103.固定観念は捨てましょう。
ラファエル様はふーッと息を吐くと、視線を上げた。覚悟を決めたような目を見て緊張が走る。
「今からお話しすることは他言無用でお願いいたします」
「わかりました。 なにか……書類にサインをした方がいいですか?」
「……いいえ、ミオさんを信じます」
「妹が呪いを受け、あとどのくらい生きられるのか分からないくらい衰弱しています。 妹を助けるためにその聖物が必要なのです」
「病気ではなく、どうして呪いだと思ったんですか?」
衰弱してるなら不治の病の可能性もあるんじゃないかと思った。もしも病気なら私の作るポーションで力になれるかもしれない。
「呪いを受けた者の胸には黒い蕾のような模様が浮かびます。 そして呪いが進行していくとその蕾は少しずつ花の形へ変わっていき、花びらが開き大きな花を描いた時……天に召されるのです。 呪いは体も心も蝕みます。 いつも笑顔だった妹の顔は苦痛と絶望の表情になってしまいました」
呪い……今までいた世界でも呪いだの怨念だの耳にしたことはあるけど、霊感のれの字もないわたしからしたらそれは都市伝説なようなもので、しっくりきてなかったけど、こうして話を聞くとこの世界では普通にあり得ることなのかと思うと怖くなった。
「何故呪いなんて……」
「妹は王太子殿下の婚約者なんです。 妹が死ねば、婚約者の席が空きます」
「そんなことで呪われたって言うんですか!?」
「ミオさんが今までどのような環境で育ってきたのかは分かりませんが、この世界ではそれほど驚くことではありません。 権力欲に底がない者などたくさんいます」
「呪いをかけた人に目星はついてるってことですか?」
「だいたいはついてますが、証拠がないのです。 せめてどうやって呪いをかけたのか分かれば、もう少し調べようがあるんですけどね……」
「呪いの方法っていくつかあるんですか?」
「私が知る限りでは黒魔術くらいですが、恐らく他にも方法はあるのかと……現在王太子殿下と協力して調べてはいますが、状況はよくありません」
黒魔術……またしても聞きなれない言葉だ。当たり前じゃなかったことがこの世界では当たり前で、今までの常識に縛られていたら大事なことを見逃してしまいそうだ。固定観念は捨てないと……。
「私でお役に立てるなら闇オークションに参加します」
「ありが__」
「ですが二つ条件があります」
「何でしょう」
「一つは闇オークションに行くときには凪も同伴させること。 もう一つは意図的に私と凪を危険な目にあわせないこと、です」
「お約束します」
ラファエル様の声は力強く即答だった。
凪は簡単に信用するなと言っていたけど、今こうして対峙しているラファエル様の姿に嘘偽りは感じなかった。公爵という上流貴族であれば私の都合などお構いなしにもう少し強引に話しを進めることくらいできただろうに、貴族だからと偉ぶることなくただの人として話をしてくれている。そういう姿は好感が持てた。
「もしよろしければ、妹さんにお会いすることはできますか?」
「……妹に確認してからでもよろしいでしょうか」
「勿論です」




