110.ハードルが高いみたいです。
宿に戻ってきた頃には日が傾いていた。公爵家で夕食をと言われたけど、凪が戻ってきてるかもと思い丁重にお断りした。それに今日は気を遣いすぎて一人でゆっくり食事をとりたかった。
「えぇ、お義母様。 分かってますわ。 いつも足を運んでいただきありがとうございます」
「いいのよ。 大切な身体に何かあっては大変でしょう。 具合が悪くなったり何かあればすぐに連絡するのよ」
「分かりました。 いつもありがとうございます」
隣の部屋のセレーナさんのところにお客様が来ていたみたいだ。大きなつばの付いた帽子は薔薇のような花が付いていて、首元は黒色でシックに見えるがその分赤いルビーのようなネックレスが映えていて豪華だ。手にも黒のレースの手袋をはめている。
うわ……。
セレーナさんと話していた時は終始笑顔だったのに、私を見た途端冷たい視線になった。冷たいというか蔑むような目と言った方が近いかもしれない。貴族至上主義っていうのはこういう人の事を言うんだろうな。すれ違う時に強烈な香水の香りに驚いた。鼻がもげそう。妊婦さんと会うのにこんなきつい香水つけてくるなんて非常識!っていうかつけすぎ!
「ミオ、お帰りなさい」
「ただいま、セレーナさん」
「もう食事は済んでる?」
「いえ、まだです」
「良かったら一緒にどうかしら?」
「いいですね! 一緒に食べましょう」
あぁ……私の悪いところだ。疲れてるからまた今度とは言えないこの性格……まぁ、セレーナさんと仲良くなれる機会だし、いっか。
準備ができたらセレーナさんを呼びに行くことになり、いったん部屋に戻った。部屋の中は静かで、誰の気配もない。凪が戻った痕跡もない。ポロック伯爵家はいい噂がないって聞いたから心配だ。紙にセレーナさんと食事に行ってきますとメモを残し、部屋を後にした。
セレーナさんはいつも宿で食事をとっているらしく、外食がしたかったみたいだ。私の感覚であれば一人でも外食なんて気にならないけど、セレーナさんは一人で外で食事はハードルが高いみたいで、散歩はできても外食はしたことないらしい。こんなに素敵な国にいるのにもったいない。一人で外で勉強するのが習慣になったくらいから、一人でカフェもファーストフードもファミレスも……どこにでも行けるようになった気がする。さすがにまだ一人で焼き肉屋らラーメンやらを食べに行く勇気はなく、チャレンジしたことはない。セレーナさんにとって一人外食って、私が一人で焼き肉に行くっていう感覚に似てるのかもと思えば気持ちが分かるような気がした。




