____2日目
____目が覚めた。
鬱陶しいくらいの草の香りに否が応でも現実に引き戻される。寝る前に見た星は綺麗だった。夢の中で食べた親戚の女の子が作ったボルシチは美味しかった。
だがしかし、ここは無人島である。
寝てる間に襲われる事が無かったのは
不幸中の幸いだろう。
焚き火に目をやるとまだ少しだけ燃えていた。結構長持ちしてくれた様だ。
さて、まず今日どうするかと考えた時に
この家(?)の中の草を刈る事を思い付く。
あとはそうさな。屋根だろうか。
雨が降ったらひとたまりも無いしな。
ここら辺が無難かも知れない。
正直鋸だけで木を切り倒すのは非常に大変だが。致し方なし。
まずは手軽な草刈りからLet's サバイバルだ。
その前に食料も口に含んでおく。
昨日獣にくれてやったのと同じ“干し肉”だ。
「バリうめぇ…」
食べ終えれば鉈を器用に使って草を刈っていく。根っこから丁寧に。
この草はどうやら“麻”のようだ。
いつか使う日が来るはずなので刈っても捨てない。何束か取っておくことにした。
持っておいて損は無いだろう。
その後は黙々と草を刈り続けた。
__2時間後、まだ刈り終わらない。
思った以上に広い物件だった様だ。
正直驚いてる。
まだ午前中なので時間には余裕があるのだが、如何せん暑くなってきた。
取り敢えずこうして物思いに耽っていても草は刈り続ける。
段々プロフェッショナルになってきた。
__そうこうしてるうちに更に2時間経ち、
漸く(ようやく)草を刈り終える事が出来た。
「やっと終わった…俺は成し遂げたぞ…!」
並々ならぬ達成感に、ついつい呟いてしまう。
一息つく為に、朝少し残しておいた干し肉と朝露で採取した水で昼食を取る。
疲れた体に水と干し肉はよく沁みる。
水はそんなに量はないのだが。
しかし、前の住人は水をどうしていたのだろうか。
もしかしたら草に覆われて見えないだけで、近くに井戸でもあるのかも知れない。
少しだけ期待に胸が膨らむ。
ただし、筋力が無いのでペッラペラだが。
まだ雨は降らなそうだしもう少し周りを刈ってみようか。
____そう思って家の周りの草を刈り始めた。
「草刈機が有れば楽なのになぁ…」
なんて贅沢なことを言いながら
草を刈り続けること更に2時間。
____なんと、2つも収穫があったのだ!!!
一つは家のすぐ近く、恐らく元はこじんまりした庭があったのであろう場所に切り株があり、
なんと斧がぶっ刺さっていたのだ。
薪割り用だろうが、木を切り倒すのにも使えそうだ。
そして、最初は鉄板が被せてあって分からなかったが、それを試しに捲ってみると古い古い井戸があったのだ。
まだ飲むのは躊躇われるが
何度も水を汲めばすぐに使えるようになるだろう。
井戸とはそういうものだ。
それに、俺は携帯の浄水器を持っているのだから暫くは大丈夫な筈だ。多分。
取り敢えず今の所は落ちたら危ないので、これもたまたま見付けたバケツ(運良く穴も空いていなかった)にロープを結んで水を一度汲み、蓋をしておく。
もう少し余裕が出来たら囲いを作ろう。
作りたいものがまたひとつ増えた。
それからひと休みしてあることに気付いた。
確かに屋根も必要かも知れないが、
ドアの方が重要なんじゃ無いだろうか。
流石に外に直接繋がっているのは安心感がない。
それに、屋根作りの練習にもなる筈だ。
早速ドアのあったであろう場所を調べてみる。
どうやら、蝶番は残っている様だ。
簡単なドアだったらすぐに作れるだろう。
屋根を作る前にドアで練習してもいいかもしれない。
俺は早速、先ほど手に入れた斧を手に
近くの木を切り倒そうと試みる。
まずは倒したい方向に下から切り込みを入れる。
渾身の力で振ると案外上手くいった。
そしてその後にほぼ真横にもう1度斧を振るうと小気味いい音を立ててから
音を立てて木は倒れていった。
その後、バケツからロープを解いて
ロープに印をつけて
大体のドアの採寸を済ませる。
大体高さ185cm位の小さな入口だったようだ。
勿論物差しなどはないので本当に大体である。
それからロープにつけた印を基に木にも印をつけると、
ここで鋸の登場だ。
曲がらない様に丁寧に板材を製材していく。
ちょっとバリバリしているのは鑢が無いので仕方が無い。
製材が終わったら一旦、リュックに釘を取りに行く。
そのうち尽きるものなので日本建築の釘を使わない技を独学で学ぶしかないがあるうちは大切に使わせてもらう。
ガサゴソとリュックの中を探すと
“お買い得!!釘200本入り!!!”
と書かれた袋を手に取り、何本か手に取る。
そして作業していた庭に戻ると板材にスリットになる様な印を付ける。
これが意外と難しいもので、幅が狭いと全然外は見えないし広過ぎれば雨が吹き込んで来る意味の無いドアになってしまう。
俺は四苦八苦しながら大体これくらいか?
という幅を決めて丁寧に板材をカットすると余った端材と釘で板と板を固定して
ドアを作成する。
入り口とサイズを比べると見事に一致した。
「俺ってやっぱり天才なんかなぁ。」
黙れ一浪。
天の声がツッコミを入れてきた気がするがそれを華麗にスルーして
ドヤ顔のまま蝶番とドアを組み合わせて簡易的なドアが出来た。
しかし、此処で致命的なミスに気付く。
こういう所でうっかりしてしまうのが
『僕の悪い癖(某ドラマの台詞引用)。』
ドアノブを付け忘れていた。
とある構想は浮かぶもののまだ出来そうにないので、
取り敢えずはそこら辺の端材でツマミをつけて暫く我慢することにする。
こうしてドア作りは終了した。
____所要時間3時間。
もう夕方になりそうだった。
案外ドアを作るだけでも(草刈りもしたし)結構疲れた。
まだ暫くは雨も振らなそうなので、
屋根作りはまた後日にしようと思う。
でもまだ時間余ってるじゃん。
そう思ったそこの君。安心してください。家の中でも仕事がありますよ。
それに、俺は8時に起床したので現在の時刻は17時。
夕暮れ時に外での作業は非常に危険なのだ。
昨日の狼の様な獣との遭遇だって充分考えられる。
ビビってる訳じゃない。
生き残りがかかっているのだ。
それに家の中の設備の確認だってしたいのは事実なのだから。
ドア作りに夢中で書き忘れたが、
実は草を刈った時に発見した道具が沢山ある。
一つ目は竈。
簡易式ではあるものの煙突付きで五徳らしきものも付いている為に非常に調理がしやすそうだ。
少しばかり汚れが酷いのでもうちょっとしたら掃除をしよう。
まあ、中に溜まった砂を掃き出すだけなので全く手間はかからないんだけど。
二つ目は機織り機。
古いタイプで手動で動かすようだ。
まだ使う予定は無いのでシートは掛けたままだが、準備が整えばいずれ麻を使うことが出来るだろう。
そして三つ目は、
恐らく風呂と思われる四角い枠だ。
下に薪をくべられそうな竈がある。
時代劇なんかでよくあるタイプのものなのだが、これが実際また難しいのだ。
なにせ一歩間違えれば、天国の風呂から一転地獄の釜茹でになりかねないのだから。
それくらい火加減が難しい。
つまるところは、
“お湯加減どうですか?”
“ちょっとヌルイな”
なんて言うやり取りが出来る2人組とかでなければ無理なのだ。
恐らく前の住人は夫婦かなんかだったのだろう。畜生羨ましい。
とはいえ、お湯を沸かす事には使えそうなので(鍋でもいいが気分的には宜しくない。)手拭い等をこの風呂で沸かしたお湯に付けて身体を拭くことにしよう。
清潔感は大事だ。
ちなみに排水管が外につながっているようなので手間としては水を汲んでくることだけだ。
取り敢えず見つけたのはこの3つだけだが、某ゲームのように1から作る手間は省けたので重畳重畳。
残りの作業は明日にする。
今日はもう疲れたので寝よう。
「それにしてもドアが有るだけで凄い安心感だな。やっぱり外とダイレクトじゃないって言うのがいいんだろうなぁ。」
屋根は無いけどな。と心の中でツッコミを入れつつも
寝袋を容易して中に入る。
今日も月と星が綺麗だ。