109.美人の匂いです。
「ミオさん」
シャノン様の空気になじむような穏やかな声。声だけじゃなく、瞳も落ち着いていて私の方が泣きたくなった。
「そんな顔をしないでください。 聖女様の役目は世界が壊れてしまわないように浄化をすること。 本来であればその力を個人に使うことなどしなくていいのです。 こうして少しでも猶予をくださったこと、とても感謝しております」
「シャノン! だが__」
「ヒューバード様、私の身に何が起ころうとミオさんの使命の妨げをしないと約束してください」
「…………」
「約束をしてくれないのでしたら、私は生きることを諦めましょう」
「……分かった。 約束しよう。 だが、シャノンも約束してくれ。 最後まで諦めないと」
「はい、お約束します。 ですから、お兄様もミオさんを困らせることはしないでくださいね」
「分かったよ」
もうダメ……溢れて堪えていた涙が崩壊した。どうしよう……止まらない。俯いて止まらない涙を指先で拭っていると、肩に華奢な手が触れた。
「綺麗なお顔が台無しですわ」
頬にハンカチを当ててくれた。綺麗な人の持ち物はすごく良い香り。これが美人の香りってやつだろうか。
この人はどうしてこんなに冷静でいられるんだろう。自分のことでいっぱいいっぱいなはずなのに、どうして人に優しくできるんだろう。
「ハンネス様、明日神殿に伺ってもよろしいでしょうか」
「勿論です。 お迎えに上がりますので、滞在場所を教えていただけますか?」
「ありがとうございます。 大通り沿いの外観が薄ピンク色の宿にいます。 午前中に来ていただけると助かります」
「承知しました。 朝食を終えたくらいにお迎えに上がりましょう」
帰ったら凪も戻ってきてるかな?いてくれればいいんだけど……いろいろ勝手に決めちゃってるから、早く話してしまいたい。
「ミオさん、よろしければこの国にいる間は公爵家にお部屋をご用意いたします」
「え! そんなご迷惑おかけできないです!」
「少しも迷惑ではありません。 それに、ここだけの話しですが、ミオさんが宿泊している宿を所有しているポロック伯爵家はあまりいい噂を聞きませんので、万が一聖女だとばれてしまったら大変なことになってしまうかもしれません」
ポロック伯爵家って、今凪が調査に行ってるお家だよね!?もともと不安だったのが更に不安になってしまった。凪……無事かな……。
「ミオさん、兄の言う通り迷惑だなんて思わないでください」
「聖女殿、私からも公爵家に滞在することをお勧めします。 万が一何かあれば宿よりも公爵家の方が安全で我々もお守りしやすいのです」
「ありがとうございます。 でも今すぐに返答するのは難しいです。 相棒の凪に聞いてからお返事してもいいですか?」
「勿論です。 では本日は宿にお送りしましょう」
「ありがとうございます。 もしシャノン様の体に異変があればすぐに呼んでください」
「ミオさん、お気遣いありがとうございます。 それと、どうか私の事はシャノンとお呼びください」
「じゃあ、お言葉に甘えてシャノンさんとお呼びしますね」
そう言うと眩しいほどの笑顔を向けられた。どうか、この眩い笑顔が失われませんように……心の中で強く願った。




