8日目
____ヤシの実の甘い香りが鼻腔を突いて目を覚ます。
ちょっと早いが朝である。
まあ、早起きは三文の得と言うだけあって幾分気分がいい。
取り敢えず昨日遅く起きた分、今日は早く起きよう。
昨日沸かしたお湯が夜の気温低下により冷めているので、それで顔を洗う。
それから床材の乾き具合を調べるが、どうもあと少し…という感じがしたので、
食糧の採集がてら、浜辺にあるものを探しに行く。
あれだけ物が漂流しているのだから一つくらいはあるだろう。
という考えで砂浜を彷徨くと案の定それは見つかった。
まずひとつはペンチ。これが入手出来たのは非常に大きい。
後はボルトを見付けるだけだ。
俺は砂浜を探して歩いた。
大体3時間くらいだろうか。砂漠の中で遭難者を探す様な気分で彷徨いた結果。
合計3つ。不揃いだが、どこの国のものかも分からない車のナンバープレートから2つ、何の一部かも分からない鉄の部品から1つを見つけることが出来た。
案外探せばあるものである。
あと、鉄杭も見つけたのでこれも後で使う事にした。
こちらの取れ高は上々である。
欲を言えばボルトは四つ欲しかったのだが。致し方なし。
海岸は天国だ。
正直今、全く魅力的でない漂流物達も
そのうちお宝に見える日が
来るかも知れない。
まあまだガラクタにしか見えんのだけれども。
そうして、俺は取り敢えず海で貝を採取してから家へと戻る。
いやはや、今日は豪華な鮑だ。
とても嬉しい。
新鮮なうちに踊り焼きとかしたいな。
____という訳で急いで作業に入る。
充分乾いたような感じのスベスベになった床材を綺麗に掃除したコンクリートに
ピースを填めるように敷いていく。
割とぴったり入っていく様は頗る気分が良い。
これでようやく裸足のまま家の中で寛ぐ事が出来そうだ。
床材を敷き終えたら早速裸足で寝転がる。
とても気持ちがいい。
コンクリートと違って温もりを感じる。
やっぱり木って偉大なんだな。と、
感慨にふけるもののすぐに気付く。
見渡す限りの青空と眩しい太陽。
ああ、まだ屋根作ってなかったわ…と。
しかしまあ、既に勝利のメソッドは出来ている。
取り敢えず竈の火で鮑を踊り焼きにしてから作業に取り掛かろう。
薪に火をつけて火力を高めてから自転車の籠の残骸を網替わりにして、
鮑をその上に乗せる。
そうすると、鮑は踊るようにその身をくねらせながら焼かれていく。
今考えると人間の残虐さがわかる食べ方だよね。これ。
焼きすぎに注意しながら調理し終えると
いよいよ実食だ。
____美味い。美味すぎる。
正直醤油欲しいなとも思ったけど
潮の香りと海水の塩味で余裕で行ける。
しかも肝の味が濃い。
なんだこれ。最高かよ。
幸せに包まれた食事を終えると、ふとスマホを見る。
午前11時30分。
まだまだ一日は長い。
のんびり屋根に使う木材の製材に入る事にした。
まずは改めて室内の状況を説明すると、
実は、四隅に不自然な窪みが有るのだ。
この窪みは恐らく柱を建てるために作られたと考えていたので、
床材を作る時にそのスペースは開けてある。
早速ロープで長さを計測し、記録すると、
次に壁の高さを記録する。
恐らく、
変に庇をつけても風の影響を受けるだけだと考えたので
俗に言う“豆腐ハウス”のようにしようかと思う。
何にせよ、この暑い日差しを避けられるのであれば文句はないのだ。
いい加減屋根が欲しくなった俺は床材を敷いたりして疲れた身体に鞭を打って
早速木を切り倒しに斧を持って少し遠くの林へと向かった。
____林の中に木を切り倒す為の斧の音が反響する。
慣れれば案外スムーズに出来るものだ。
次々と切り倒していく。
ただ、ゲームとは違ってやたら疲れるのに代わりはない。
適度な休息がないとしんどくて死にそうになる。
そうして、
1時間、また1時間と時が過ぎていく。
そうして日が完全に傾いた頃、
遠くで遠吠えの様な声が聞こえた。
1日目のアイツが脳裏を過ぎる。
俺は急いで家に帰るとドアを完全に閉め切る。
____もうあんな思いはしたくない。
家に入ってからは
予め汲んでおいた水を風呂で沸かし、
手拭いを浸して絞るとそれで体を拭く。
それから干しておいた服に着替えてから
今来ている服を水に浸して干す。
一連の作業は迅速に行われた。
そして、最悪な気分で最高の床に寝袋を敷いて寝るのだった。