最低だな。おまえ
なんで俺が、こんな目に遭わなくちゃならないんだ…
俺はここに連れてこられた時点ですでに意識は朦朧とし、全身血まみれであった。
好きな男の手によって…
1週間前まで俺はごく普通のサラリーマンをやっていた。夢もなく、将来に希望もない。周りがどんどん結婚していく中ですら、焦りも生まれず、家族が欲しいと思った事は一度も無かった。
元々そういう人間なんだと思う。
愛に飢えている訳でもなく、誰かと繋がりたいとも思っている訳でもなく…。
自分のしたい事が分からなかった。
今更誰かと…周りの人間達と同じようにはなれないのだろう。
一度だけ中学生の頃に見たアニメの影響で、自分の人生に対して、もっと熱くなりたいと思った事もあったが、自分に期待する分、何もやらない自分に心底あきれた。
そんな俺は他人にも興味がなかった。
自分を産んでくれた両親にも特に情はない。
だから、外出の誘いも全て断った。
今では音信不通の仲だ。
自分が高校生の時、いわゆるカツアゲにあった時に、助けてくれた人がいた。格闘技をやっているらしい彼は、困った時はお互い様と言って去っていった。
俺はただその背中を見送った。
後々、助けてくれた彼が同じ高校の先輩とわかった。
だが、ただそれだけだった。
恩なんて微塵も感じていないようだな思った。
自分の事がわからない。
他人の気持ちの方がまだわかりやすい。
俺の行動、発言に対して不愉快だという他人の気持ち。
あー、〇〇お疲れー!
今日同期で飲みに行くからお前も来るだろ?
悪い、さっき仕事が増えてしばらく帰れそうにないんだ。また、次誘ってよ。
お前何ミスしたの?俺で手伝える事あるなら手伝おうか?
いやいや、そんなんじゃないから。新しい取引先の書店の店長、色々注文多くて大変なだけ。
そうなの?なんか、お前いつ誘っても仕事仕事で全然来ないから、大変なら他のやつにも回してもらうなりしろよ?
あは、ごめんな。
でも俺、この仕事好きだから。それにこうやってお前が気にかけて話しに来てくれるだけで、十分ストレス発散になってるからさ。
なら、良いんだけど。
何か悩みがあったらいつでも相談しろよ!
ははっ、その時はたのむよ。
じゃあな!
俺の同期の市原だ。
よく話しかけてくるし、飲みに誘ってくるので面倒だが、会社での評判は悪くない。
変に荒波を立てる必要もないが、親しくなるのも面倒くさいので、俺は毎回このように市原の誘いを断っていた。
彼も恐らく俺が断るとわかっていながら誘いに来てる。
俺は基本、人とは必要最低限のことしか話さないので、こうやって笑いながら誰かと話すのはこういうプライベートな誘いの時だけだ。
上司のくだらない冗談にも苦笑い一択の俺だ。
こうやって普通に話すのが物珍しいのかもしれない。