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イビル・ガーディアンズ  作者: 朝倉新五郎
3/20

#3 危険な目的

 異生物が人類の全戦力を投入し駆逐され、封印されてから1年が経とうとしていた。

 ある日、シルビアの研究室のある島に6人のアルファベットが集まった。


 「いやん、このお兄さん素敵だわ、ご主人様に許可をもらって一緒に遊ばない?」

 オランドのサヴァイヴであるアルティナがリュウにもたれかかってきた。


 「オイ、オランド、このサイコニウムの無駄遣い野郎を向こうにやってろ、クソ雷帝」

 リュウが不快感を現すと、オランドがアルティナに命令して遠くへ追いやった。

 「だから雷帝はやめろって、恥ずかしいなあ、もう」

 オランドは自分につけられた二つ名を気に入っていない。

 「全く。あの大きさなら武装も多いだろうが貴重なサイコニウムを普通の3倍は使うだろう?それであの設定かよ」


 「まあ他の者のサヴァイヴに口を出すな、それぞれが熟慮した結果だ。集まってもらった目的だけ伝える」

 シルビアが数枚の資料を見ながら

 「研究所から持ってきたエテルニウムの在庫が少なくなってきてな、サイメタルもだが、取ってきてくれないか?」

 この要求は無茶な話である。

 エテルニウムは異生物から採取した上で生成するしか無いのだが、それは現在封印されている異生物の巣から持ち帰れと言っているのに等しい。


 しかし

 「んー・・・小型なら何体位必要なんだ?」

 上海を拠点にしているウマナがシルビアに尋ねると

 「そうだな、20体あれば5年は保つと思う」

 シルビアは簡単そうに答えた。


 「6組みで20体か、中型も捕獲できればもっと少なくて済むな」

 ウマナは腕組みしながら計算しているようだった。

 そして「じゃあ俺は行くことにする。他は?」

 ウマナが見回すと、リュウとガイ、キャル、ザビー、オランドも同意した。


 「ここから近くだとインド亜大陸の中央になるが、それでいいか?」

 シルビアの言葉に誰も異存はなかった。どこだろうとやることは同じである。


 「言う必要はないと思うが、気をつけてな」

 早速出かけようとする6人と6体に声を掛けた。


 6組が歩いて研究所を出ようとしている時にリュウがガイに話しかけた。

 「なんかさ、博士からカードを貰ったんだけどどう使えば良いのか教えてくれるか?」

 その言葉にガイはハアーっとため息をつき

 「預かっておこうか?お前は現金のほうが使いやすいだろ?」と答えた。

 続けて

 「財布が要るな、買っておく。とりあえずカードをよこせ、準備しといてやる」

 そう言ってガイは会話を終わらせた。


 二人の話を聞きながらキャルは

 「リュウってほんとに金銭感覚が無いよね?おかしいんじゃなくて、無い」

 笑いをこらえきれなかったようだ。


 リュウの擁護をするのであればこういうことになる。

 まず、各種必要な武器は敵からごっそりと奪ってくるのでリュウが所有する世界中のアパートや倉庫には山程の武器が眠っている。

 次に、自動車も百数十台マフィアなどから奪ったものを持っている。これらはガイも使用するためガソリンはガイが入れている。

 そして、これが重要なのだが、生活に頓着がない。

 今はガイと一緒に7部屋と広いリビングに更に広い事務所を合わせ、小さいビルの最上階のワンフロア丸々をガイ名義で借りている。

 一応は探偵事務所ということにしているが、看板も出さず、宣伝もしていないので客は来るはずもない。

 歩いてすぐの場所に飲食店が揃っているためガイと食事に出かける。

 つまり、リュウには金というものを使用する機会が殆ど無い。

 必要な物は獲物から奪えばいい程度にしか考えていなかった。


 「だってよお、買うもの無いし、ラーメン屋で使えねーって言うし、意味あるのか?カードって」

 リュウが不満げに言うとキャルは

 「服とかはどうしてんの?戦闘服以外持ってないわけじゃないでしょ?」

 そう訊いてきたが

 「服?そんなもん相手の家から持って帰りゃいいだろ?」

 どうやらリュウはかなりの量持っている服のほぼ全てが奪ったものらしい。


 「靴とか下着は買うんだけどな、今はナビィがやってくれてるし、ネット通販ってやつだったかな?」

 キャルはリュウの言うことにいちいち反応して楽しんでいたが、リュウには意味がわからなかった。

 「ナビィちゃん可愛そうに、もしかして家事とかもやらされてるの?」

 ナビィに対してキャルが訊くと

 「はい、楽しいですよ」

 と言ってナビィはニコリと笑った。


 「あーもう!可愛いなあナビィちゃんは!」

 キャルはナビィをぎゅーっと抱きしめて

 「ウチのショウタロウにも家事機能インストールしようかな?」

 本気で考えているようだった。

 

 はしゃぐキャルに対してザビーは寡黙だった。

 シューティングと言うよりはスナイピングに近いスキルを極めたのも誰かと話すのが苦手だからだ。

 だからといってザビーはスナイパーではない、どちらかと言うとガイと同じく斬撃に長けている。

 そのため、ザビーは一振りの強化サイコニウム製の異形の刀を常時持っていた。

 撹乱や陽動はザビーのサヴァイヴであるシルキーが行う。

 シルキーは全身に拳銃とナイフを装備し、近接戦闘に特化した仕様となっていた。

 ザビーはミドルレンジ以上が通常の攻撃範囲だが、シルキーはクロスレンジやミドルレンジでの戦闘を得意とする。


 今回の武器は全てが強化サイコニウムで作られた剣やナイフ、徹甲弾や榴弾だった。

 消費する以上のエテルニウムを持って帰らなければならない。

 とは言え異生物の体にめり込んだ銃弾は回収されるので、狙いを外さなければ問題はない。

 そして、狙った箇所を正確に撃てない者は、今回組んだチームには居なかった。

 もちろん斬撃も外すことはない。

 リュウはマシンガン系の銃を好むので銃弾を多く消費するが、必ずヒットさせる。彼等の動体視力と反射神経は異常なほどに高められていた。


 移動方法は航続距離の関係で給油専用のものも合わせてCH-47Fの6機体制でデカン高原へと向かった。

 小型とは言え異生物を20体となると相当な重量になる。

 一応大型タンカーを改造した給油施設や整備施設を持つ全長450mの船を近くの海上に待機させていた。



 「見えてきたな、あれが巣か」

 ガイが窓から見ていると大地に巨大な穴が穿たれ、その周囲を何らかの施設が取り巻いていた。

 「危険性があるため半年に1度のメンテナンスと調査以外には誰も来ません。今は無人のはずです」

 ヘリのパイロットがそう言いながら穴の近くに降下していった。


 地上に付くと鉄柵の上にスピーカーが設置されており、ブーンと低い音を穴に向けて響かせていた。


 「へえ、音で封じてるってこういうことか。結界装置だって聞いてるけど」

 ガイが言うと

 「奴らの嫌がる音なんだってよ、まあ地下200mまで降りればかなりの数いると思う」

 ウマナが説明すると

 「お前よく知ってるな、初めてじゃ無いのかよ?」

 リュウが訊いた。


 「博士に言われて一度だけ調査目的で来たことがある。タクラマカン砂漠のだけどな」

 6組の回収部隊は建物に入り、延々と続く階段を降りることとなった。

 「穴に飛び込むと一番下まで落ちていきなり囲まれる可能性があるからな」

 ウマナにそう言われて、調査用の横穴から降りることにした。


 監視用の超強化ガラスから下を見ると、まさにうじゃうじゃというのが正しい位の異生物がひしめき合っていた。

 「表層だけで500は居るな、確かデカン高原の主はSランクの新女王だったよな」

 ガイは一応世界に10ある封印場所のデータを知っていた。

 「で、狙うのは?」

 ウマナがガイに訊いてきた。


 「Dランクを20匹、あの目が黄色い奴らだな。働き蟻みたいなもんで攻撃力は弱い。ただ、Bランクの戦闘種が近くで守ってるから注意しろよ」

 「どのランクの異生物も防御力は同じだ、首の後ろに見え隠れするコアを破壊して、回収はサヴァイヴたちに任せる」

 ガイは作戦を立てることにした。幾ら自分達が強いと言っても一斉に囲まれれば危ない。


 「ザビー、出来る限りスナイピングで動きを止めて欲しい、危険なやつから頼む。

  リュウとオランドは突っ込んでかき乱せ、俺とキャルは剣で戦う。ウマナはサヴァイヴ達に回収させてくれ」

 捕獲作戦は決まった。


 保守点検用の分厚い扉を開け、ガイ、リュウ、キャル、オランドが飛び降りた。

 ザビーは50口径の対物ライフルで狙いをつけては外皮ごと正確にコアを撃ち抜く。

 ガイとキャルは剣で異生物達の固い外骨格のコアを守る部分を切り裂いていった。

 そして丸出しになったコアをリュウとオランドがライフルで撃ち壊していく。

 ザビーの銃とは違い、通常のバトルライフルでは3発は叩き込まないとコアを破壊できない。

 しかし雷帝と言われるオランドは通常のカービンライフルやPDWも一種のレイルガンに変えてしまう。

 外皮で防護されたコアをクロスレンジでの1撃で破壊していた。

 ウマナはサヴァイヴ達に指示を出して、コアを壊されて動かなくなった異生物を回収していた。


 2時間ほどすると目標の20体の倍以上を捕獲し終わっていた。

 「Dランクが35体にCランクが5体、予定外のBランクが3体。さすがにBランクはザビーが居なけりゃ危なかったな」

 Dランクのいわゆる働き蟻相当を狩っている途中にBランクの戦闘種が襲ってきたのを優先的にザビーが撃ち抜いていた。


 「しかしザビーの銃は強力だな、今回の狩り用の特別製だから普段は使えないだろうけど、音速を超える銃弾はBランクの装甲も撃ち抜けるのがわかったな」

 貴重なエテルニウムとサイメタルの素材は思った以上に入手できた。

 ヘリ周辺に運ぶ前にオランドがもう一度コアに銃弾を撃ち込み、安全を担保した。


 「さて、近づくのも禁止されてる場所だし早く撤収しようぜ、見つかったところで文句は言われないだろうけどな」

 ガイ達とサヴァイヴ達が動きを停止した異生物をヘリに積み込んでいった。

 「俺達ってこいつらと戦うために作られたんだよなあ、これが本来の仕事か」

 リュウがぼそっと呟いたが、その言葉に対して

 「こんな数相手じゃ疲れるよな?けど世界中の軍が5年がかり、兵2000万人以上が死んだって聞くぜ?」

 ウマナが異生物を引きずりながらリュウに言った。


 「2000万人ねえ・・・俺らのサイコニウムはその兵士たちから回収されたものも使われてるんだろうな、もうちょっと位有ってもいいのに」

 リュウも異生物を引きずりながら答えた。

 「そうそう、再利用だな。それだけの死人と比べると思ったより在庫が少ないぜ」

 彼等アルファベットは人の死に対して何の感慨も抱かない。自分達を使えば半分程度になってただろうと無駄な死だとは考えたが。


 収穫をシルビアの居る島へ運び込み、ミッションは完了となった。

 「皆ご苦労だったな。これから解体してエテルニウムとサイメタルを生成する」

 「これでサヴァイヴも材料を気にせず作れるし、島の警護が増やせる。助かったぞ」

 ただ一人で島に居るシルビアを守るのは戦闘用に作ったサヴァイヴ達だった。

 用途が限られているため、量産型であり、アルファベット達が持つ特別製のサヴァイヴと比較すると簡単な構造だ。

 プロトタイプからそう多くの改造はされていない。


 「では帰ってもらっていいぞ。私はこれから忙しくなる、各自いつもどおりの生活に戻ってくれ」


 これで2日間のミッションを終わらせた。

 今回の事を考えると、26人のアルファベットと26体のサヴァイヴ達が揃えば巣穴を攻略できる可能性は有るとシルビアは考えていた。

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