#9 欧州にて
リュウとガイは各国にアルファベットと共用のベッドを持っていたが、個人的なものも多い。
南北アメリカ大陸には8軒、アジアに5軒、アフリカに3軒、西ヨーロッパに3軒。
しかし中央や東ヨーロッパには拠点を持っていなかったので1軒持つことにした。
早速ベルリンへ飛び、オランドに会うことにした。
「二人共早かったな、ウィーンのヘンリーも呼んである。けど俺のアパートじゃ駄目なのか?」
オランドが空港でアルティナと待っていた。
「出迎えすまんな、オランド。ヘンリーはアパートか?ちょっと見せてくれるか?」
ガイはオランドのアパートの広さを確かめるために行くことにした。
「ランドクルーザーか、なんか外国に来た気がしないな」
リュウはまた車のことを考えていた。
「しかし何でアルティナが俺らの間に居るんだ?3列シートにしたほうが良かったか?」
オランドが運転席、シンシアとナビィが助手席に座り、ガイとリュウは後部座席に座っていた。
ナビィは助手席を好むので、小さいシンシアと共に座らせたために残りの3人が自動的に3人並ぶこととなった。
「俺はアルティナが苦手なんだよお、コイツベタベタしてくるし」
リュウが言うと
「良いじゃないですかぁ、リュウさん格好いいから好きなんですよぉ」
アルティナが無視してリュウに擦り寄ってきた。
「おい、雷帝。コイツの設定どうしてるんだ?愛人にでもしてるのか?それとも男好きなのか?馬鹿なのか?」
ガイがリュウの代わりにオランドを問い詰めた。
「だから、雷帝はやめてくれよ。えーとな、設定はハニートラップの出来るスパイって感じだ」
オランドも少々リュウに似ておかしな部分があった。
「わかった。馬鹿ってことだな」ガイは一言で片付けた。
「と言う事で我慢しとけ、リュウ」
今更設定を変える訳にもいかないため、ガイはリュウに耐えさせることにした。
「情報を聞き出したいんなら腕でも脚でも撃ちゃあいいじゃねーか、なんでハニートラップが要るんだよ」
リュウの意見はもっともだが、オランドはあまりそういうことを好まない。
「あとな、実は一人協力者に来てもらっている。リュウの名前を出したら是非にと言うんで。知ってる顔らしいぞ」
オランドのアパートにヘンリーと共に居るらしい。
ナビィの為に少し遠回りをしてドライブを楽しませながらオランドのアパートに着いた。
「ここの最上階10階をワンフロア借り切ってる。全員だとエレベーターに乗れないな、階段で上がるか」
6人だが、全員の体重を合わせると1トンに近くなる。
別にエレベーターが落ちても彼等に傷一つ付くことはないが、困った事になるのは避けたい。
「どうぞ、お入りください」とアルティナがドアを開けてくれたのでリュウを先頭にドカドカと入っていった。
「ヘンリー?ミルス?リーディア?どこだー?広いな、迷うぞ?」
少しはしゃぎ気味だったリュウの頭をゴツンとガイが小突いた。
「だからお前は迷子になるんだ、オランドかアルティナを待て」
そして待っていると、リュウが何処かで見た顔の男が近寄ってきた。
「お久しぶり、ですね。あの時は名前を知りませんでしたが、リュウさん」
その男はリュウのことを知っているようだがどうも思い出せなかった。
「やはり忘れてますか、リズ・デルティアです。以前殺されるはずのところを見逃していただいた者です」
「暗殺と情報収集を主にやってもらってるんだけど、覚えてないようだね」
オランドが言うと、ヘンリーがやって来た。
「まあ、助けたんじゃなくて見逃したんなら覚えてないだろうよ。博士の件の時以来だな、ガイ、リュウ」
「あれ?ミルスは?」
リュウがキョロキョロと見回すと、既に足元に居た。
「相変わらず気配がないな、ミルスは。無音歩行だったか?」とガイが笑った。
「それで、リズ・デルティアって言えば協力者の中でもかなり凄腕の暗殺者じゃねーか?リュウが見逃した?」
ガイがリュウを見て確かめようとしたが
「んー?誰だっけ?」
リュウがじーっとデルティアの顔を見たが思い出せないようだった。
「一瞬でしたし、覚えられてないのも仕方がありませんよ、改めまして、リズ・デルティアです」
「北アメリカとヨーロッパの要件なら申し付けてください、役に立てると思いますので」
洗練された男に見えるが、そんな男の記憶はリュウには無かった。
「車、ヘリ、飛行機、ボート、なんでも操縦出来るしかなり動いてもらってるんだよ、ベッドの事も頼むと良いかもしれないと思って来てもらったんだ」
オランドが説明した。
「で。俺も初めて来たが、オランドのアパートはかなり広いぞ?武器も充実している。部屋は広いのが8部屋だな」
ヘンリーはオランドの部屋を一通り見たようだった。
「4部屋位のアパートで良いんだが、ドイツかポーランド、オーストリアかチェコに」
ガイの注文では地域が広すぎた。
「動きやすいのはやはりドイツですね、確かフランスとイタリアとスペインには既に持っていると聞いていますので」
デルティアはアルファベット達よりも事情を良く知っていた。
「へえ、結構情報持ってるんだな、出資系の協力者じゃなく行動系の協力者ってわけだ」
ガイがデルティアに言うと
「そう思っていただいて問題ありません。元SASです。デルタフォースにも少々協力してました」と答えた。
「とりあえず銃を見せてくれ、オランド」
リュウが言うと、オランドがアルティナに指示をして広い部屋に案内した。
「ここが倉庫になっています。入手可能な物はほとんど集めています」
アルティナが言うのでリュウが見てみると、リュウ達の倉庫よりも豊富に揃っていた。
「良いねえ、あれ?M93Rにあんなロングマガジン有ったっけ?」
リュウの知らない装備も有った。
「倉庫を見てきたけどいいね、弾薬もかなりあるし、ベルリンのベッドはオランドのアパートを借りようよ」
リュウは気に入ったようだ。
「じゃああとは地理的に考えてハンガリー辺りか?」
ガイが言うと
「今じゃバルカン半島も落ち着いてますし、ハンガリーならウクライナの近くで良いですね。異生物の巣がウクライナにありますし」
デルティアが総合的に考えて答えた。
「んー、見逃して良かったね、俺」
リュウが言うと
「はい、感謝しています」
デルティアが答えた。
とりあえず、と言う事で5人と4体で外出することになった。
「エンジンやサスを強化したハイエースが有るからそれで行くか」
オランドが言うとリュウが
「また日本車かよー、ヨーロッパならもっといい車有るだろう?」と不満を漏らしたが、ガイに殴られた。
「ハンガリーならブダペストか、南のセゲド、東のニーレジェハーザ辺りが候補に入りますね」
運転をしながらデルティアが言った。
「しかしこのナビィさんですか、車が好きみたいですね。景色を楽しんでるようですが」
「うん、ナビィはドライブが好きでね、俺の相棒だからかなあ?」
リュウの車好きはコレクションのようなものだが、ナビィは走ること自体が好きなようだ。
「ところでこのままプラハを通ってブダペストに行きますか?」
デルティアが言うと
「いや、飛行機の方が早いだろうし、食事でもしよう。どこか良い店があれば連れて行って欲しい、イタリアンがいいな」
ガイはベルリン周辺を見回りたかっただけだった。
「ではお薦めの店に行きましょう。庶民的な店ですが美味いですよ」
ベルリンでデルティアがよく行くという店へ行くことにした。
皆が腹を膨らせて店から出ると、ガイは
「うん、リュウもオランドのアパートで良いと言ってるし、店も多い。俺もオランドに頼むことにする」
店を出て今度は飛行場へ行くことにした。
「ここまでは誰が操縦してきました?パイロットが居ないなら俺が操縦しますが」
デルティアが気を利かせた。
「そうだな、今日は俺が操縦してきたんだが、MRJの操縦は出来るか?」
ガイがデルティアに訊くと
「最新型ですね、日本製か・・・マニュアルは頭に入ってるんで大丈夫ですよ」
アルファベット達は多数の飛行機を持っている。すべて合わせると100機を遙かに超える。
軍用機も持っており、それらは軍や各国政府の協力者から供与されたものだが、急ぎでもない限りは民間機を使う。
「さすがにB2と言われると無理ですが、B1-Bなら操縦できます。マーズさんが所有してますので」
2億ドル以上の機体を更に爆撃倉を改造して固定増槽も付けたラグジュアリー仕様だが、機体自体は米軍から貰ったものである。
「使える男だね、デルティアか、覚えておくよ」
自分でも操縦出来るのだが、自分で操縦するのを面倒臭がるリュウは協力者のパイロットを雇うことが多い。
「リュウさんには助けられましたので、いつでも言ってください。すぐに駆けつけます」
オランドやヘンリーと別れ、デルティアと共にハンガリーへ飛ぶことにした。
一旦休んだ次の朝からブダペストを周り、アパートを探すということで、宿を取った。
翌朝
「さて、街を回って、じゃなくてこの国に協力者って居たっけか?」
ガイがシンシアに訊くと
「政府、軍、あとは不動産関係の会社に居ますね」
シンシアがデータの中からすぐに出してきた。
「えーと、じゃあその不動産関係の会社に行くか、車が要るな。デルティアは持ってないよな?」
ガイはとりあえず借りるのではなく買ってからデルティアに預けようと考えていた。
「リュウ、とりあえず1台何か買うぞ、何が良い?」と訊くと
「レンジローバーで良いんじゃね?ポルシェのマカンかBMWのX5でも」
リュウが言うと
「じゃ、レンジローバーを買って、アパートを見つけて、残りの2台も買うか」
ガイの言葉にデルティアは
「流石に金に糸目は付けないですね、羨ましい」と言ったが
「1台はデルティアに乗って帰ってもらうぞ?あと、アパートにも時々来て維持しといてくれると助かる。
まあ、共用にするから時々は俺らの内誰かが来るとは思うけどな」
ガイ達の拠点として使うだけのため、無人の場合が多い。
各国に要る協力者が管理している場所も有るが、増え続けるなら何か考える必要が有った。
「分かりました、しかし協力者になってから全く金に困らないので暗殺稼業はほとんどしなくなりましたよ」
デルティアの仕事は今や情報収集の方に偏っていた。
二人は無事アパートの契約を済ませ、車も買い終わった。
「じゃああと何日かアパートの管理と車の受け取り頼んでいいか?デルティア。俺達は武器を集めに行ってくる」
後のことはデルティアに任せて、二人はとりあえずの武器を集めてくることにした。
「ハンガリー軍経由で買うとするか、スィグとかH&K、スタイアーのでいいか?リュウ」
ガイが言うとリュウは「うん、それでいい、ナビィに発注させとくから」
「ああ、届けさせといたらいいか、デルティアに受け取ってもらおう」
「ってことで、アパートに届けさせるんで受け取って貰えるかな?」
デルティアに言うと「任せてください」と答えられたので受け取りは全て任せることにした。
数日をナビィのためのドライブに費やし、4人は日本へと帰っていった。
帰って来るとリュウ達のアパートに見知らぬ者が居た。
「あ、おかえりなさい、マスター」
高校生程度の女子にそう言われ二人は
「誰だ?」と同時に言った
「シルビア博士からの伝言を預かっていますので、これを見てください」
メモリカードを差し出した。
「これを見ているということは、きちんと届いたのだな。そいつは最新のMP7型のサヴァイヴでマリーと名付けた」
「見た目通り日本人タイプで戦闘も出来るが、世話係として使ってみてくれ。試作となる。毎日経験データを送るように設定しているので教育してやってくれ」
シルビアからのビデオメッセージを見終わった二人は
「なあ、ガイ、これってどういう意味だ?」
リュウが訊くと
「島のサヴァイヴはJ型ばかりなのでM型の助手用サヴァイヴを作りたいようだが、何故俺達のところに」
ガイはしばらく考え、経験データを送るということは戦闘より日常生活データだろうと判断した。
「恐らくだが、この間の様な事態が起きた時にシルビア博士の世話を出来るように、ということだろうな」
「それにしても位置付けをどうするかだが、リュウ、お前の妹ということにしておけ。くるみのことを博士に話したので交流技能の為に寄越したのだろうよ」
するとリュウが
「んじゃマリー、お前は俺の妹と言う事でこのアパートに居てもらうよ、戦闘機能は凍結。日常生活機能を中心に、だよな?ガイ」
リュウよりもガイの方が適任だが、日常生活に支障が有るのはリュウの方だ、と言う判断をガイは下した。
「妹としてナビィと一緒にお前の世話をしてもらえ、その方がデータが多くなる」
ということで、リュウ達のアパートにもう一人の妹が増える事となった。