第一章5
すみません。あと、二話分は、第一章の内容になりそうです。
早く書けなくてすみません。
「遅い、遅刻だぞ?」
真夜中、強めの口調で叫ぶ少女の名は、蜜海 千里。
『機能科』の科長であり、防衛都市の次席。『非戦闘科』でありながら、『戦闘科』の仕事を回される実力派の黒髪ロングヘアの少女で、武器の日本刀と鋼糸を駆使して戦う防衛都市に四人しかいない五重能力者である。
そんな彼女がいる場所は、海の見える工場跡だった。
そこには、工場跡の他に光る円が無数にあった。それこそが、機凱種が通る門である。
「遅いって、次席が早いだけじゃないのか?『約束』は守るつもりだけど、俺は元々戦闘は苦手だし....」
そんな場所に、空はいた。
すでに、四〇体程の昆虫型機凱種の残骸が空の足元に転がっていた。次席がやったものだが、敵は次々に出現してくる。敵に容赦というものはないのだ。
「まだ、閉じないんですね」
「あぁ。だから、今日も派手にやるぞ。一匹残らず殲滅するために」
「俺、単能力者なんですけどねえ...」
空は、鋼糸の上を歩いて、工場跡の二階に到達する千里にあきれながらそう言う。
「単能力者と言いつつ、その領域は完全に超えてる能力を持ってそう言われてもなぁ...。さては、サボりたいだけだろ?」
二階から、空を見下ろしながら千里は空に核心を突く一言を告げる。
「バレてましたか?」
「当然。もう長い付き合いだろう?」
気の乗らない感じで空は、ミリアの髪飾りに似たものを耳元につけ始めた。
敵は、もうすぐ、目前まで迫っていたが、彼らは、怖気づかない。
「また、新しいのを作ったんだな?」
空中に鋼糸で足場を作る千里がそう呟くと
「新品なんで、なじんでないけど、こいつらで、性能を試すことにしますよ」
空は、そう言って、天を翔けた。
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「リロード」
ガチャガチャガチャと右手に持つ銃に弾丸が自動で追加される。その間にも、敵は迫ってくるが、
「ブレード」
空の掛け声と共に、もう片方の銃が、変形し鉄の剣となり、ギリギリのところで機凱種の動きを抑え込んでいた。
空が生み出した武器『ブレードガン』。その名前の通り、二つの武器の能力を兼ね備えているそれは、白黒の二つのデザインしかなく彼専用の武器である。
ブレードの掛け声で、剣に、ガンの掛け声で銃に、リロードの掛け声で、弾が自動で追加されるしくみになっている。
基本の基礎としている武器は銃なので、弾を打つには、引き金を引く必要があるが、本人曰く大した問題にはならないのだという。
「重力付与、氷結付与、........」
そう口走りながら、地面に向かって二発、弾を打つ。
すると、飛んでいた全ての昆虫型機凱種は地に落ち、即座に氷漬けにされ、自由を奪う。
「発炎」
その一言が、キーとなり、防衛都市の片隅で光がはじけた。
「ありがとう、空。おかげで無事、門は閉じたよ。やっぱり、『戦闘科』に入っても申し分ない強さだな」
それは、暗に『戦闘科』に入ればいいのにという意であるが、
そう言った千里の周りの方が、機凱種の残骸が多かった。
「いや、自分の能力は消耗が激しいので、遠慮しときます」
「能力をそのまま『創造』する能力、そうそう見ないというか、君しか持ってない能力だろうに、消耗が激しいとは悲しいな」
「それを抑えるためのこれだったんですけどね、どうやら、用途は違うみたいだったみたいです」
空は、耳元につけているオブジェを触りながらそう言った。
あれほど、猛威を振るっていた機凱種の影も形もない。
誰にも与えられていない任務をこなした二人は、また、お互いの帰る場所に帰っていく。
もうすぐ、夜は明ける。そして、いつもの日常を続けるため、彼らは戦うのだ。
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実は、寮に住むのが当たり前とされるこの防衛都市では、自分の家を持つこと自体珍しいのだが、彼はまた、そこに帰ってきた。
空は、扉前でボーっとした頭を起こし、何とか、扉を開こうとするが、家の鍵がどれなのかも判断が着かない状態にあっていた。
家の扉前で、ウロウロすることしか、できない空。
そんな空に、救世主が来るまでにそう時間はかからなかったが、空はその一瞬が、永遠にも感じた。
「お帰りなさい、空」
彼の救世主ミリアは、そう空に声をかけた。
寝ぼけたように、目をこすりながら、それでも、何も言わずに外に出て行った主人を向かい入れるように、優しい声で、彼女はそう言った。
こんな事で泣くのはおかしいかもしれない。それでも、空の瞳からは、透明の液体が流れだしていた。
やっぱり、ミリアを助けて良かったんだと、自分のやったことに間違いはなかったんだと、空は、心底そう思った。
そして、彼の意識はそこで、途絶えた。
気づけば、自分は、自分のベッドの上にいた。
毛布をかぶって寝ていた。
どうやら、ミリアが、毛布をかけてくれていたようだ。
朝の目覚まし時計は、七月一九日木曜日午前八時三〇分を指し示していた。八時三〇分を指し、、、、
「っていうか、普通に今日学校あるじゃねぇかッッ!?」
昨日の疲れもまともに取れないまま、ベッドから、起き上がると、空は、急いでクローゼットから、制服を取り出し着替え始める。
ちょうど、その頃、ミリアは、カーペットの上で目が覚め、あくびをしながら、窓の外を眺めぼんやりしていた。
機械に、疲れがないなんていうのは、人間が勝手に決めただけで、寝ることもするし、疲れは、明確に存在する。
「それじゃな、行ってくるわ」
そんなミリアに構う暇もなく、口にメロンパンをくわえたまま家を出る影があったが、彼女は気にしない。
外を見て、彼女は、こう感想を呟いていた。
「あぁ、青い空、目覚めのいい朝だぁ」
置いて行かれていることさえ、彼女は、気づいていないのである。
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登校時間八時四〇分のギリギリ、三〇秒前に空は、教室の机に座っていた。
本来なら、間に合う時間ではなかったのだが、
「ふぅー、何とか、間に合ったかー。ほんと、(....瞬間移動の扱いは、難しいなぁ。まぁ、特にそっちを専攻してないからだけど、朝からこの労力はマジ半端じゃねわ....)」
最後の方は、早口で何を言っているのかも分からないが、言えることは一つ、彼は能力『創造』を行使して、本来生徒一人一人が持つ固有の能力の一つを取得したということである。
ある程度の条件が、重ならなければならないとはいえ、実質、空は、全ての能力を操ることができるという仮説が立てられている。あるいは、防衛都市の全機能の全てなどと噂を謳うものさえある。
それが故に、自由は許されず、権利だけが、先を行く。『家』という箱庭が与えられ、そこから、彼を縛る日が続く。
やがて、彼は、そんな場所に嫌気が差して出ていこうとするが、後に機能科という組織になる者達に引き留められ、結局、離れることができなくなる。
自由を手にする日は遠い。憎悪と混乱の侵攻が終わる日が遠いように。
いつになったら、このうるさい警報が鳴りやむのか、人はそれだけを考え今日を生きる。
今日も、英雄は顕在らしい。
スポットを変えて、空の箱庭『家』。
ミリアは、空が持って行き忘れたスマホを勝手に触り、画面のロックをさっそうに解いていた。
こういうのは、お手の物といった感じで、ミリアは、そのスマホから、ニュースを朗読していたが途中でようやく気づく。空がいないことに。
「あ、れ?そういや、空いつ帰ってくるんだっけ?っていうか、わたしの食事はッ!?」
空の不在よりも、自分の昼食のほうが、心配されるという悲しき状態ではあるが、ミリアは、おどおどしながら、結局、家から出て、空を探すことになる。
わずかに残る、彼の因子を追って彼女は、街を歩く。