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イビル・ガーディアンズ  作者: 朝倉新五郎
4/20

#4 ガーディアンズ

 従来の技術を遥かに超えたテクノロジーで作成されたサイボーグであるアルファベット達は、ミッションがない限り普通の人間と同じように生活する。

 しかし、一旦死亡し、脳にダメージを受けるギリギリで生命維持装置に繋がれて改造された彼等にはやはり人格に異常な部分が有った。


 例えば、人命に対する感情や戦闘時の過剰な暴力性などである。

 ロスを縄張りとしているサンサなどは暇つぶしと称して多くの麻薬密売組織を壊滅させている。

 リュウは誰かを救出する仕事を好み、ベルリンのオランドは人身売買組織を見つければ趣味の一貫で壊滅させる。

 そして、その行動には一切の制約がない。


 彼等の表皮となっているサイメタルは実際に人間のそれと同じようなものであるが、高熱や酸、衝撃、斬撃ではほとんどダメージを与えられない。

 また、骨格を構成するサイコニウムは柔軟でありながらも衝撃に強く丈夫である。

 そして筋肉用のエテルニウムは生成が困難ながら強力な動力源となり、彼等の行動を強くサポートしている。

 生成に失敗したエテルニウムは硬化エテルニウムと呼ばれ、サイコニウムの素材とされる。


 いわゆる超人という者が居るのであれば彼等だろう。

 戦車砲やミサイルはおろか核の爆発にも耐えることが出来る。

 事実上無敵の存在である。


 しかし、それは彼等が望んだことではない。兵器として作り直された彼等はまずは命を、さらに作られた目的をも失った。

 現在行っている活動はその代替行為であり、準備行為でもある。

 最終目的は世界からの異生物の完全駆逐。

 だが、Sクラスの新女王、SSクラスの旧女王、そしてジョーカーと呼ばれている何処かに潜む王

 これらに対する戦力は未だ整っていない。

 この間のように数十匹程度を狩ったところで焼け石に水である。



 「今月は暇だなあ~、まだ一件の仕事もこなしてねーぞ、ガイ」

 リュウはガイに薦められた数冊の本をずっと読んでいた。

 「もうすぐ夜だし何か食いに行かねーか?俺が奢るから」

 ガイが用意した財布には、リュウがシルビアから貰ったカードと100万円が入っていた。

 「焼き鳥の気分なんだけどよ、あ、DVD返さなきゃなんなかった、外行こうぜー」

 これが彼等の日常である。


 しかしガイは端末のモニターを眺めていた。

 何かミッションが発生すればすぐに分かるようにである。

 だが、自分達に見合った案件は今のところ無い。

 「行くか、俺はピザが良いんだが、たまには焼き鳥も良いな」

 ガイは立ち上がり、リビング中央のソファに座りもたれかかった。


 「このまま暇が続くようなら戦争を止めにでも行くか?確か南スーダンが荒れてたはずだが、また始めたよなあ?いつまでやるつもりなんだか」

 ガイは争いを粉砕することを好む。

 そのためなら両勢力を全滅させることも厭わない。

 それについてリュウは「金にならねーじゃん」と言いながらもガイに協力する。

 「武器がごっそり手に入るしな、俺は構わねえよ」

 このガイの行動のため、大戦後であるにも関わらず、大規模な争いは少なくなっている。

 師団規模なら1時間もあれば一人残らず殲滅してしまう。そしてその時のガイは明らかに楽しんでいた。

 「いらねぇ命なら全部俺によこしやがれ!わはははははははは!」中東で小規模な戦闘を終結させたときである。

 4万人規模の軍とゲリラを殲滅し、血まみれになりながら狂気の笑顔で叫んでいた。


 リュウの趣味は武器集めと車集めだが、それに関しては世界中で行っている。

 ターゲットの殆どが裕福な犯罪組織や軍関連の組織であるため、毎回かなりの数を奪えるのが楽しくて仕方がない。


 リュウとガイは東京の新宿を根城にしているが、リュウはMAC10とロングマガジンのグロック18を、ガイはサイコニウム製のナイフを2本持ち歩く。

 最近はリュウがナビィを手に入れたので、ガイのシンシアとともに連れ出すことが多くなった。

 2人の少女の容姿のため、彼等を知らない者が酔って絡んでくることがあるが、これまでに30人程度が死亡しかけている。


 サヴァイヴは食事を行えず、飲料や活性剤だけを摂取する。

 対してリュウ達は大食漢である。消化器官や呼吸器官、循環器は普通の人間のそれと殆ど変わらない。

 強化はされているが重要な変更点はエテルニウム製の心臓が追加されていることだ。つまり心臓が2つある。

 サイコニウム製の骨格は頭蓋骨も例外ではなく、最大厚さ1センチの超々強化サイコニウムに守られている。

 そして脂肪の全く付かない体なのでいくら食べても太ることはない。

 ただし、主栄養素はサヴァイヴ達と同じくサイコニウム活性剤とエテルニウム活性剤である。



 世界には無知から彼等を敵視する勢力が居る。

 街の一つ位なら簡単に滅ぼせる程の力は国を預かる者や、正義を標榜する者にとっては脅威となる。

 無論、道徳心が機能しておらず善悪の区別が出来ないアルファベット達はそんな押し付けられた正義に興味はない。

 やられたらやり返す。

 その結果、首都を破壊された国や、大統領を中心に行政機能のすべてを失った国もある。


 大戦が終わり、しばらくした後にも先進国と呼ばれる国は、その理性が働いているためか、最初の一度以外は彼等の扱いを学んでいた。


 アルファベッド達が研究所から脱走して、そう時間が立っていない頃に彼等の存在を消そうとした動きがあった。


 彼等に対する唯一の失敗で、最後の失策でもある。彼等に因る反撃により甚大な被害を受けた世界最強の国家は大統領こそなんとか生き延びたが、

 首都を壊滅させられた上に巨額の賠償金を要求された。


 しかし、賠償金の要求をはねつけたため、更に人口が密集する市街地を破壊され、結局言われるがままの金額を支払うこととなった。

 更に自分達を狙った核ミサイル施設の殆どを破壊、軍事用港湾施設や内陸部に有る基地もその尽くを失った。

 被害総額は80兆ドルとも言われている。1兆ドルの賠償金を惜しんだ結果だ。


 ただし、民間人の死傷者はほとんど居ない。

 彼等アルファベットはまず警告を発してから猶予を与え、破壊する。

 これはシルビアの言いつけであり、その言葉は必ず守るべきものである。

 一部、警告を信用しない者が街を退かなかったが、そのような阿呆の為に手を抜くことはない。

 世界有数の大都市の中心部は1週間で瓦礫の山へと姿を変えた。

 マーズとエミリはニューヨークを縄張りとしていたが、譲歩して一部の破壊を許し、復興が終わるまでの間フィラデルフィアへ移った。


 この件を受けて、世界はアルファベット達には関わらないと決め、戦後の荒廃からの復興にのみ力を注ぐことになった。

 だが、一連の騒動に巻き込まれた彼等の中には核兵器を積極的に嫌う者達が5名出た。

 この5名は暇になると各国の核施設を破壊するという遊びをずっと続けているため、世界中から核兵器が消えていくこととなる。

 核保有国の政府は、施設の防衛を諦めてアルファベット達の成すが侭に指を咥えて見ているしか無かった。



 異生物の巣穴を攻撃してから1ヶ月、シルビアからの連絡が来た。

 曰く「誰でも良いから4~5人来い」とのことだった。

 その時に暇をしていたリュウとガイ、ウィーンのヘンリーとナポリのパムが行くことになった。


 「来てくれたか、ちょっとラボまで着いてきてくれ」

 シルビアはそう言って歩き出した。

 「懐かしい景色だろ?お前達が生まれた場所と同じ作りだからな。今はカプセルを置いていないががコイツを試作してな」

 ボタンを押すとガコンと扉が開き、高さにして5m程の人型モジュールが出てきた。

 「実はな、エテルニウムの生成にかなり失敗してサイコニウムが相対的に多くなってしまったから作ってみた、着てみてくれ」

 それはどうやらパワードスーツのようなものらしかった。

 「通常の作戦には不向きだが、こないだのような狩りには使えるだろう。

  空気抵抗があるので巡航速度は400キロ程だが高度2000mなら6000キロは飛んでいける」

 「可動部分にはエテルニウムを使っているが武装も含め殆どがサイコニウムで出来ているから役には立つだろうよ」


 その後、一人一人コンソールに向かって稼働させてみたが、操縦でワンテンポ遅れる程度で十分に使えるものだった。

 「けどよ、俺らにこんなもん必要か?ミサイルの直撃にも耐えられるんだぜ?」

 リュウが言うと

 「対異生物戦、特にBランク以上の相手には効率のいい戦い方が出来るだろう?」

 シルビアが答えた。


 「確かにBランク以上は思ったより硬かったからなぁ、この右腕についてるのはインパクトアンカーか?試してみたいな」

 ガイが色々と固定武装を調べては楽しんでいた。

 「主要武器は重機関銃になる。30ミリの徹甲弾や榴弾は背中のモジュールの換装で行える。

  固定武装はインパクトアンカーとチェーンアックス、それにエルボーソードだ」

 シルビアが説明すると

 「次に材料を取りに行くときにでも使うか、仕事に使うには大きすぎるしな」

 ガイが様々な箇所を見回ってから降りた。


 「とりあえず全員乗り込んでみてくれ、自動サイズ調整がきちんと動作するのか見てみたい」

 「ちなみに私にはフィットした、4人のサイズに適合するだろうか」

 シルビアに適合するのであれば、より小さなパムには可能だろう。

 ヘンリーのような大柄の男やリュウ、ガイのような平均的な体格の男にも適応するのかを知りたいようだ。

 「じゃあまずアタシが試すよ」とパムが入った。

 「右手を10秒間握って」シルビアが言い、パムがそうするとプシュっと音がして「ゲ!」と中から聞こえてきた。


 「ちょっとお、胸が潰れそうなんですけど!」どうやらバストの大きさがシルビアと違うためキツいようだ。

 「くそ・・・左手を10回握れ」

 シルビアが言うとしばらくしてまたプシュっと音がして

 「ああ、これでちょうどだね、締めるのが右手で緩めるのが左手か。で、開くのは?」

 パムが訊いてきたのでシルビアは「両手を10秒握れ」と答えて、パムは出てきた。

 「アタシは博士より4サイズ大きいからね」とパムが言うとシルビアの拳がプルプルと震えていた。

 「次!ヘンリー!」

 シルビアが怒ったかのように言ったが

 「別に胸なんてでかけりゃ良いってもんじゃねーだろ?」と言いながら身長2m有るヘンリーが乗り込んだ。


 「で?どうだ?」シルビアが訊くとプシュッとまた音がして「丁度いいな」とヘンリーが答え、その後すぐに出てきた。

 リュウもガイも同じようにして、どんな体型でも一定以上の身長があれば装着可能だということがわかった。


 性能テストもしていくか。とエレベーターで地上へ出てサッカー場程度の広さの場所でバーニアやスラスター、射出武器、斬撃武器全て試した。

 「博士!こいつぁすげーぜ!おう、こっちこいリーディア、ちょっと模擬戦やろうや、全力で来い」

 ヘンリーは自身のサヴァイヴであるリーディアに命令した。

 「イエス、マスター。模擬戦モード、全力で戦います」

 長い銀髪とドレスのような服で着飾ったリーディアが左手に小型マシンガン、右手に刀を持ちヘンリーへ向かっていった。

 「おっと」リーディアの刀を避けて、固定武装の剣で弾いた。

 リーディアは距離を取り、小型マシンガンで攻撃したがヘンリーはスラスターを吹かせて避けた。

 天地逆になったまま15mm機関銃をリーディアに向けて放った。


 エアブレーキとスラスターでリーディアは避けたが十分な性能だとわかった。

 「リーディア、もう良いぞ」ヘンリーはスーツから出てきた。

 「特別仕様とは聞いてたがリーディアの性能は凄まじいな、オランドのアルティナよりは若く設定してあるみたいだが」

 ガイが言うとヘンリーは

 「毎日一緒に居るんならちょいM型娘が一番楽しいんだよ、俺は20だしな。あー、死んだのが20だったか、今何歳だ俺?連れ出すのはJP型のミルスが多いけどな、あいつ隠密性が高いんだ」


 「それを言うなら俺らも歳なんかわかんねーよ、つか歳取らねーしな」

 リュウもガイもだが、大体19~23歳の者で構成されている。

 「シルビア博士は今22歳だったか?12歳で大学院で博士号3つ取ったんだったよな?」

 リュウが言うと

 「23だ、お前達の中ではザビーとニックが同い年になるな。最年長者だ敬え馬鹿ども」

 シルビアの機嫌の悪さは続いているようだった。


 ある程度のテストを済ませると解散することになった。

 各自がプライベートジェットに乗って帰っていった。



 そして数日後、またリュウはいつもの救出ミッションに従事していた。

 今回はガイがハイジャックされた飛行機の場所へ行っているためリュウ一人だった。


 リュウとナビィの前には今回の敵組織のボスが居た。

 「目的の男ってコイツだよな?なぁ?コイツを殺されたくなかったらこの建物から出て行け!」

 男は顔をひきつらせながら言うと

 「うん、殺されちゃ困るのかどうか今確かめるから待ってて?俺じゃ判断できないんで」

 リュウは電話を掛けだした。相手はシルビアである。


 「えっとね、人質に取られてて、うん、あ、そうなんだ、じゃあ最悪それでもいいってことだね?今から?ああ、いいねそれ」

 電話を終えるとリュウは

 「あのね、殺されても良いんだって。その代わりに君の家族親戚友人全員殺す事になったみたいだね。俺ら脅しちゃ駄目らしいよ」

 リュウの発する言葉の意味がわからなかったのか、しばらく男は考えていたが

 「な!?どういうことだ!?」

 男は驚いたようだったが、リュウは

 「調べたみたいだけど150人位居るんでしょ?なんか、ナメられるとどうとか言っててさ、時間をかけてでも殺すっぽいね。だからその人の頭撃っていいよ」

 

 男はその言葉で完全に戦意を失った。

 既に数百の屈強な男が、目の前の男と少女に全滅させられたのである、それにリュウとナビィの表情は人間を虐殺した顔ではない。

 明らかに無邪気に遊んでいる子供の笑顔だった。

 「わかった、この男は渡す。だから俺一人の命で勘弁してくれ」

 しかしそれを聞いて

 「え!?ちょっとまってね、もう殺しに向かってると思う、止めないと」

 リュウの言葉に男は驚いた。


 「もう一回電話する」

 とだけ言ってリュウはシルビアに電話をかけ直した。

 「えとね、人質は殺さないんだって、うん、そう。だからゼノン止めてくれるかな?うん、お願いします」

 リュウは電話を切って

 「じゃあ男の人はこっちにもらうね、後ね連絡の行き違いが有ると奥さんと娘さん2人と男の子1人?殺されるかも?ゼノン次第だけど。親戚や友人は助かると思うよ?時間的に無理だし」

 男はリュウの言葉で崩れ落ちた。

 「とりあえずね」と、男の持つ銃のハンマーを打ち壊した。これで銃は撃てなくなる。


 「先走って悪かったとは思うけど、本当に悪いのはそっちだからね」

 「けど、もし奥さんとかを殺してたら悪いし、あんたは生かしておくよ。だから死なしちゃってたらごめんね」

 リュウのあっけらかんとした凶悪な言葉は男の耳に届いていなかった。

 「じゃ、こっち来て?データは持ってる?持ってるなら送るから。ナビィ、データだけ受け取っといて」

 リュウは目的の男を連れてビルを出た。


 そしてまた集めた鍵の中から

 「今日は良いのがあったなー、ダッジバイパー欲しかったんだぁ。けど、どの鍵だ?」

 じゃらじゃらと鍵の束を見ながら

 「これか、けどこっちもか?どっちもダッジのキーだなあ」とブツブツ言いながら男を車に乗せて走り去った。

 ナビィはシートの間で小さくしゃがんでいたが、どうやらクルマに乗るのが好きな様子で終始ニコニコしていた。


 一方、ガイとシンシアは無防備に飛行機に乗り込み、ハイジャック犯4人を他の怪我人無しにシンシアが射殺して終わらせていた。時間にして約5分、事件発生から25分であった。

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