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聖女の冒険  作者: 雨宮 未亜
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02.聖女になりました。

 立場が違う?同じように飛ばされたのに?え?年齢的な?



「何を考えてるか分からないけど、美桜が考えてる理由じゃないよ」



 そう言ってオクタヴィアンさんは私の眉間にピトッと人差し指をつけた。

 やばい、やばい。いつもの癖で眉間にシワがよってたみたい。シワが取れなくなっちゃうから気をつけてはいるけど、癖を治すのって難しい。



「理由教えてください」


「聖女予定の女の子を一番に助けたのは美桜だったから、美桜を聖女にってことになったんだ」



 _ブフッッッ!!


 思いもよらない答えに思わず飲んでるコーヒーを吹き出した。溢しはしなかったものの、口の周りに飛び散った。


 口の周りをティッシュでササっと拭き取った。使用済みのティッシュは私の手の中で無残な姿になっている。


 握る手が震える。これは怒り?いや、動揺?

 今日二度目のテンパリに襲われている。



「あ、あの……辞退させて頂くことは__」


「それは無理な相談かな」



 そんな可愛い笑顔で言われたからって「はいそうですか」って素直に受け入れられるわけない。


 聖女になることよりも何よりも、問題がある。私は……私はね!!



「結婚したいんです! 私!! 32歳から聖女やるなんて益々結婚が遠のくと思うんですよ!? もう一人の子は私よりも若い女の子ですよね!? その子だったら聖女やって「わ〜聖女様〜」って崇められたとしても、じゃあ王子と〜騎士と〜どっかの貴族と〜って結婚話がトントン拍子で進むと思うんですけど、私の年齢だと厳しいと思うんですよ!!」



 言ってて悲しいし虚しいけど、年齢ばかりはどうしようもない。


 時間は待ってくれないし、戻りもしてくれない。5年付き合った彼氏との5年間は凄く貴重な時間を無駄にしたと思ってる。無駄にするつもりはなかったけど、結果そういうことになった。


 新しい世界で右も左も分からないとこから始めて、更には婚活ってなったら日本にいた時よりも結婚がいつになるか分からない。その上聖女なんて……人々から崇められる人ってことでしょ?そんな人に「結婚してください!」ってスパっと言ってくれる人が直ぐに現れるとは思えない。


それに……



「私、子供も欲しいんです……」



 うちはテレビドラマとかであるようなほんわか家族とは程遠い家族だった。だからなのか、私はきっと誰よりも暖かな家庭に憧れている。もちろん旦那さんがいるだけで幸せだと思えるんだろうけど、そこに子供がいたらもっと幸せなんだろうなと思う。



「理由は美桜が一番に手を差し伸べたからだけではないんだよ。 実は聖女の力との相性が美桜の方が良かったんだ。 無理にもう一人の子に聖女の力を授けてしまえば暴走する可能性があるんだ」


「暴走したらどうなるんですか?」


「世界は壊れてしまうだろうね」


「そんな……」



 世界って……スケールが大きすぎるよ。


 「世界が壊れてもいいので聖女は勘弁してください!」と言えるほどの度胸が私のどこにあるっていうの。まだ知らない世界だけど、人が普通に生活してるってことだけは分かってる。間接的に私がその人たちをこ、こ、殺…しちゃう…かも……ってことでしょ……。

 そんなことできる訳ないじゃん……。



「ではこうするのはどうかな」



 項垂れているとそう声をかけられた。



「新たに行く世界での成人は16歳からなんだけど、美桜を16歳にしてあげるよ」


「え!?」



 勢いよく頭を上げたらオクタヴィアンさんに笑われてしまった。


 そりゃがっつくでしょ。だってまさか、まさかの提案だよ?



「本当にそんな事できるんですか!?」


「それくらい容易いことだよ」



 16歳からやり直せるって凄く魅力的なことだよね?だって今までの経験を活かせるってことは、変な人とも付き合う確率が減るんじゃない?


 今思い返せばロクな人と付き合ってないな。


 浮気性の彼、ギャンブル好きの彼、束縛する彼、夢追い彼、そして最後の彼も結局浮気。最後の彼に関しては、お別れメールを送ってきた直後に他の女と腕を組んで楽しそうに歩いてるところを目撃して浮気が発覚したんだけどね。本当腹立つな。彼に早々に天罰がくだりますように。


 あ、念のため確認しておかないといけないことがあった。



「日本で存在自体無くなったってことは、聖女の役目が終わっても帰れないってことですよね?」


「そうだね、もう元の世界へは帰れない。 それと、聖女の役割で少し間違った解釈をしてるみたいなんだけど、生きている限り聖女の役割は終わらないんだ」


「はい? じゃあ若返らせてもらっても結婚厳しくないですか!?」


「今こんなこと話してもピンとこないとおもうんだけど、聖女は存在するだけで世界を浄化することができるんだ。 ただ、あまりにも瘴気しょうきが濃くなってしまったところは直接行って浄化するしかないんだよね。 だから役割が終わらないってこと」



 なるほどね。なんとなくわかってきた。



「ってことは、最初は何箇所か回らないといけないってこと?」


「その通り。 瘴気が濃くなってまわらないといけないところに関しては、マップを見れば分かるようにしておくよ」


「乱れを正すって、具体的にどうしたらいいんですか?」


「簡単なことさ。 その場所に行って、ただ願うだけでいい。 世界の乱れが整いますようにってね」



 そんなことでいいわけ?とは思ったりしたけど、念には念をだよね。



「普通にまわってどのくらいで世界一周できるんですか?」


「浄化する場所を巡ったとしたら、順調に進んで約一年かな」



 だとしたら17、8歳には婚活を再開できるってことだよね。それなら悪くない話かもしれない。



「聖女の仕事から婚活期間まで間の金銭的余裕が欲しいです」


「その期間だけの保証でいいの?」


「はい。 欲を言えば聖女の浄化巡りが終わって1年くらいは生活できるくらいの蓄えが欲しいです。 その間に働ける場所を探すので」


「美桜は欲がないね」


「え? そうですか? 聖女のお仕事中から職探しの間の生活費って結構な金額いると思うんですけど……」



 首を傾げると笑われてしまった。



「聖女として召喚されるわけだから、アルファード王国の王家が生活の面倒は見てくれると思うよ。 でもそれとは別で僕も美桜の生活は保証するよ」


「王家が面倒見てくれるのは有り難いんですけど、それって自由がなくなりそうじゃないですか……なので出来ることなら最初はオクタヴィアンさんに面倒見てもらって、自立するって方法でいきたいですね」


「しっかりしてると言うか、甘え下手と言うか……美桜の気持ちは分かるけど、最初は王家に行ってもらいたいんだ。 本来であれば、王家に仕える魔術師が聖女を召喚する手筈になっているからね」



 そう言えばそんな事言ってたな。それなら聖女の役目が落ち着いたところでどうにか自力で脱出するしかなさそうだ。


 上手く事が運べばいいけど、世の中うまくいかない事だらけだって事は痛いほど学んでる。



「取り敢えず資金と生活の知恵と……魔法なんかがある世界なら、危ない目にあった時に役立つ魔法とか下さい」


「美桜が望むものと僕が必要だと思うものを授けることにするよ。 授けたものに関しては念のため説明書も用意しておくよ」


「ありがとうございます」


「お礼を言うのはこちらの方だよ。 突然な話なのに受け入れてくれてありがとう。 美桜が新たな世界に来て良かったと思えるように出来る限りサポートするよ」


「頼りにしてますよ!」



 そう言うと指先がキラキラと光り始めた。そして段々と広がり、全身が光に包まれた。少しずつ体が透けていく。



「教会に行けばいつでも僕と会えるから、困った事や分からない事があればいつでもおいで」


「はい!」



 返事をした直後、オクタヴィアンさんの姿が見えなくなった。


 猛烈な睡魔に襲われ、私は一瞬にして意識を手放した。






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