10.少しずつ知っていきましょう。
日本のキッチンと似たような作りだったけど、普段料理をしないもんだから悪戦苦闘。簡単料理なはずが結構時間がかかった。
一人で暮らししてて料理できなくて苦労することなかったし、文句を言う人もいなかった。それに仕事終わったら直ぐ食べたくて外食かコンビニご飯だったし……朝はギリギリまで寝ていたかったので、お昼ご飯はコンビニか社食だった。
空腹のピークが通り過ぎてしまった。
「ごめん! お腹すいたよね!!」
トレーにのせられるだけのせて、凪の待つリビングに食事を運んだ。
凪の目の前には食器棚の中で一番大きなお皿を2枚床に置いた。2枚のお皿の上にはこれでもかってくらいステーキ肉をのっけた。多分牛肉だと思う。とっても分厚いやつ。凪はあまり焼かなくていいって言ってたから、焼き加減はレア。
「白ご飯も食べる?」
「食べる」
食べ辛いかなと思って用意しなかったけど、今度からは凪の分も最初から用意しよう。日本出身だから、お米は食べたいよね。
凪のご飯を用意して、私は自分の分の掌サイズのステーキに、サラダ、そしてご飯をリビングテーブルに並べた。
料理初心者の基本料理はとにかく焼くだよね。
手を合わせて「いただきます」と言うと、凪も続けて「いただきます」と言ってくれた。
「あ、美味しい」
お肉は柔らかくて美味しかった。普通に買うお肉がこんなに美味しいのか、それともこれはオクタヴィアンさんが用意したお肉だから美味しいのかは分からないけど……。
「明日この家を出ようと思ってるんだけど、それでいいかな?」
「あぁ、俺は問題ない。 明日出発するなら今日のうちにマジックバッグの中身を確認しておけ。 オクタヴィアン様が色々と追加して下さっているだろうからな」
「そうだね、そうする」
「それと、外ではこんな風に会話などできないからな」
え?何で?
それ寂しいじゃん。
「ずっと無言とか退屈で耐えられないんだけど……」
「厳密に言えば、俺は人前では話さない方がいい。 人語を話せる動物は聖獣、もしくは神獣くらいだ。 そんなのを従魔にしているとバレれば人の興味を引く。 美桜がどこで聖女だとバレるか分からないからな」
魔法だの何だのある世界だから、動物が話すのは一般的かと思ってたけど、そうじゃないんだ。話しておいてくれて良かった。
「話しかけても私の独り言って事になるわけね」
「周りに人がいるときはそうなるな。 だが会話は成り立つ」
「え? 一方的に話すのに?」
「念話を使う」
「念話?」
「心の声を頭へ流し込む方法だ。 俺たちは主従契約を結んでいるから、美桜も俺に念話を使える」
やっぱりファンタジー!
本当にそんな事できるのかな?なんかワクワクしてきた。
心で思ってることを凪の頭に流し込む……凪の目をジーっと見つめた。
フォークとナイフを握ってる手に力が入る。
“「なーぎー!!」”
“「なんだ」”
「わ! 凄い! 本当に届いた! 感動!」
興奮してると凪に鼻で笑われた。
だって凄い事だよ!?ただの一般人だった私がこんな超能力みたいなことできちゃうんだから。
こんなにいい意味でワクワクしたのはいつぶりだろうか?記念日だって勿論ワクワクしたけど、期待と不安で不安の方が大きかった。ま、見事予想が的中して不安一色からの怒り一色に変わったんだけどね。
その日コンビニで買った缶酎ハイを、初めてコンビニの前で一気呑みしたわ。その後の穴に落っこち事件でしょ……そりゃ記憶も曖昧になるわ。
「美桜、本当の名は何という」
「苗字ってこと?」
「そうだ」
「苗字は二階堂だよ」
「こちらの世界では苗字を伏せよ」
「なんで?」
普通大人が初対面で会うってなったら苗字で自己紹介するよね。だってこの歳でいきなり「美桜です」なんて言ったら変な奴……って、そっか。今はもう16歳だし名前で自己紹介もありなのか。って、やっぱ無しでしょ。気色悪い。
「この世界で苗字があるのは貴族、王族のみだからだ」
「え!? そうなの!? まぁ二階堂の姓を捨てたかった私としてはありがたいけど」
「それと真名を知られてはいけない」
「マナって?」
「二階堂 美桜という偽りなき名だ。 腕の良い術者は真名で相手を縛ることができる。 それを回避するため、王族、貴族は名と姓の間に隠し名を持っている」
つまりはミドルネームがあるけど、それは公開されてないってことね。面倒くさい世界。
「じゃあそれ以外の苗字がない人は!? 隠し名とかないんじゃないの!? 操られちゃうじゃん!」
「その通りだ。 悪質な術者に捕まった者は囮りや奴隷にされる例もある」
なんか……一気に食欲がなくなった。
犯罪がない世界なんてないだろうけど奴隷って……怖すぎる。




