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ゴリラの子落とし

 落下する中、特に走馬灯とかは見えなかった。だって産まれたばっかりだから。


 木の葉や枝に、ドサドサと当たり続ける。それがクッションになって多少の勢いはそがれたものの、かくして子ゴリラは地面に直撃した。


 「ウ、ウホ…」


 ぜ、全身を強打して…全身が痛…痛…痛くない。ありえないくらい痛くない。崖は結構な高さだったはずなのに、体をどこも痛めた様子は無い。そしてなんか立てる。ゴリラ、産まれて5分くらいで立てる。この辺は流石に異世界としか言いようがない。たぶんツノも生えてたし俺は動物ではなくて魔物に転生してしまったんだろう…


 そして本能で理解する。成体になったら崖を登ることを。


 本能が叫ぶ。崖の上は小さなゴリラにはあまりにも危険すぎると。


 本能が疼く。周りの獲物を仕留め、自分の生きる糧としろと。


 この感覚は人間であるときの直感というよりは予測に近い。ボールの放物線は地球の物理法則に従い描かるように。これは世の法則で、()()()()()()だと分かる感覚。それと、人間の頃の眠たい食べたいお姉さんとチョメチョメしたいという欲求の感覚にも近い。それを足したようなものだと感じている。


 本能に従い、まずは獲物を探す。

 あたりは鬱蒼と茂ったジャングルのようだった。ようだった、というのは時々エグいくらい捻れてる木に見たこともない形の実がついていたり。この世のものとは思えない生き物の鳴き声が時々聞こえてくるからだ。

 そして、なんか木に登れそうだったので木に登ってみる。指が良い感じに木にかかるので、めちゃめちゃ木に登りやすい。

 小学校のときは気に登ってドラミングを披露するのが鉄板のパフォーマンスだったので木登りは得意だったけど。人間の頃とはなんというかレベルが違う。めちゃめちゃ早く登れた。

 次になんとなく木を渡れそうだったのでうんていみたいに木を渡り移動する。これもめちゃめちゃ指がかかる。そして片手で悠々全身を支えられること気づいた。めちゃめちゃ腕力ある、すげえ。


 赤い木の実が目につく。リンゴのような綺麗な赤ではなく。どす黒い赤。とりあえずもぐ。そしてかじる。硬すぎたので歯が立たなかった。歯がもう生えてることには目をつぶってやろう、魔物だものな。


 試行錯誤して奥歯でかじろうとしてみたり、近くの木に叩きつけて見たりしたけど、ヒビすらはいらなかった。ちなみに、ツノにぶつけてやろうと思ったけどまだツノは生えてなかった。


 そして握って色々やっているうちに前世の本能が疼き出す。


 ピッチャーとしての本能が。


 ピッチャーという生き物は手頃な丸いものはついついニギニギしたくなってしまうし、投げていいなら投げたくなっちゃう生き物なのだ。

 そしてこのどす黒リンゴ。ちょうどいい。かなり綺麗に丸いし、重さもずっしりしているが重すぎず軽すぎず、ちょうど硬球のようだ


 そして本能に抗わずに地面に降りる、腕を後ろに引く、が思ったよりバランスがとりにくかったので左手は木に捕まっておく。


 体に力は入れない。もう一度腕を後ろに引き、腕を顔の横まで持ってくる。そして思い切り腕を振り、リリースのときの一瞬だけ力を込める。


 ビュッ、と腕が風を切る音と共にどす黒リンゴが放たれる!


 バキィッ!!


 木の幹にどす黒リンゴは直撃し、若干めり込んだ。どす黒リンゴが硬すぎる。


 そして、ゴリラ、驚愕する。

 

 ピッチャーをある程度やっていれば、投げたボールの速度が大体何キロくらいだったのかは感覚でわかる。


 明らかに150キロ以上は出ていた。人間時代に右の本格派、速球が自信の投手としてブイブイ言わせていたがそれでも最高で147キロだった。

 

 それを、このゴリラの体では下半身をほとんど使わない手投げで、この小さい体(母ゴリラ比)で投げてしまったのだ。


 まず、筋力がおかしい。明らかに人間のときより筋力の付き方が良いのは明らかだけどそれにしても筋肉の量以上に馬力が出ている。もしや魔物と言うだけあって魔力のようなものがあるのだろうか…?そうじゃないとこのパワーに説明がつかない。


 そして腕がめちゃめちゃ長い、腕が長いってことはそれだけ力を長く伝えられるということなので長いほど強い球を投げられる。


 あと多分だけど握力、この超パワーですっぽ抜けずに投げられるってことは多分めちゃめちゃ握力が強い。自分ではわかんないけどヤバそう、ゴリラは握力すごいらしいしね。 


 肩の可動範囲は、人間の頃とあまり変わらなかった。普段からよくほぐしていたので、人間の頃のほうが若干柔らかいかなというくらい。 


残念だったのが指。親指が想像以上に短かったのでリリースが若干チェンジアップ気味になってしまった。でも、チェンジアップはタイミングを外す為の球速の遅い変化球なので、それであの球速が出てるのはヤバい。


 これは、鍛えてこの体に適応すれば恐ろしいことになるかもしれない。

 人間のとき以上に、良い球を投げられるかもしれない。

 ゴリラになってまでなんでって自分でも思うけど、それがピッチャーという生き物なのだ。今はゴリラだけど。


 それに狩りとかにも使えそうじゃん?うん、狩りに使おう。





 かくして、俺のゴリラとしての人生、いやゴリ生が始まった!

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