#2 世界大戦と異形者
「うわ、これなんなんだよ。銃弾をえぐり出してやがるな?」
ビル一面に散らばる死体を見て鑑識の主任が言った。
「そうですね、銃弾から割り出されるのを予想してでしょうか?」
男の部下が質問で返した。
「そうじゃねえんだよ、現場と倒れてる奴らを見ただけでもう誰がやったかはほぼわかってる。犯人は逮捕できない奴か奴らだろうな」
主任の言葉に
「あぁ、そういうことですか、じゃあ自分たちの仕事は終わりですね」
その言葉が正しいことを表す証拠に、死体は何の確認も行われずにただザックに放り込まれていた。
「やってくれるねぇ、ここらじゃタチの悪いギャングを幾つも束ねてた奴だろ?コイツは」
刑事は捜査の為に来ているのではなく只の確認のために来ていただけだった。
「招集でもかけたか?殆ど全員やられてるじゃねーか」
「早く片付けて、やっとこのビルも解体できるな」
煙草を咥えて火を付けながら刑事は汚れていない椅子に座った。
「ふぅ~・・・マーズかエミリって奴かな?ニューヨークは奴らが居るはずだな。しかし主武器が刃物じゃねーし」
そう言って運ばれていく死体を目で追っていた。
「マシンガンやアサルトライフルを使うのは誰だったかな。しかしSWATでもこれだけのことは出来んぞ、本物の化物だな」
世界が終わろうとしていた2025年に彼等は作り出された。
完成した彼等は異形の生物との決戦用だったが、人類はなんとか各大陸の中央にその生物達を封印した。
彼等26人はその存在意義を失い、解体されようとした時にシルビア特務主任によって連れ出され、逃された。
逃亡と同時に大量の資材が研究施設から持ち出され、以後全員が世界各地に住むことになった。
リュウの最初の仕事は犯罪者集団の占拠しているビルの殲滅だった。
とある誰かが何かに失敗し、囚われの身となっており、その人物を奪還した後に関係者全員の処理。
そう難しくない仕事なので5000万ドルで引き受けた。
シルビアのコネクションと彼等の存在で巨額の仕事が入ってくる。
いわゆる何でも屋、それも危険な仕事専門である。
「ビルを占拠してる奴らの掃除とどっかの誰かの救出ね。
ショットガンとカービンライフルに拳銃2丁で十分だ」
「このビルかなあ?結構高いけど、なんだか廃墟みたいだねえ」
「車もいっぱいあるな、楽しみだ」
100m程離れた場所から見上げていた。
てくてくとそのビルまで歩いていくと
「止まれ、何者だ?」と問われた。
「んーと、ここに捕まってる人を迎えに来ただけなんだけど?」
リュウがそう答えると、銃を向けられたまま
「そのライフルにショットガンでか?1人で俺達を相手しに来た?バカかお前?100人は居るんだぜ?」
そう言われた瞬間にリュウがサイホルスターから拳銃を引き抜き、入り口に立つ2人の眉間を正確に撃ち抜いた。
「100人か、情報ありがとね~♪」
「つーか、100人ならこんなにマガジン持ってくるんじゃなかったな」
リュウはボヤきながら階段を上がっていった。
丁度2階に登ったときだった、カラシニコフを構えた数人の男達に囲まれた。
「おまえどこ・・・」
1人が口を開くのと同時に7人の男はそれぞれ眉間や心臓を打ち抜かれて倒れた。
「この辺はまだザコだろうねぇ、エレベータを見ると15階か。で、今のところ9人でー残りが91人」
正確に100人のはずはないが、数を数えていくことにした。
3階、4階へ登ると同じように複数の男達に囲まれた。
「残り68人かな?」
リュウは倒れた男が無線機を持っているのを見つけて取り上げた。
「ハロハローこちら回収人だけど、捕まえてる人を解放してくれるかな?もしくは全員死ぬ?どっちにしても殺すけどさ」
その言葉に
「お前は何者だ?死にに来たのか?」
と返答があったが、リュウは「んーとね、じゃあ皆殺しね」と言って無線機を握り潰した。
その後ガタガタと足音が聞こえ、大勢の男達が階段を下りながら銃弾を雨のように降らせてきた。
両手でM4A1を持ち、壁を蹴りながら階段を使わずに上って行く。
当然セミオートで順番に男達を殺していった。
「あれ?もう15階か?撃ち漏らしたっけ?」
リュウが下を見ると今度は階段を登ってきているようだった。
とりあえず最上段に座り、現れる男達を正確に撃ち抜いた。
「もう終わり?今で82人だったよな、確か」
耳を澄ませてみても物音一つ聞こえなくなっていた。
「まあいいや、情報だとこの階のどこかの部屋だったな」
しかし10部屋有るようだ。
マスターキーつまりはスラグ弾を込めたショットガンなのだが、それで部屋を次々開けていく。
ショットガンを使うのはライフルでは近接破壊力が低いためだ。
蹴り破る方が簡単だが、今日履いている靴は新品なので汚したくない。
部屋に入るなどという面倒なことはせずに、ドアを開けては特殊なガスグレネードを放り込んで燻り出すことにした。
廊下でリュウが待っていると足音が聞こえたが、煙で確認出来ないため座って待っていた。
そして、もう一度写真を確認し、回収目的の人間以外は姿が見え次第拳銃で撃ち倒していく。
10人程度を撃ち殺した時に「待ってくれ!」と言いながらゆっくりと歩いてくる男の姿が見えた。
両手を上げて近づいてくる。
「完敗だ、もう逆らわないし人質も開放する。俺だけでも助けてくれ」
リュウはもう一度写真を確認し
「全滅させて目的の人を救出するだけなんだけど?」
「お前ってここのボスじゃねーよな?まあ見逃してやってもいいけど、代わりに今すぐに例の人連れてきてよ。探すの嫌なんだよ俺」
そう言うと男は
「分かった、連れてくる」
とだけ言って戻っていった。
1分もせずにその男は目的の人物を連れてきた。
「約束だ、見逃してくれ」
男はその人物をリュウに引き渡した。
「全滅させるのも契約に入ってるんだけど、いいよ一人くらいなら。ボスは殺すけどね」
平然と恐ろしい言葉を吐きながら、リュウは目的の人物に
「ちょっと俺の後ろに居てくれる?」と言い、目の前の男には「そのままこのビルから出ていっていいよ」と伝えた。
すると
「もうボスは俺の手で殺した。他の側近連中も全員。残りは数人だろう、一番奥の部屋にいると思う」
「噂通りだな、もうあんた達と敵対する気は無いよ、俺の顔を覚えていてもらえると助かる。名前はリズ・デルティアだ」
男は冷酷な笑みで語った。
両手を上げたまま男は階段を降りていったが、男の言葉ではまだ数人は居そうだったので
「ちょっとこっちの部屋に隠れててくれる?」
安全を確認し終わっている一番端の部屋へ小太りな男を放り込んだ。
「後何人か片付けてくるんで」
リュウはアサルトライフルとショットガンを置いてグロック18を持ち反対側へと歩いていった。
数分も掛からずに処理は終わった。
ボスらしき人物は男が言っていた通り既に頭を撃たれて殺されていた。
「んー、これってミッション完了でいいのかな?まあいいか、後は銃弾の回収だね。これが一番面倒なんだよな、仕方ないけど」
リュウは特殊な器具で死体の体内に残る銃弾を回収していった。
一通りそれが終わると、また最上階へ戻り怯えている男に向かって
「もう安心だよ?皆殺しにしたから。じゃ行こうか」
と言って連れ出した。
弾丸の回収時に死体のポケットから車の鍵を複数見つけていたので
「どれかは使えるだろうから、ほら、降りて降りて」
階段を2人で降りだした。
途中転がる死体を見ながら
「これを君一人でやったのかね?報復されないだろうか?」
その男はまだ怯えていた。
「大丈夫だと思うよ、俺達が一度助けた人間には犯罪組織は手を出せないことになってるから」
これが世界中に彼等の協力者が居る理由の一つだった。
リストに入っている人物の安全は保障される。
もしその安全が脅かされた時は、要請に基づいてその敵を排除する。
そして、それは誰にも止められない。100万の軍隊を持ってしても。
「ははは、大当たりだねぇ~俺89年式ポルシェ930ターボのゲトラグミッション欲しかったんだ。誰か知らないけど趣味良いね、完璧にフルレストアしてある」
無邪気に笑う殺戮者の横で”助け出された男”は顔をひきつらせていた。
その日、協力者のリストに一人の男の名が追加された。
リズ・デルティアと言う名の暗殺者だった。