9日目
____眠れなかった。
徹夜である。
いい歳した男が怖くて眠れないなんて
笑い話にもなりゃしないが…。
命がかかるとなれば
恐怖を感じざるを得ない。
それ程にアイツは獰猛だったのだ。
それに、
ここまでの逞しい働きと成長ぶりに
若干忘れかけているが、
本来俺はインドア派。
そういった恐怖からは程遠い生活をしていた人間。
耐性が無いのは仕方の無いことである。
取り敢えずは
1日でも早く屋根の組み立てを終わらせる為、
作業に取り掛かることにした。
木材の形成については、ドアや床を作った経験から
だいぶ早く進んだ。
こうも連日連夜大工仕事をしていると案外早く慣れるものだ。
勿論、素人の仕事なのでどれも見た目は粗末である。
しかし、スムーズに滞りなくこなせた事で半日もあれば木材の形成は完了してしまったのだった。
昼には採取した木の実を食べてから鑢がけに移る。
もうそろそろ鑢も使い切ってしまうだろうが、
鑢をかけるのとかけないのでは木の傷みの進行具合が、
天と地ほども違うのだ。
本当は鉋があれば良いのだが、
流石にそんなものはないので鑢がけだけで我慢する。
1時間、2時間、3時間と時が過ぎても
俺は夢中で木材を研磨し続けた。
必死で無心になろうとしていたのだ。
しかし、なれなかった。
____この作業の最中にさえ、
アイツの姿は脳裏を離れなかった。
それ程までにアイツは俺にとって恐怖の対象なのだ。
小さな物音にも身体を強ばらせる上に、
日が暮れてくれば作業を明日にしようかと思い始めるあたり
完全に臆病風に吹かれてしまったのだろう。
孤独は平気な方だが、
やはりこういう時に誰かがいればと
甘ったれた事を考えてしまう。
非常にまずい状況なのではないかと内心危機感を覚えるが、
そもそもここには海難事故で漂流して来た身。
「他の皆はどうなったかな…」と虚空に呟きながら
住居に帰るのだった。
昔やってたゲームなら家を1から作っても半日で完成したのに、現実では途中から作っても9日経過して屋根1つ無い。
未だに満天の星空を眺めている。
知識はあっても身体が追い付かない。
別段書く必要性も無かったが、
手は木のササクレや岩肌、なれない工具のせいでボロボロだし、
全身は虫にはあちこち刺されて発狂レベルの痒さを生み出している。
当然、生傷だって絶えない。
今のところ病気になっていないのが奇跡のレベルでなんとか生活しているのだ。
あと、正直木の実と貝だけの食事も飽きてきた。
明日でこの無人島生活も記念すべき(記念する必要も無いが)10日目である。
このペースならばようやく念願の屋根が完成しそうだ。
____明日も早起きをする必要性がありそうだ。
他の皆の無事を祈りながら眠る事にする。