104.ぞわぞわします。
妹さんがいる部屋まで来ると、先にラファエル様が部屋の中へと入っていった。ノックはしたが返事はなかった。それでも当たり前のように「入るよ」と言って扉を開けたラファエル様。
騎士二人が扉の両側に立っているところに静かに立っているのも気まずいが、それ以上に気まずいのは隣にクライドさんがいるからだと思う。無言が耐えられないと思いつつも、話しかける気力もない。短時間しか話してないけど、ラファエル様と話をして疲れてしまったので気を張りつつも少しでも心の回復に努めた。
ガチャッと音がして視線を上げると、部屋から出てきたラファエル様と目が合った。
「ミオさん、どうぞお入りください」
「は、はい!」
少し控えめに「失礼します」と言いながら入室した。室内はお香がたかれていて、金木犀の香りに似ている。金木犀よりも柔らかい香りだ。
「そのままで大丈夫ですよ!」
辛そうに体を起こそうとした妹さんに慌てて声をかけた。妹さんの体に黒い靄がまとわりついていて、特に胸辺りが濃くなっている。でも瘴気と違うのは、その靄が少し紫がかって見えるということ。
「初めまして、聖女様。 エヴァレット公爵家のシャノンと申します。 聖女様にお会いするのにベッドの上からのご挨拶になり申し訳ありません」
話をするのも辛そうだ。
「いいえ、お気になさらないでください。 私はミオと申します。 聖女様ではなく、ミオと名前で呼んでいただけたら嬉しいです」
「聖女様の名前をお呼びするなんて__」
「シャノン、聖女様はそれをお望みなのだから甘えさせていただくといい」
ラファエルさんがそう言うと、シャノン様は小さく微笑んだ。鎖骨や頬が浮き出るほど痩せてしまっているが、そのわずかに微笑む顔も綺麗で、健康な状態であればもっとお美しいんだろうと安易に想像できた。
シャノン様のベッド脇の椅子に腰を下ろした。
「このお香は神殿の物ですか?」
「そうです。 魔を寄せ付けないお香です」
浄化は難しいかもしれないけど、確かにこのお香が清らかな空間を作り出している。
「よろしければ、手を握ってもよろしいですか?」
「はい」
シャノン様の手を両手で包み込むように握った。ぞわぞわするような嫌な感覚が手からよじ登ってくるようで気持ち悪かった。私は目を瞑ってつながった手元に意識を集中させた。浄化をする時と同じ。ただ、癒すように、綺麗になるようにとイメージをする。手元が温かくなり目を開けると、シャノン様の体がほんのり光っていた。そして体がその光を吸収するようにだんだんと光がなくなっていった。
「具合が悪くなったりしていませんか?」
「具合が悪くなるどころか先ほどよりも呼吸がしやすくて、少し怠さが治まりました」
「もし見ても大丈夫でしたら胸元の模様を確認してもよろしいですか?」
「勿論です」
シャノン様は胸元のリボンの紐を解き模様を見せてくれた。




