第一章2
散々な一日だった。本気でそう思う。
仕方なく近くのレディースへ行ったのだが、同じ『機能科』所属の女子にバッタリ会ってしまうわ、そこから、走ってまた違うレディースに行っても同じ集団に会うわ......。全て、フラグ回収していく空であった。
はぁ~、『瞬間移動』とか無くなっちまえばいいんだ...。
そう思いつつも、右手には、女物の下着、左手には、女の子用の服があり、目的は達成した空。サイズが合っているかなど知ったこっちゃないのであった。
そうして、白い目を向けられ、断定「変態」の称号を得た空は、ようやっと家に帰ることができた。
「ただい...」
ま、言う前に鋭い鉱物の先端が首に当たるか、当たらないかの所で止まる。
それは、今だ裸の、ピンクのショートカットの少女から突き出されたものだった。
「接続 人類種 あなたは、どうして私を助けたの?」
声が、機械音だがしっかり聞き取れる日本語で彼女は話す。
「私が人類種を殺した『モノ』だと分からない訳じゃないでしょ?」
鋭い鉱物、鉄の槍に近い形状のそれを、さらに首に押しつける。対する少年は、
「まずは、服着てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
必死に叫んで懇願するものの、少女は首をかしげるばかりだった。
***********************************
少年が彼女を背負っていた時、背中にゴツゴツした感触があった。
もちろんプニッとした感触も確かにあったから、判断に迷ったのだが、家に到着して全身を一目見て分かった。少女が人間じゃなく機凱種だということに。
そうだというのに、彼は、少女が目覚めるのを待っていたのだ。下手をすれば、自分が死んでしまうという状況に陥っただろうに、彼は、いずれ命を奪うであろう機凱種を殺さないで、防衛都市に引き渡さないで、自分の家に匿っていた。
それは、単なる一時の心の揺れなのか、あるいは........。
「ふく?ふくとは何ですか?」
困惑する少女は、その姿をおかしいと思っている様子もない。とにかく、その少女の手を引いて家の中に入る空。
彼女の手から突き出された鉱物の先端も手を引かれている間に閉じたらしい。どうやら、思考と戦闘を同時に行える類ではないらしい。
家に入った空は、両手に持っている女性服をその機凱種に見せ、こう言う。
「服っていうのはだな、肌身を隠すものなんだよ。俺たちの文化が機凱種の文化にあるかは知らねぇが、その恰好はかなり変なんだ。この、服ってんのを着て生活するもんなんだよ、人間は。っても、俺も、女服の着替え方なんか知らねぇから、自分で適当に着替えろよ。着替えるときは、あっち向いとくから」
こういう所、空は紳士的であるといえるのか。まぁ、そもそも裸だから関係ないのかもしれないが。
少女は、空の買ってきた下着をさわり、興味深そうに眺めて、数分後着替え始める。
「着替えたよ...」
少女がそう伝えると、空は振り返り、少女の方を見る。
そして、そこには、パンツを頭に被り、ブラをつけずに、上服をブラ替わりに巻き、スカートだけきちんと履いている変態さんがいらっしゃた。
空は、数秒間その場で固まると窓に向かってこう叫ぶ。
「全体的に違うッッッ‼」
***********************************
その家には、空と少女、二人だけ。少女ができないとなれば、必然的に誰が、少女を着替えさせるのか決まっているのだが、肝心の少年はへっぴり腰であった。
「ヤダよ、ヤダ。無理だもん。こう見えても、俺は高校生二年なんですー。同い年に見える少女の裸とか爆弾でしかないんですー。
機凱種?知らねぇよ。だから、どうしたんだよ。機凱種だろうが、人間だろうが、女の子ってことに変わりねぇじゃねぇか。女の子のデリケートゾーンなんて、思春期が見ていいものじゃねぇんですッッッ!!!」
一人討論した所で事態が好転するわけではない。何を言っても無駄だと感じた空は反抗する気さえ奪われ、結局、全部着替えさせる羽目になった。
全てが終わった頃には、空の理性はボロボロに壊れて跡形も無くなっていた。
***********************************
「話を戻そう空」
「なんで俺の名前知ってるんですかねー。別にいいけど.....」
戦う気力 隠す気力を奪われている空とようやく服を着た少女は家に入ってすぐのリビングで座っていた。相変わらず、鉱物の鋭い部分を向けてくるその少女に空は、一つ提案していた。
「あの~、そろそろ、その危ないモノしまってくれない?」
「どうして?あなたを自由にしたら、私の尋ねることに答えてくれない可能性が高くなるだけ。私に利点がない....」
彼女が言う事は確かに正しい。空は、そのつもりはないが、せめてもの反抗する奴が防衛都市にいないとも限らない。そもそも、あの廊下に倒れていた理由は十中八九防衛都市の防衛システムであろう。
「でも、そのままじゃ話せねぇぞ。自分が殺されるっていうのに、冷静に話せる奴なんかいねぇんだから」
空がそう言うと渋々といった感じで、その武器を体のなかに仕舞う。
「これでいい?」
「あぁ、うん。あと、あんまり人前でそれを出すのはまずいと思うから。忠告はしとくぞ。 それで?質問って何なんだ?」
「私を助けた理由、聞かせてもらってない。私は、機凱種。あなた達を殺したモノ。それは、あなたも分かってると思う。普通なら殺されているはずの存在。なのにどうして、私を助けたの?」
真面目な顔で話す少女。そこには、不安や戸惑いが表れていた。この行為には裏があるのではないかと。
そんな彼女の顔をまじまじ見つめ微笑をこぼしながら、空はこう聞いた。
「そんな簡単なことでいいのか?もっと、深い事を聞かれるのかと思ったけど...」
それでも少女の顔は一瞬たりとも変わらない。本当にその理由だけを求めているのだと知った空はさらに大きく笑い、一拍置いてそして、こう答えた。
「俺がそうしたいと思ったから。ただそれだけ。大それた『理由』なんてない。もしも、それが敵であっても俺は自分のやった事を後悔なんかしないって決めたんだずっと昔に」