113.仕事ができる人です。
翌朝目を覚ましても凪はまだ帰ってきていなかった。凪がいないから、宿の食堂で朝食を済ませ、出かける準備を終えて部屋で迎えを待った。
_コンコンコン
ドアがノックされ扉を開けると、宿の人が立っていた。
「馬車が到着いたしました」
「ありがとうございます。 すぐ行きます」
宿の人は会釈をするとすぐに踵を返した。私はバッグを持って部屋を出た。鍵を宿の人に預け外に出ると、庶民的な感じの馬車が止まっていた。貴族の人が乗っている馬車はデザインだったり家門だったりが描かれているけど、目の前の馬車は落ち着いた色の無地の馬車。
「ミオ様ですね」
「はい、そうです」
「大司祭様の命でお迎えに上がりました」
迎えに来てくれた方はシャツにジャケット、パンツスタイルというサラリーマンのスーツよりも少しカジュアルに見える洋服を着ている。昨日会った大司祭様はザ・聖職者!みたいな白地ベースの細かな刺繍が施された洋服を着ていたから、迎えの人の服装が普通過ぎて驚いた。
扉を開けると手を差し出されたので、その手を取って馬車に乗り込んだ。私が座ると迎えに来てくれた彼も馬車に乗り込み、私の斜め前に座った。彼が小窓をコンコンとノックするように叩くと、馬車はゆっくりと動き始めた。
「初めまして、聖女様。 私は大司祭様の補佐を務めているバートと申します。 この度はこのような質素な馬車でのお出迎えとなり申し訳ありません。 聖女であることが周りの方々に知られたくないようだと伺いましたので、神殿から直接お迎えに上がったと思われないようこのように対応させていただきました」
「そうだったんですね。 ご配慮いただきありがとうございます。 どうぞ私の事は美桜と呼んでください」
「承知しました。 神殿につきましたら一般の方向けに開放している祈りの間へご案内させていただきます。 何かこちらでご用意した方がいいものなどございますか?」
「いいえ、特に用意してもらうものはないので、お祈りできる場所まで案内してもらえるだけで大丈夫です」
神殿の人ってはたから見て分からないように馬車だけじゃなくて自分自身の身だしなみにも気を遣ってくれたんだ。バートさんは雰囲気もだけど、この無駄のない感じ……きっと仕事できる人だ。補佐って秘書みたいなことする人かな?
「あの、もし銀っぽい毛並みの犬で右の前足にブレスレットをつけてる子が神殿に入ってきたら、私のところまで連れてきてもらえませんか? 私の相棒なんです」
「承知しました。 警備担当の聖騎士に申し伝えます」
せっかくオクタヴィアンさんに会いに行くから凪も一緒が良かったな……一応神殿に行ってきますっていうメモは置いてきたけど……お祈りしてる時に来てくれたらいいな。




