第一章7
空は、ミリアと出会い、そして....
少女を家に戻すのに実は、二時間ぐらいかかった。好奇心というのは、末恐ろしいものである。
事あるごとに、「あれは、何?」「これは、何?」と聞いてくるんだから、たまったもんじゃない。
空は、「休み、休みの日に案内するから、今日は、かんべんしてくれぇぇぇッッ!!」と強く念を押したはずなのだが、気になる所にフラり、クラり、完全に、自分が機凱種ということも忘れて動き回っているミリアについていけなくなっていた所、ようやくミリアが大人しくなったのだった。
「はぁ~。どうしてくれるよ、授業めちゃくちゃ遅刻なんですけど...。やっぱ、下に降りたのが間違いだったのか。俺が悪いっていうのか...」
世の中の理不尽を訴える空だが、もちろん誰に届くわけでもない。
ベンチに座って、ブツブツ一人事モードに入りかけていた空にミリアが声をかけるまで、少年は何も考えずボーっと座っていた。
「ごめん、空。興味が湧くと止められない主義で...つい」
反省の色が見えないその言葉に、空は調子狂い、ミリアに説教しようとしていた気持ちも失せたが一応は、説教しとくことにした。
「止められない主義で...つい、じゃねぇぇぇッ。ミリアさんまじミリアさんだぞ。ほんと、時間ないって時にしごとふやすなぁ」
「...ミリア、ミリアって照れるじゃない」
目をパチパチして、頬を赤らめるミリア。こいつは、本当に一発ぶん殴らなければならないのではないかと空は心に思うのであった。
二人が、家に近づいた頃、防衛都市の散策を一度、断念したミリアはこんなことを言っていた。
「おなか減った」
「まぁそうだろうな。あんなに、はしゃいでいたんだから」
「何か食べたい」
「何作るかは決まってんの?」
「てきとーに作って~~」
「人任せかよッッ!?じゃ、...じゃあ無難にチャーハンでも作るとするか~」
なんやかんや言って使われるのがうまい空であった。
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「瞬間移動」
ミリアに食べながら見送られ、空はようやく教室にもどってきた。ちょうど、昼休みにさしかかった頃で、午前中の授業はもう終わっていた。
「黒城くーん。ここにいたのですかー」
ミニアム先生、小上先生は、空に出席していなかった間の授業プリントを持ってきてくれたようだった。
「ありがとうございます」
プリントを受け取った空は、自分より小さなその先生に一礼して、教室に戻っていった。
「どういたしましてなのです」
そう先生は明るく返してくれた。
席に戻ると、自席は例の転校生の二人に囲まれていた。
「あ、転校初日から事件起こしていたひとだー」
棒読みで嫌味を言う左の席の少女は日向と呼ばれる少女である。
「俺が起こしたみたいに言わないでくれ、ガラスの心にヒビが入るぞ」
空が、そう、軽く返すと今度は右の席から黒髪のストレートの少女がこう問いかけてきた。
「あ、あのぉ....私、自己紹介してもいいですか?さっきは、言わせてもらえなかったけど...」
「それに関しては、本当にすまん。ほんと、悪かったです」
席に着くやいなや、二人の少女に責められる空。もう一人の転校生が千早 唯という黒髪ストレートの少女であるということをこの時まで知らなかった空であった。
「はぁ、散々な目にあった....」
昼ご飯を食べる時間さえなかったうえに、二人の少女に拘束されていた空は、言葉で表せないほどくたくただった。
ようやく、次の休み時間に入って、それから解放されたのだが、いまいち、自分が悪いと言われる所以が分からず、疑問に思っていた空に、今度は二人の少年が近づいていた。
「よぉ、向井、鳥山どうしたんだ?」
「空....」
「単刀直入にきくにゃー、空。ロリッ娘と巨乳のお姉さんどっちが、たいぷにゃー?」
空の元に訪れたのは、黒髪のいかにも真面目そうで気弱そうな少年と青髪のグラサンの少年である。
二人ともこの議論だけで、二時間も話し続けていたそうで、これでは埒が明かないから、第三者目線の意見が欲しいということらしい。
「いいか、空。ロリは最強なんだにゃー。可愛らしさ、愛らしさともに完璧、これは、どのゲームでもどの小説でも決まりきってることなんだにゃー。なかでも、妹という存在は神なんだニャー」
ちなみに、この語尾ににゃーをつける癖の強いしゃべり方をするのが、青グラの鳥山である。
「そんなことないですよ。あふれんばかりの胸に顔を揉まれることこそ、男の理想なんです。それに、可愛らしさ、愛らしさだってロリッ娘だけのとっけんじゃありませんよ。巨乳のお姉さんの中にはドジっ娘とか色々含まれるんですからッ!!」
なんでドジっ娘まで入ってるんだにゃーッ!? 入れちゃダメなんてルールありましたかー?とかガミガミ二人で言い争い勝手に掴み合いまで始まって、入る所を見失い眠りこくっていた空は、寝言のようにこう言った。
「いや、どっちでもいいだろ...。どっち相手するのも大変そうだし...」
その後、空は無理矢理起こされ、二人にヘッドロックされながら教室に帰ってきたという。
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キーンコーンカーンコーン....。ようやく、授業は終わり、空は機能科に向かっていた...とは言うものの瞬間移動を不完全ながら取得したため五〇kmという距離をわずか一分で着くことができたのだが...。
「黒城空、ただいま到着しました...ってあれ?」
遅刻には慣れているが、今日はかなり早く着いたはずだった。そして、この時間でも人はいるはずだった。
だが、その機能科の拠点には空以外誰も存在しない。
つまり、緊急事態。ほとんどの戦闘は戦闘科が片付けるが、ごくたまに、戦闘科から、救援を要請されることがある。今日はそれに、当てはまった。
一つだけ稼働しているシステムメインコンピューターに映される要請内容はこうだ。
『強敵確認。現在確認されていない型の機凱種を発見した。形は、人間に近いと思われるが定かではない。今のところ戦闘意欲は一切ない。逃避、抵抗もない。だが、危険性は極めて高いと思われるため、一八時三〇分総攻撃を開始する。故に、機能科全科員を要請する。場所は第三学区D-31』
空は、急いで、機能科を飛び出した。一八時三〇分まで残り一四分。
空は、記載されている機凱種はミリアだとすぐ感じ取った。第三学区D-31、それは、空の家からそう遠くないビルの一角のことである。
好奇心旺盛な彼女の目に留まらないはずがなかった。
『瞬間移動』を巧みに操り、壁から壁へと移動を続ける空は、機能科のある第一九学区から直線距離で五〇〇km離れた第三学区に向かう。
消耗の激しいこの能力は、やはり自分には合ってないなと思いながら限界ギリギリまで使いこむ。
本当は、助けなくてもいいのかもしれない。助けてやる義理など機凱種にはないのだから。
「でも、そういうわけにもいかねぇんだよなッ」
短い時間、ほんの一日や、二日の出来事...でも...嫌いになれなれなかった自分がいた。ちょっと変な奴だけど、助けて良かったと心の底から思えた。今まで、自分が殺してきた奴らだけど、人類の敵かもしれないけど、でも、それでも。
「待っていろ、今、行くから」
終わりは、突然にやって来る。でも、それをどうこうできるわけじゃない。だから、その後が大事なんだ。起こってしまったことを、何とかする方法を見つけ出すんだ。
だから、どうかそれまで、敵でいないでくれ、そう願い空は夜の街を駆け抜ける。
どうも、おはこんにちはこんばんは、里道アルトです。意味ありげに書いたけど、前書きに特に深い意味はありません。ごめんなさい。
ようやく第一章完結です、あ、別に小説自体終わるわけじゃないので、また、見に来てくださいね。
自分なりにもう一回この小説を振り返ると展開はやと思いました。もうちょい、いらんこと書いても良かったのかなという感じですね。ちなみに、自分が個人的に好きなキャラは瞬間移動の少女です。後編、大活躍なので、注目して見てくれると嬉しいです。まぁ、第二章出すのもっとあとになりそうだけど...。
というわけで、ここまで見ていただけたことに感謝申し上げるとともに、次話を楽しみにしてくれると幸いです。
次話、またお会いしましょう