#7 だからこその何か
ある日、ナビィも連れず、ガイとシンシアがゲームで遊んでいる時にリュウはコンビニへ使いに行かされた。
「ナビィとシンシアにオレンジジュースと紅茶、ガイに冷凍ピザ、あとは飲み物を数本だったな、ラーメンと焼肉弁当も」
コンビニならカードを使えると聞いて、一度一人で行くことにしたのだった。
目的のものをカゴにいれて、レジでの支払いの時にカードを出した。
しかしそれはアメックスのセンチュリオンだった。
驚く店員を前に
「えーと、それ使えないの?どれなら使えるのかな?」
と全部のブラックカードを出していった。
「現金も有るんだけど、カードを使ってみたくて」
と100万程入った財布を出してみせた。
「やっぱりカードは無理?」
がっかりしながらリュウはカードを財布に入れだした。
「いえ、使えます、申し訳ありません、驚いてしまって」
相当高級な店の立ち並ぶこの地区でもこれほどの人間は居ない。
しかも20歳前後でモデル体型のイケメン。服は黒一色のコート姿だ。
「あ、ガイの言うとおり使えるんだ、やったあ」
リュウはコンビニの冷やし中華もよく買う。会計は常にガイが行うのだが。
リュウは「初めてのおつかい」をこなすことが出来た。
それからと言うもの、何か買い物が有るとリュウが率先して行くようになった。
「なあリュウ、お前って一人で買い物できるのが楽しいのか?」
ガイが訊くと
「当たり前だろ?お前は楽しくないのか?馬鹿なのか?」
リュウが答えると、ガイはカチンときて
「分かった、今後もずっとお前が買い物当番だ、クソ虫野郎」と言われて終わった。
何回か行くとリュウはもう店員全員に覚えられていた。
そして店員に
「リュウ・ファレーゼさん?いつも同じ服ですね」
と言われて
「うん、この服は同じのを20着位持ってるから、でも少しずつ違うんだよ?このポケットの作りとか」
そう答えたが、戦闘服なので見た目はほぼ変わらない。
「そうなんですか、この辺に住んでるんですね?」
とまた訊かれて
「そうだよ、えーと・・・この先のビルの一番上にガイと俺の妹とガイの妹と住んでるね」
何かわからずにリュウは
「どうしたの?来る?」とその女性店員に言ってしまった。
その時は「いえ、そんな悪いですよ」と言われて「ふーん、そっか、そうだよねー」と答えて終わったのだが
そのやり取りをガイに言うと
「お前、この考え無しが。あーもう・・・ここには銃やら何やら見られちゃ困るものがいっぱいあるだろうが」
「しかも事件にはなってないけど俺達は腐れ外道の酔っぱらいをかなりの数を半殺しにしてるんだぞ?何考えてるんだ?グロックだったか、銃は絶対見せるなよ?」
とかなり怒られた。
リュウはそういうことを全く考えないため、常にガイが意識して避けるようにしていた。
見られて困るものなら片付ければ済む話だが、これだけ広いビルのワンフロアを4人で借り切っているというのも常識外れである。だがガイもそのあたりの感覚はない。
持っている自動車もリュウの趣味で買うので、ブガッティやマセラティ等一般的ではない高級車が多い、しかも近辺だけで10台以上置いてある。しかしそれもガイは心配していない。金銭感覚のおかしな二人はそういうことには無関心だった。
だが武器は違う。日本では有り得ない銃火器がかなりの数揃っている。
「ナビィとシンシアの事は妹って言っておいたし、問題ねーだろ?」
リュウはそこだけはきちんと守っていた。
「まあいい、お前も誰かと交流を持ったほうが良いかもしれないしな、友達が出来たんなら連れてくりゃ良いよ、俺がなんとかしてやる」
そう言うと、ガイは銃火器や刀剣ナイフ類を一番奥の部屋へ移しだした。
倉庫として広めの間取りにしているのでいくらでも入る。
携帯している武器、リュウの銃やガイのナイフ等は戦闘服に仕込んでいるため問題はない。
「あ、俺もお前もシルビアの名前使ってるだろ?ファレーゼ、ちとまずかったかな?」
ガイは今更ながら考えたが、世界中のアルファベット達はファレーゼを使っている。
それから暫くしてコンビニ店員であるクルミという大学生がやって来た。
「やあ、よく来てくれたね、リュウの友達って聞いてるけど?くるみちゃんだったね」
ガイがリュウから聞き出していた情報を整理しながら話し始めた。
「はい、ガイさんですね。リュウさんにはお世話になってます、お邪魔します」
くるみはお辞儀をしてドアを閉じた。
「殺風景な部屋だけど、こっちは事務所で奥がリビングになってるんで」と、リビングに通した。
「あ、くるみちゃん来てくれたんだ、いつもありがとね」
リュウが言うと
「リュウさん、靴はどこで脱げば?」と訊いてきたが
「ああ、俺らは海外暮らしが長かったから土足でいいよ」
ガイが代わりに答えた。
くるみはリビングを見渡して
「大きなテレビですね、見たこともない大きさです」
「ソファもこれ、イタリアとかのですか?殺風景じゃないですよ、すごいです」
するとシンシアとナビィが
「紅茶で良いですか?コーヒーやジュースもありますが」
とやって来た。
「うわあ、お人形さんみたいな綺麗で可愛い子ですね、お兄さん達もものすごい格好いいですけど」
「これで大金持ちって世の中不公平ですよね~」と笑ってみせたが
「そうだね、世の中本当に不公平だと思うよ」
ガイは自分達の存在が世界にとってどういう意味を持つのか知っているため、意味深長に使った。
普段一般人とは交流を持たないアルファベット達にとって、くるみの存在はイレギュラーなものであった。
しかし、殺伐とした生活の中の一時の平和でも有る。
「これからもリュウと仲良くしてあげてくれると助かる、頼むね」
ガイも深く考えずに付き合おうと考えた。
「リュウさんと違ってガイさんは大人びてますよね?私と同じ年齢とは思えません」
リュウもそうだが、ガイは元々特殊部隊の士官で一隊を預かる隊長だった。
若くして部隊を率いる者として、ガイは肉体も精神も隊員以上に鍛え上げていた。
対してリュウは下士官であり、隊員であったため、戦い慣れはしているが戦術等を考える必要はなかった。
それが今のリュウとガイの差にもなっている。考えるのはガイの役目だった。
異生物の侵略を受けていない日本は、兵士以外に世界大戦の事を詳しく知るものは少ない。
自衛隊が各国の要請に従う形で軍となってからは陸軍と空軍が海外派兵されることとなった。
同じく海軍は後方からの補給の為に全力で支援を行っていた。
大戦時期に兵を出していない国は世界のどこにもなかった。
反目しあっていた国々も地球規模の戦闘のため国家の利益より世界の破滅を防ぐために共同して戦った。
戦後、国際連合と呼ばれる組織は一旦解散し、常任理事国の無い平等な地球連邦と名称を変えた。
地球連邦軍は今も異生物の脅威からは脱しきれていない。
いずれ巣穴に巣食う異生物達を駆逐しなければならないのだが、まだ決め手にかけている状態である。
一見平和を取り戻したかに見えるが、脅威との戦闘は終わってはいない。
兵士以外にも一般人の死者は多数出ていた。
人口80億人に迫ろうとしていた人類は一旦20億人を失い、哀しみの中復興に力を入れている。
日本やイギリスなど極めて少数の島国だけが被害を受けずに済んだ。
だが、世界経済は混乱し、それらの国々にも深い傷跡を残している。
真の意味で無事な国など存在していなかった。
ある日、リュウがいつものようにコンビニで買い物をしていた時に時に強盗が入ってきた。
リュウは偶然居合わせたので見ていたのだが、どうやら銃を突きつけている。
カゴを床に置いてリュウはレジの方へトコトコと歩いていった。
「ねえ、俺の縄張りで何してくれてるの?」
と背後から銃を握り、ハンマーを親指で折った。これで撃てない。
「ねえ、何してくれてるの?」
リュウは自分では気付いてないが怒っているようだった。
「ねえ、何してくれてるの?」
強盗の首を掴み片腕で持ち上げていた。
首を折ろうとしたのだが
「大丈夫です、その人もう気絶してます。警察がすぐに来ますので」
その声でリュウは気が付き、床に落とした。
「リュウさんですよね?強いんですね、格闘技か何かしてたんですか?」
店の奥からくるみが出てきて言った。
「ん?俺は元アメリカ海軍のシールズだよ。大戦でも戦ってたしね」
リュウはあっさりと答えた。
「戦争が終わったから、もう兵隊はやめたけど世界最強の部隊の一つって言われてたから」
笑って「誰も怪我はなかったかな?無いよね?よかった」
リュウは助けたつもりはなく、ただ縄張りを守っただけだったが
「ありがとうございました、リュウさん」と言われて嬉しかった。
「あ、買い物の途中だったんだ」
と、床に置いたカゴを取り、冷麺と焼肉弁当を追加してレジに置いた。
あまりにも普通の行動を取るリュウに店内の皆が驚いていたが、リュウが財布を出して
「カードで」とニコニコと言うので店内の空気が一気に和んでしまった。
「リュウさんらしいというか、もう・・・わかりました。カード払いですね」
くるみは笑いながらレジを打ち
「2876円です、カード払い一括で」と普通に対処出来た。
「この人どうしよう?」足元に転がる強盗を見ながら「動けないように手足の骨折っておく?」リュウは真面目に言ったのだが
「リュウさん真顔で冗談はやめてくださいよ、もう。直ぐに警察が来てくれますから、でも少し居てもらえると安心なんですけど」
くるみにそう言われ
「うん、じゃあもう少し居ることにするね。警察が来たら帰ってもいいかな?」
と、警察の到着を待ってから帰っていった。
リュウとガイは地元の警察によく知られていたため、事情聴取されることはまず無いので普通に店を出た。
店内で買い物をしてた他の男性客が
「頼もしい人だね、よく見かける人だけどリュウさんって言うのか。不思議な雰囲気の人だと思ってたら、本当にすごい人だったね」
その日の小さな強盗事件はあっさりと解決して終わった。