転生
「ここは…どこだ…?」
そこはあたり一面が光につつまれたような、真っ白なような、色のついているような、ぼんやりとした空間だった。
「こんにちわ、藤巻球児さん。」
光が集まってなんとなく形を成した、不定形な存在が語りかけた。
「なに…これ…?」
「あなた方の言う、神という存在ですね。」
「神…?ここはどこで…ハッ!試合は!決勝戦は!どうなったんだ!」
決勝戦の試合の途中だったじゃないか!試合の9回までの記憶はしっかりある。でも最後の記憶が無い。
「試合は、中止になりました。事故で。雷がグラウンドに落ちたんです。」
「中止だって?!再試合はいつだ!はやくここから出してくれ!」
「それは…できません。貴女は既に死んでしまっていますから。」
「は…?死んで…?」
その言葉で思い出した。自分が投球しようとした瞬間に視界が真っ白になったことを。
「ええ、雷が直撃でした。でもあなたのチームメイトは多少の怪我はあれど無事でしたよ、後遺症も無さそうです。」
「それは良かった…いや良くない。死んだっていうならここはなんだ、俺をどうするつもりだ。」
チームメイトが無事なのは良かった。ショートとレフトは2年だし、ライトは1年だ。あいつらにはまだ次の年がある。
「いわゆる…転生です。あなたを転生させてあげます、異世界に。」
「なるほどな、でも何で俺だけなんだ?他の死んだ人にも全員こんなことやってんのか?」
嘘みたいな話だけど、現実こう言われてこんな場所にいるのだから受け入れるほかない。
「いえ…無作為に抽出した人です。地球の人間の概念に当てはめて話すと、世界の魂のバランスを保つため。といったところでしょうか。正確な表現ではないんですけどね。」
「そうか…話はわかった。それで、どんな能力をくれるんだ?」
「特にそういったものはありませんよ。そもそも記憶も残りませんし。」
「は…?じゃあ何でわざわざ呼んだんだよ!」
こういうのはおチートな能力をもらって無双してハーレムするのが定番じゃないのか?
オタクなチームメイトから進められた異世界転生の話に見事にハマってしまい、一時期オフの日などは狂ったように見ていた。
「せめて最後に来世はどんな種族で生まれるかくらいは聞いてあげようと思って、こちらの都合で転生させるわけですし。」
「その言い方だと人間は駄目なのか?」
「駄目です、魂のバランス的に。動物や向こうの世界にいる魔物に転生させます。人に親しい種族はだめですね。動物や魔物に転生させると、魂が拒否反応を一時的に起こすのでその結果記憶が残らないということですね。別にわざわざ消したりしませんよ。神は慈悲深いので。」
動物や魔物か…まあ、そう言われてしまえばしょうがない。人間、こういう場面になると逆に諦めがつくものらしい。
「あ、でも魔物には進化がありますよ、進化を繰り返せば人に近い、人にはなれませんがコミュニケーションをとることくらいは可能になるかもしれませんね。」
「なんだと!それじゃあ魔物で霊長類っぽくてできるだけ強い奴で頼む!」
人に近づけるのなら、そうしない理由はない。
「わかりました。まあ貴方の記憶は無いんですけどね。」
そうだった…もう俺じゃない俺なのか…まあいい、来世の俺、せめて文化的な生活を送ってくれ。
「それじゃあ条件に合致する…これですかね。はい、それでは行ってらっしゃい。」
神がそう言うと、俺は光に包まれて。意識と共に、消えた。