100.心拍数上がってます。
人生で初めての馬車は童話のプリンセスが乗っていてもおかしくないような豪華な外観。いや、ベースのカラーが黒だからプリンセスというよりヴィランズかもしれない。とにかく豪華でお洒落。内装は落ち着いているけど、ふわふわのソファーの座り心地は最高だ。一緒に乗っている人が最悪だけど。
この馬車なら長時間乗っていてもお尻は痛くならないかもしれない。
「そう緊張なさらないでください」
貴方が言います!?
「……誰のせいですかね」
「私のせいでしょうか?」
「さぁ? どうでしょうか?」
「あはは」
こっちは怒ってるっていうのに、ラフィさんは何故か笑い始めて余計腹が立った。
「気分を害したなら謝ります。 ミオさんのように私の前で素直に感情を出す方は少ないもので、新鮮で思わず笑ってしまいました」
きっと上流階級のラフィさんに対して強気な態度や意見を言える人は少ないんだろう。
「今更ですが、なんてお呼びすればいいですか?」
「どうぞ、今まで通りラフィと呼んでください」
「私は平民でラフィさんは貴族ですから、そうはいきません」
「ラフィが呼びづらいのでしたらラファエルとお呼びください」
「ではラファエル様とお呼びします」
「えぇ、そうしてください。 ですが、貴女は私に゛様”などつける必要はないのですよ。 本当であれば私の方が貴女に対して゛様”をつけなければならいのですから」
「それっ__」
「着いたようです」
「どういう意味?」って聞こうとしたらタイミング悪く到着してしまった。ラファエル様は先に馬車から降りると、手を差し伸べた。少し躊躇ったが、その手に自分の手を重ねた。貴族社会では普通のことかもしれないけど、まるでお姫様にでもなったような気分になってしまった。馬車を降りて目の前に広がる大きなお屋敷に圧倒される。ポロック伯爵家を見た時も大きくて立派なお屋敷に感動したけど、ラファエル様のお屋敷はそれ以上で自然と口が開いてしまった。カフェに行くから一応可愛いワンピースを着てはいたけど、それでもここにいると今着ているワンピースですら場違いな気がする。
「お帰りなさいませ、旦那様」
執事らしき雰囲気の人が出迎えてくれた。というか旦那様!?貴族のお家の子供じゃなくてラファエル様が当主なの!?
「光の間に案内を頼む。 大切なお客様だ。 失礼のないように」
「承知いたしました」
すれ違うメイドさんたちは必ず立ち止まり丁寧にお辞儀をしてくれる。こういう待遇は慣れないのでものすごく落ち着かない。歩きながら無意識に握りしめた手は湿っていた。機械を使って測らなくてもわかるくらい心拍数も上がってる。




