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ヒーローズコンセプト ー機械仕掛けの囚人たちー  作者: アンギットゥ
機械仕掛けの囚人たち
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第18話 ムーブメント攻略戦2

 インタグルドの中央ブロックには多数のブリーフィングルームがある。

 広さは二十畳ほどで、簡易的なパイプ椅子がぎっしりと詰め込まれただけの代物だ。簡易的だがインタグルドらしい。無駄なことには余計なコストを掛けないのがインタグルドのやり方だ。

 その第二十五ブリーフィングルームの最前列に、飛鷹は座っていた。

 スワーラからの十五分前にスワーラからの通達があり、コマンドルームからここに移るように言われたのだ。


「決戦か——」


 第二十五ブリーフィングルームで飛鷹はぽつりと呟いた。

 旧ザ・クロックとの決戦前に空気が似ている。

 戦術部の半数以上の部隊が常に出動しているのに、現在出撃しているのは半数以下だ。

 中央ブロックには多数のブリーフィングルームが用意されている。そのほとんどは普段使われていないのに、全て使用されているのが、吹き抜け構造ゆえに確認できる。


 スワーラが会議に出ると言ってから五時間が経過している。いままでも会議は行われていたが、長くても一時間ほどだ。会議はダラダラやればいいというわけではないから簡潔に澄ましているはずだが、普段の五倍の時間が費やされているのだから大事な内容——やはり、決戦以外には考えられない。

 スミーヴァ本隊のメンバー全員と第一小隊から第四小隊の小隊長、副小隊長、下士官といったスミーヴァの中核を成すメンバーが集められている。

 これも決戦だと思う根拠のひとつだ。


 イレブン・オーのどこと決戦をすることになるかはわからないが、どこであったとしても大きな損耗は避けられないだろう。

 飛鷹は集められたスミーヴァ中核メンバーを見渡す。

 普段は顔を見せることのないメンバーは、この三ヶ月のなかで何人も入れ替わっているはずだ。

 同じ戦場で戦っているはずなのに、互いの顔も知らない。パワードスーツを装着して戦っているゆえに顔がわからないのは、いまの時代を象徴しているのかもしれない。


 SNSで顔も知らない相手と交流し、親友と呼べる間柄になるものもいるという。はたしてそれが本当に親友なのか? 判断する材料を飛鷹は持ちあわせていない。

 ただ同じ戦場で戦いあった仲間には親近感を抱くのは確かだ。例え顔が見えなかったとしても、一緒に視線を乗り越えてきた事実は変わりない。

 そんなことを考えていたら、スワーラが会議室から二十五ブリーフィングルームに来た。


「明朝の八時。ザ・クロックの本拠地、ムーブメントの攻略を開始するわ」


 スワーラは開口一番に告げた。


「いきなりだな」

「情報部がザ・クロックの本拠地を発見したのよ。ハワイ本島から北西に二百キロ。通称、ムーブメント。ザ・クロック事変で最初に攻撃された人工の海上都市ね」


 スワーラが立体マップを表示する。

 高いビルが幾つも並んでいたのだろうが、全てが破壊されていた。

 廃墟だ。


「旧ザ・クロックが腐敗の象徴として名指しで非難していた場所だな」

「ええ。主立った租税回避地——例えば、ケイマン諸島などが国際的な非難を浴びて税制の見直しを迫れれたため、新たな租税回避の地として建設されたわ。腐敗の象徴なのは間違いないわね」

「よくもまあ。そこまで税金を払いたくないかねえ、金持ちってのは」

「面の皮が厚いのよ」


 スワーラは呆れ顔で言う。

「旧ザ・クロックの攻撃を受けて壊滅したあと、放置されていたわ。タックスヘイブンを目的として建設されたことも世界に周知され、都市として再開するわけにはいかなかったからよ。

 そんな状態である企業が格安でこのヘブンを買収したのよ。その企業は実態のないペーパーカンパニーで、詳細は不明。情報部もお手上げだそうよ」


 情報部があったんだよな、と飛鷹は思った。

 情報部があるのは知っていた。しかし情報部とは交流がなく、彼らが普段何をしているかも知らない。インタグルドの隊員だから優秀なのは間違いないと思っているが、名前が出てくることもなかったのですっかり忘れていた。


「ムーブメントは人目につかない以上に価値のある場所だったのよ」

「海底資源ですか」


 エルヴァが海図を眺めながら、頷く。

「公海にも未開発のレアアース鉱床がいくつもありますが、ちょうどヘブンの位置にも鉱床があったはずです」

「さすがね。ザ・クロックがここを本拠地としたのは、真下に海底鉱床があるからと推測されるわ。クロックロイドを秘密裏に大量生産するには最適な場所なのよ」

 クロックロイドの生産設備を整えてしまえば、無限の兵力を作り出すことが出来るということか。ザ・クロックの本拠地としては、これ以上ないほどの最適な場所だ。

「クロックロイドの生産設備があるため、どれだけの戦力がいるかは未知数よ。情報部が威力偵察を行ったけど、総戦力がどれほどかは把握できなかった。首魁のグランドコンプリケーションと無数のクロックロイドがいるのは確かだけど、他にも多数の敵指揮官がいると考えたほうがいいわね」

「無数のクロックロイドとか、やべえだろう……いくら雑魚でも数は暴力だぜ。インタグルドの全戦力を投入したとしても、勝てるかどうかわからないだろう」

「ええ、その点はわかっているわ。私たちがムーブメントを攻撃している間に、他のイレブン・オーが各地を攻撃する可能性は高いわ。だから全戦力を投入することは出来ない。

 戦術部の八割、予備戦力として保安部と情報部が待機することになるわ」

「それでも戦力としては足りませんね」

「だから今回の作戦は太平洋に面している日本連邦海軍の第一パトロール艦隊と北米同盟は第七艦隊が参加するわ」

 どちらもそれぞれの海軍の最精鋭だ。練度は高く、優秀さで知られている。

「よく誘いに乗ってくれたな。俺たちはイレブン・オーと敵対しているが、あちらからすれば怪しい連中だろうに」


 なにか裏があるのではないか? と自分ならば疑う。

 イレブン・オーを滅ぼしたあとに牙をむくかもしれない。なんの見返りもなく自分たちを助ける相手など、信用できない。もっとも信用できなかったとしても、圧倒的な力の差があるのだからどうしようもないのだが。


「もちろん見返りはあるわ。耐ビームコーティング塗料の無償提供よ」

「ビームを喰らっても即死しなくなるという特殊塗料だったか」

「本当ならば全ての国家群に無償で提供したほうがいいのだけど、インタグルドの生産量ではこのふたつに提供するのが精一杯なのよ。作り方を公開してもいいのだけど、特殊な技術が必要だからインタグルド以外には生産できないわ」


 そういうことならば仕方がない。

 交渉の材料に使えるならば、特殊塗料も悪くはないだろう。


「今回の作戦で私たちは七カ所に分散配置される。第一、第二小隊は北米同盟。第三、第四小隊は日本連邦。上陸する部隊のことを北米同盟は海兵隊、日本連邦は陸戦隊と言っているからそのまま使うわ。海兵隊と陸戦隊の上空で各小隊長は状況に応じて援護しなさい。

 ブルーティア、グリーンジェミニ、パープルドラゴン、イエロープミラはこの地点に。私は上空から戦場全体の援護を行う」


 ムーブメントの外周に八つの光点が表示され、それぞれの光点の横に配置されるiPoweredの名前が浮かぶ。

 スミーヴァのメンバー以外にも、戦術部のピンクガーディアンとホワイトラベンダーの名があった。このふたりとは何度か戦場で共闘したことがあるが優秀な戦士だ。


「任務はふたつ。ひとつはいつもと変わらない。味方の損害を可能な限り抑えるため、各自の判断で敵を撃破。味方が窮地に立っているならば、積極的に助けなさい。味方はインタグルド、海兵隊、陸戦隊よ。この作戦はイレブン・オーを倒すほんの序曲に過ぎないわ。戦力は少しでも温存しなければいけない。

 また全員で一定の距離を維持すること。距離が離れすぎたら、セティヤから注意されるわ」


 スワーラはセティヤを向く。 


「セティヤ。頼んだわよ」

「了解です、隊長」


 セティヤはこくりと小動物のようにかわいらしく頷いた。


「最優先目標は、ザ・クロックの首魁であるグランドコンプリケーション。敵の首魁を倒せば、組織は頭を失う。グランドコンプリケーションが現れたら、仲間の救援よりもグランドコンプリケーションの撃破を最優先しなさい」

「了解した」


 新生ザ・クロックが旧ザ・クロックとどれだけ同じかはわからない。だがグランドコンプリケーションを倒せば、恐らくクロックロイドの機能は停止する。

 戦いを少しでも早く終わらせれば、それだけ犠牲は抑えられる。イレブン・オーとの戦いはまだ続く。こんなところで消耗していられない。


「作戦開始は明朝八時。いまから十時間後。これは今回の作戦で参加する日本連邦海軍と北米同盟海軍の艦隊が到着にあわせているわ。

 これまではイレブン・オーが現れて出撃する防衛が任務だった。しかし今回の作戦は我々の初めての反攻作戦よ。この作戦から私たち人類の攻撃ののろしでもあるわ。失敗は許されない!」


 スワーラは仲間達を見渡し、


「必ず勝つわよ!」


「「「「「「了解!」」」」」」

 

 皆一斉に返事をする。


 飛鷹は体の芯が、腹の底が熱くなるのを感じた。

 これまでは守る戦いだった。どんなに早く駆けつけたとしても、既に襲撃されている段階で犠牲者は出ている。だが、今回は違う。自分たちは攻勢に出る。

 ザ・クロック事変ではスミーヴァの仲間たちのほとんどを失ったが、今回の作戦は大丈夫だろう。


 iPoweredは第三世代に進化している。飛躍的に性能は上がり、装着している隊員たちも高い実力の持ち主たちだ。

 最小限の被害で済むはずだ。

 心配はいらない。

 そう強く思って、飛鷹は悪い予感がするのを振り払う。

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