちょっ、確認してくる!!」
凪を部屋に置いたまま、私は登ったばかりの階段を慌てて駆け下りた。するとうさ耳の店員さんは目をパチクリさせた。
「あ、あの! お風呂とトイレってついてないんですか!?」
店員さんは更に目をパチクリさせた。
え!?私はなんか変な事言った!?
「えっと……お風呂はこの宿にはついてません……というか、お風呂なんて貴族や王族のお家にしかありませんが……」
え!?
「…………」
あまりの衝撃に言葉を失った。
「……ミオ様?」
「じゃあ……シャワーは?」
「シャワーとは?」
え!?
「シャワーとは?」??何て説明したらいいの!?
「あ、えーっと……か、身体を洗い流す方法?」
「一般的には人肌程度のお湯でタオルを濡らし、身体を拭きますが……」
マジ?マジなの!?
「じゃ、じゃあトイレは!?」
「と、トイレとは?」
次はまさかの「トイレとは?」!?
「あー……お、お手洗い?」
「お手洗いでしたらあちらにございます!」
指をピンと伸ばして案内された方向には【お手洗い 男】、【お手洗い 女】と書かれた看板が吊り下げられていた。
「ありがとうございます!」
小走りでお手洗いに向かって女性用のドアを開けると、その中にはさらにドアが3つあった。
共同なだけでトイレの作りは日本と同じなのかもしれ__っ!?
3つ並んでるドアのうち1つを開けて驚愕。
ぼっとん便所じゃんかぁぁぁあぁあ!!!
_ギィィィ……パタン……。
静かにドアを閉めて、ドアノブを掴んだまま暫く放心状態だった。
テンションだだ下がりのまま部屋に戻ると、人の気も知らないで凪は夕焼けに当たりながら寛いでいた。
「なんて顔をしている」
「普通のお家ってお風呂ないんだって……共同のトイレはまさかのぼっとん便所だし……てか髪の毛とかみんなどうやって洗ってんだろ!? まさか水!? あぁー! この世界の一般的な生活環境が全く分からん!」
悲劇のヒロインばりにその場に座り込んだ。
本気で泣きそう。
百歩譲ってぼっとん便所はいいとしよう。でもお風呂……せめてシャワー浴びたいよ!日本で当たり前のように入ってたお風呂がここでは当たり前じゃないなんて!
「家を建てる様に風呂だけを出したりはできないのか?」
凪の言葉にハッとした。顔を上げて凪を見るとものっ凄く面倒臭そうな顔してた。
今光が見えた気がした。
張り切って立ち上がって椅子やテーブル、スタンドライトなどを隅っこに寄せスペースを作った。そこにお家の模型を置いて、頭の中でシャワールームをイメージした。するとなんと!海とかにある様な簡易シャワーに良く似たボックスが現れた。
急いでドアを開けて感動!
「シャワーだ! シャワーだよ!!」
次はトイレ!
慌てるな、慌てちゃダメ。「ふー」っと深呼吸してはやる気持ちを鎮めながらトイレをイメージ。イメージしたものの、見た目は変わらない。
恐る恐るドアを開けて思わずガッツポーズ。
水洗トイレがこんなに神々しく見える日がくるなんて!
「凪! 天才!!」
駆け出した勢いのまま屈むと膝で滑り込んだ。そのまま凪の首に腕を回し抱きついた。
凪は煩わしそうに首を振ってたけど、私が離れないものだから途中から諦めてた。感激のあまりチューしそうになったけど、すんでのところで思いとどまった。そんな事したら暫く口聞いてくれなくなりそう。




