十六時限目と放課後
水と魔法の関係性は想像より深い。
魔法陣学においてもそれは例外ではなく、大いに有用であった。
だからこそ、それに関して結構時間を割いたものである。
『血液を使った魔法は不可能である』
ここだけ切り取ったら意味を取り違えそうなものを板書した。
板書は重要であるが、必要十分ではない。
前後の意味を理解してしっかりノートをまとめない事には理解も追いつかない。
それを感じたのは中学生の頃でした。面倒な国語教師です。
思い出したくない懐かしいあの日の思い出を頭の中で巡りながら、講義はまだ続きます。
「僕の本職である魔法陣で例えますと、血液で魔法陣を描くとします。これに魔力を込めて発動するとどうなるでしょうか? 暴発します。暴発と言っても、爆発するわけではありません。血液が蒸発して魔法陣が発動しません。一次反応である発光はしますが、二次反応以降は発揮しないのです。これを通常魔法に例えると――」
血液を使えない理由として親和性が高すぎる点が挙げられる。
消費速度が速く人知を超えているため、それに対応するすべは無い。
仮に反応ができたとしても制御は不可能である。
自分の血液という条件下で。
やはり、重要なことなので『条件下:自分の血液』と板書に付け加えた。
当たり前の事を、ありふれた言葉で、誰しもがやった様に、教えています。
長ったらしく無駄にページを浪費してませんかね?
どうこう僕が言える立場ではないですが、短くまとめて欲しいものです。
理想状態というものを思い出しましたが、それより限定的な気がします。
『血液は対価であり魔法発動に関わらない』
『速度が千分の一秒以下』
『薄めて使用すると血液のみ反応して元の水溶液に戻る』
よし、こんなものかな?
パチンと音が鳴らない程度で軽く指をすり合わせた。
結局はこの部分の問題は僕が作ることになるでしょうが、試験作成が僕じゃなくても大丈夫なよう終わらせたつもりです。
何かやり残したことがあるような気がするのですが、気のせいでしょう。
「時間は少し早いですが終わりにしましょう」
僕は荷物をまとめて講師室へ戻るのだ。
十と六枚目の紙を僕はシュレッターする。
放課後の日課になりつつある工程です。
ここらへんになると工夫とかしてみたくなる。
不可逆的に消滅させるだけじゃなく、スピードとかどれだけ正確に分解できるとか。
美しさも重視して、五ミリ四方の格子状に挑戦してみようかと思ったのが数分前。
出来はイマイチでした。
うとむの間ぐらいの声で唸るくらい不満でした。
ふう、少し暑くなってきたので今日は水出しのコーヒーにしましょうかね?
「アイスコーヒー入れるけど、砂糖とミルクはいるかい?」
「うー、僕は両方で」
「無しで」
両方と無しですね。
僕自身は無し派なので、ガムシロ古くなってませんよね?
小皿に乗せて出しました。
……よし、大丈夫だな。
こっそりと袋の方を確認しました。
容器に書いていなかったのがいけないのです。
にしても二人の集中力は並外れていますね。
他の人が辞めていった要因の一つではないかと思うくらいです。
紙を持ってやってきては、数日以内に辞めていく。それも併せての日課です。
「今回のも根性なかったな」
こんなところにいきなり入会届を持ってくる人物は性格としてどうかという思いは置いといたとしても、四時間と持たず帰ってしまった。
辞めた理由を簡単に言えば肌に合わないという所でしょう。
特にこの何とも言えない空気感に合う人はいないでしょうし。
無言だけど、同じことをやっている様な一体感。
それが僕はなんか嫌いじゃなかった。
そんな、本を読み美味しいコーヒーを飲む時間。
それは潤いに違いない。
「ここは?」
「そこは――」
いつもの通り本を探し、開いて渡す。
そして、僕は教えた。
手を付けていない部分。
彼らも最近分かってきたのか、慣れてきたのか、どうなのか――無駄な質問をしなくなった。
前から変な質問というものは無かったが、最近は僕が説明できる事を質問するようになったのだ。
人は何かを期待するから、それを下回ると失望する。
期待はしなくても、心のどこかでボーダーラインを作っている。
不愉快さはそんなところから生まれるのだ。
長続きさせるコツは無意識にではなくて、始めは意識的にハードルを極限まで下げるのだ。
そうすれば些細なことでも幸せを感じる。不快なことでも意義を感じる。
今日の本は中々考えさせるもので、面白い内容でした。
満足です。
今日も「解散」の一言で終わるのだった。
予定が立て込んでおり、考える時間と余裕が取れそうにありません。
完結するまでは続けたいと考えています。
次回更新が8月中旬以降になりそうです。




