#1 26分の1
その日、リュウは1億ドルと言う巨額の報酬のために働いていた。
「ねえねえ、頼むから教えてよ?」
豪華な部屋で数人の死体に囲まれながらリュウはその組織のボスにショットガンの銃口を咥えさせながら言った。
「はひ、へほほへひゃあはへへまへふ」
そのボスとやらは完全に怯えながらなんとか答えようとしていた。
「あー?なんだって?言葉になってねーぞオイ。あ、そうか、ごめん」
そう言ってリュウは男の口から銃を抜いた。
「で?どこに居るのか教えて欲しいんだけどー?」
リュウが言うと
「奥の部屋に居ます、渡しますから殺さないでください」
男にそう言われたが、言葉の前半にしかリュウは興味を持たなかった。
ドガっとその男を指さされたドアの方へ蹴りつけると、ドアに当たって静かに落ちた。
「あれ?結構丈夫だな?で、このドア?」
リュウが訊いたが返事はなかった。どうやら気絶しているようだ。
その姿が気に食わなかったのか、リュウは男の片足を銃で吹き飛ばした。
「まあいいや、このドアね、鋼鉄かぁ?金庫かよ」
リュウは銃でコンコンとノックしてすぐにその分厚い鋼鉄のドアを蹴り破った。
厚さ10センチはあろうかと言う扉が、枠ごと吹き飛んで部屋へ足を踏み入れると数え切れない数の銃弾がリュウめがけて飛んできた。
「服はよ、もうボロボロだし良いけど今更逆らうかぁ?」
部屋の中に居た5人の男達は弾の出なくなったライフルやサブマシンガンの引き金をカチカチと引きながら怯えきっていた。
「弾切れか?じゃあこれ、やるよ」
とリュウは自分の持っていたショットガンを投げつけると、男の体にめり込んで倒れた。
「あ、意外ともろいね、鍛えなよ」
部屋の中を見渡しながら「どこ?」
と、今度は拳銃をヒップホルスターから抜いてブラブラとさせていた。
「どこー?って訊いてるんだけど?俺、今、分かる?ドコー?って訊いてるの、俺」
そう言って2人の頭を一瞬で撃ち抜いた。
「残り2人だね、俺探すの嫌なんだよね?約束するよ、例の男がどこに居るのか教えてくれた方は殺さない」
リュウの言葉に残った2人が瞬時に反応して
「このベッドの下に居ます!」と同時に言った。
「今同時に言ったと思っただろう?けど同時じゃなかったんだよね~、俺には分かるんだ。動かないでね」
リュウは脅しながらベッドを持ち上げた。
「あ、こんにちは、俺はリュウ、あんたを助けに来たんでよろしくね」
ベッドの下に隠されていた目的の人物を見てポケットから出した写真と見比べた。
「マイケル・アルバートさんだよね?偽名だろうけど」
リュウは確認を済ませてからベッドを元に戻し
「間違いないね、後はどっちが早かったってことだけど・・・」
拳銃をまだブラブラさせながら
「「例の男がどこに居るのか教えてくれた方は殺さない」って俺約束しちまったし、どっちも逃げていいよ」
その言葉に二人の男は部屋の外へ走り去っていった。
「どうも~、回収屋のリュウっていいます。今回は極秘ってことで2人で空港まで行くんで歩いて行きましょう」
リュウはアルバートと言う名の男をベッドの下から出してビルを降りることにした。
「あんたが回収屋のリュウ・・・つまりRか、噂通りタフな男だな」
アルバートは目の前に居る男をじっと見て
「俺の値段はいくらだった?」とリュウに尋ねたが、すぐに
「いや、忘れてくれ、俺の値段じゃなくこのデータの値段だな」
そう言って左胸のポケットを右手で押さえた。
「うんうん、生死不問って聞いてたけど博士がね、生かして回収って言うんで」
「まあその話はいいじゃん、出口まで俺の後ろを着いてきてね?」
リュウはバッグを渡して
「中に防弾チョッキと銃があるから、よろしく」
アルバートに自分の後ろを歩かせることにした。
この世界にはリュウと同じような”存在”が26人居る。
彼等彼女達はいわゆる”捨てられた者”達である。
エース、バスター、キャル、ダラム、エミリ、ファム、ガイ、ヘンリー、アイリス、
ジャスティ、クワン、リサ、マーズ、ニック、オランド、パム、クイーザ、リュウ、
サンサ、ティム、ウマナ、ヴァル、ホワイト、ゼノン、ユイリ、ザビー。
AからZ、通常はアルファベットと呼ばれる者達である。
彼等と彼等の縄張りに手を出せば、それが誰であろうと、どのような組織や国家であろうとも巨大な見返りを支払わなければならない。
「なんだか知らないけど、金が掛かるんだよねー」
リュウはアルバートの先導をしながら話しだした。
「年間最低10億ドル必要なんだってさ、稼がないとね」
既にビル内の敵は一掃しているため適当な話をしながらリュウは降りていった。
ビルから出ると1台の見慣れた車がリュウとアルバートの目の前に止まった。
「ランチアデルタHFインテグラーレ?ガイか?」
リュウが言うと車の窓がジーっと下がり
「お届け人が来たぜ?早く乗れよ」
やはりガイだった。
二人が組み始めて半年が経つ。同じ”日本人タイプ”と言うだけでなんとなく気が合った。
「あと、お前のサヴァイヴが出来上がったんだとよ、博士から連絡だ」
しかしリュウは
「なんだよ、あんまり目立たない車があるんならちょっと待っててくれよ、あいつらかなり武器持ってたから貰ってくる」
アルバートをガイの車の後部座席に押し込み
「守っといてよ、行ってくるね」と、ビルへ戻っていってしまった。
1時間もした頃だろうか、袋を幾つも積んだハマーH1がガイの車に近づいてきてドアが開いた。
リュウだったのだがてくてくとガイの車までやって来て
「結構良いのが沢山あったぞ、RPG7とかさ、P90やタボールも有ったのになぜ使わなかったんだろうな?旧東側の武器が好きなのか」
「とにかくハマーに乗るだけ乗せてきた。さあいこっか」
楽しげに言ったが
「お前な、人を1時間も待たせた挙句それか、謝れこの馬鹿野郎。まあいい、俺が届けとくんでお前は先にベッドに戻っておけ」
極力人目に付かないようにそれなりの4ドアで迎えに来たのにハマーのような目立つ車と同行は出来ない。
ガイは一人でアルバートを空港に届けることにした。
その間にリュウは一度借りているアパートへ戻り車を停めて武器を部屋へ運びこんだ。
更にタクシーで戻り、もう1台マイバッハS65の鍵を手に入れていたためそれも持って帰るつもりだった。
ついでに死体が握っている銃の中でも好みのものを選んで30丁程を手に入れ、弾薬もほぼ全て奪った。
ハイエナのような行為だが、銃火器の禁止されている国で武器を集めるには一番良い手段である、それを実行しただけだ。
「実動のワルサーP38なんて手に入ると思わなかったな~」
リュウは鼻歌交じりにマイバッハをアパートとは別に借りているガレージに入れて、徒歩で部屋へ帰った。
しばらくしてガイが部屋へ戻ってきて文句を言い始めた。
しかし、リュウには罵詈雑言の類は一切理解できないため最後にリュウが軽く小突かれて説教は終わった。
「終わった?じゃあラーメン食いに行こうぜ、ガイ」
リュウが言うと
「この国にラーメンなんかあるか!ピザにする!」
と、リュウを連れて出ていくことになった。
「で、お前のサヴァイヴの件だけどな、明日受け取りに行っとけよ?メイスンに飛行機の手配させといたから」
店まで歩きながらガイが話しだした。
サヴァイヴとは例外を除いて、少年もしくは少女を模したAI搭載アンドロイドである。
彼等と同じく骨格に相当するメインフレームにサイコニウムを使用されているが、筋肉に相当するエテルニウムはほぼ使われていない。
生成の難しいエテルニウムはリュウ達のメンテナンス用に保管されている。
次の日、リュウは専用機で南海の孤島の滑走路に降り立った。
「リュウ、急ぎの仕事ですまんな、入金は確認出来た。お前達にはいつも感謝している」
世界中の地図やデータから抹消された島でリュウはシルビアと言う名の博士と話をしていた。
「いやあ、ただの恩返しだしね。そんなことよりサヴァイヴが出来たってガイから聞いたんですけど?」
リュウ達が稼いだ金は全てシルビアの口座へと入る。
そしてその莫大な研究費を使ってシルビアは新たな”マテリアル”を作り出す。
「お前用のサヴァイヴは注文がなかったんで一番メジャーな少女タイプにしたぞ、これで26体揃ったな」
「コイツがそうだ」
シルビアがキーボードで何かを打った時に直径1メートルのシリンダーが降りてきて”サヴァイヴ”が見えた。
リュウは
「性能が良けりゃなんでも良いんだけど、武装は?」
と、シルビアに訊いた。
「フレームは最終型のJP7型でかなりの武装が内蔵出来るな、ガイのサヴァイヴとそう変わらんが」
シルビアが言うと
「ガイの?シンシアと同じってんなら助かるな、あいつ空飛べるし、街の一つ位消せるし頑丈だし、確か家事も出来るんだよね」
リュウにとってはサヴァイヴも核弾頭も同じようなものだが、サポートの有る無しは戦果に直結する。
どんな形であろうと必要なものだ。
「で、自我を抜いておいてくれっていう注文には?」
リュウが訊くと
「基本部分の他は白紙だ、善悪の区別はお前達以上に無い。基本的な知識だけを入れて後はこの中に」
シルビアはチップをリュウに投げた。
「数種類ずつ入れてある、お前の好きなようにインストールすればいい」
「ありがとね、シルビア博士♪この子は俺が育てるよ」
リュウはそのチップを自分の額のスロットに差し込んだ。
「ああ、こういう編成か、少し変えないとこの子壊れるね。良心を完全に無くしておかないと」
シリンダーから出て、既にリュウの横に立つ少女の姿をした最凶の兵器の頭を撫でた。
「えーと名前はナビィにして、主武装のメインは斬撃のできる物にするよ。俺の主武装が射出系だからね」
リュウは構成をガイと正反対にした。
ガイの主武装は剣や斧等の斬撃武装で、シンシアは射撃武装を基本としている。
「ところでな、先程届いた依頼だが、ひねくれた政治家に一人の男が罠にはめられたようだ、どうする?我々の協力者の一人だが」
シルビア博士はこのように殆ど金にならない情報を時々話すことが有る。
協力者とは世界に数百人居る出資者や情報提供者、サポーターである。仲間ではあるが重要度で区別している。
今回の協力者はパイロット、つまり最低レベルのサポーターだ。
しかし、シルビアが少しでも気にかけているというのなら、片付けねばならないミッションなのだろう
「受けますよ、その政治家を殺せばいいんですね?」
リュウは一番簡単な方法を選択した。
シルビアは一つ頷き
「そうだな、あとは二度とこのような事態が起きないように恐怖を与えるやり方をしてくれると助かる」
2日後、リュウはナビィと共に世界のあちこちの政府に口出しできると言う巨大権力を持つ政治家を殺害した。
今回はナビィの初陣であり、調整のための作戦行動だったが、高層ビルの数フロアと300人以上の人間を”壊し”た。
その行為は大々的に広められ、腐敗にその身を落とした他の権力者達を震え上がらせる結果となるはずである。
「また服が駄目になったな、しかしあの馬鹿は結構貯め込んでたし、他の全財産も頂けるからいいか」
「ナビィ、死体から銃弾を回収しておいてくれ、出来るだけ多く」
リュウ達がやることに対しては基本的に誰も反発は出来ない。
もし彼等を否定したならば、待っているのは破滅、それに身の安全の完全な喪失であるからだ。
リュウは副産物として金庫室にあった5000万ドル以上を手に入れた。
他にも不動産や株式、金属資産や企業権益等”処理”した政治家の資産は全てシルビアのものとなる。
そして、誰にも文句は言われない。
「全部の資産価値は75億ドルを下らんな、素晴らしい仕事だったようだ」
キーボードを打ちながらモニターに並んだ資産を見ていた。
「奴の国の政府から相続人の権利がなんだかんだと言われたが・・・」
シルビアが言う前にリュウが
「じゃあその相続人っての全部やっときますか?あと文句を言ってきた政府とかも全員殺しときますね」
リュウが先走って出ていきそうだったので
「いや、その件は納得させた。で、不愉快だったから慰謝料10億ドルも請求して明日支払われる。高く付いたいちゃもんだったな」
シルビアはリュウを止められるだけの材料と巨額の慰謝料もちゃっかりと手に入れていた。
「ああ、じゃあいいね。で、今年の俺の稼ぎになるのそれ?なら100億ドル超えで完全にノルマ達成なんだけど」
「お前は自分のノルマをいくらにしてるんだ?まあ良いが無理はするなよ、メンテナンスにもかなりの資材が要るからな」
シルビアのその言葉を聞いてリュウは
「あ、そうだ、忘れてた。貯めてた銃弾2000発位あるから渡しておくよ」
ナビィの背中のリュックから袋を取り出してデスクにドシャリと置いた。
「足りないだろうけどね、でもサイコニウムは多いほうが良いし」
リュウ達の骨格やナビィ達のメインフレームにはサイコニウムと言う精神感応金属が使用されている。
この金属は製法が特殊で、死体から回収された弾丸とエテルニウムの合金から生る。
いわゆる怨念と呼ばれる解析不可能なエネルギーが必要であった。
最初のサイコニウムが生成されたのは異生物の出現時に戦った兵士達から摘出されたエテルニウム製の金属断片からだった。
未知の金属であるエテルニウムは銃弾を跳ね返し、ミサイルの直撃にも耐えた。
核爆発の高熱やガンマ線にもほぼ影響を受けない無敵の金属だったのだが、サンプルをシルビアが率いる国連の研究チームが解析に成功した。
結果は「体表面に弱点はない」だったのだが、代わりに”コア”と呼ばれる唯一つのコントロール中枢を破壊すれば異生物の機能を停止出来ることがわかった。
流体にも固体にもなるエテルニウムを研究して、人体に組み込み兵器として運用することが考え出され、シルビアはその研究に没頭した。
別の研究チームが、持ち帰られた異生物を分解し、エテルニウム製の弾丸や榴弾を作り上げ、人類の反抗が開始された。
そして、5年に及ぶ戦闘を人類の勝利で終わらせた。
その時にはリュウ達26体は完成していたのだが、今度は彼等が人類に対する脅威となるということで処分対象とされた。
元々が各国の特殊部隊に所属する隊員の死にかけた体である。既に死亡の通知は出されている。
だが、シルビアは破棄される直前に26人の新生物を開放し、研究所から共に脱出した。
研究所に蓄えられていたエテルニウムとサイコニウムの材料、そしてサイメタル。
すべてを奪い、データを研究所ごと破壊し、無人の島へと辿り着いた。
そこからシルビアによる異生物の完全駆逐計画が始まることになる。
異生物に勝利したとは言え、それは世界の数カ所に封印しただけで、未だ脅威は世界に残ったままなのである。
「あ、そうそう、もう一つ用が有った」
シルビアはリュウにカードを渡した。
「そろそろお前も持っておけ。その気になれば空母でも買えるカードだが無駄遣いはしないように。キャッシングは月に100万ドルまでだからな」
そう言われてからリュウはそれを受け取った。
「これってラーメン屋で使えるのか?」
リュウは受け取りながら言ったが
「お前もガイもそういうものばかり好むようだな?世界有数の資産家のはずなんだが・・・」
シルビアが困惑していると
「そういうのはいいから、使えるのか?」
リュウが問い詰めた。
「使えないよ。現金で100万円程度持っておけ。日本ならそれだけあれば十分だろうよ」
シルビアは呆れながら言ったが
「これ、現金も引き出せるのか?これからはガイに貰わなくても良くなるんだな、助かるよ。でも使い方聞かないとなあ」
リュウには基本的な知識が欠如している。特に金銭的部分はガイに管理してもらっていた。