サイカイ
ピーと強く運動場にホイッスルが響く。
「そこまで」
倒れた者は動かない。
それは護身術というけれども命をかけているようで、どう見てもその領域を超えていた。
あまりに違う世界で僕はそれを表現することもできず、恐ろしかった。
ホイッスルを鳴らした講師は冷静に慣れたように「医務室まで運んでくれる? そこの君も」と僕たちに言う。
僕は「はい」と答えたが、ぐったりと動かない様子に少しだけ胸が締め付けられる。
舞台から下して多少の応急処置をして、背負って医務室へと案内してもらった。
「ナンバーは?」
看護師もまた冷静で、僕の心だけが未だに常識であろうとしていた。
「えーっと……特Aの十番ですね」書類をめくって確認し答えた。
「特A、特A、っと。あった。名前は――で合っているわね? 戻っていいわよ。報告よろしく」
「失礼しました」
僕の心は未だに落ち着くことは無く、寝るまで付きまとうかもしれない。
「ありがとう。案内してくれて」
「……あのっ! 魔法陣学、教えてくれませんか?」
「えっと……」
ここでそれを教えるのは難しいので、断る口実を探した。
困っている事を知ってか知らずか、自らについて語りだした。
「自分は無魔力症で魔力を溜めることが出来ない体で、小さい頃に医者が教えてくれた魔法陣が無かったら今の自分は無くて……自分に合っていて、向上させたい。魔法陣の学問を発展させた、あなたを尊敬しているんです。教えてもらいたいんです。だからここで学科を作ってして欲しい」
「そのー、うーん」
断る良い口実が無いのだから、やはり困った。
「困らせるつもりはないので今日はここまでにしますけど、諦めたわけじゃないですから、またです」
そう思うなら、そんな事を言って欲しくなかった。
「来ました」
昨日の今日で講師室まで来ましたか。
僕は髪をくしゃくしゃしながら頭をかいた。
「ほら」と連れてきたもうもう一人を僕の前に促した。
「あのっ、昨日はありがとうございました。私も魔法陣学やりたいです」
お礼の方がおまけに感じるのは気のせいでしょうか? 二倍ほど困りました。
「人数足りないし、サークルって形は?」
僕を見かねた隣の臨時講師が話しかけてきました。
見かねたって表現は助け舟を出すときにしてほしいです。
「うーん。……じゃあ、そんな感じで」
ここまで僕は一言も喋っていないのですが、そんな感じで決まってしまいました。
妥協点はここなのかなぁと諦めた。
ここもまた、生徒に逆らうべき世界ではないのでした。
どこかの金持ちが自分の保身の為に建てた建物です。
税金対策とかいう呼ばれ方もしています。
その一族の身内にそういった人物がいないのが余計にそう言われる一因でもありました。
他にもそういった考えの人はいる訳で、ここを筆頭に何件か一年も間隔を開けないで建設されました。
一つは学力主義と個性を出しました。
他にもそれに対抗してどこか特色を秀出してくる訳で。
ここはといえば、受け入れ態勢を変えることはありませんでした。
そして、通う学生は自分の手を煩わせたくない人物が集りました。
どこかの誰かは『自分と違う』そんな差異を表すためにここの評判を決めました。
それが悪評の元となりました。
それを気にするのは生徒だけではなく――いや、生徒の立場が上なので教員の印象へとも繋がっていきます。働きたくない職場ナンバーワンとも。
だからこその人材不足。
そして、一人当たりが過酷な労働になる。
そんな悪循環が完成したと、それが第三者の僕の評価です。
かといって、職員が足りていたとしても進んで働くとも言えないのですが。
「あー、わかんない。もっと簡単なのにしてくれない?」
それに対して、あえて返答しなかった。
「すいません。騒がしくって……」
アクセントでわからないように、普通を装って嫌味をたっぷりと込めて言いました。
「いえ、進めたのは自分ですし」
少しでも罪悪感を感じといて下さい。
僕を含めて三人しか普段使っていない部屋です。
今日は一人お休みですし迷惑をかけることは無いでしょう。
場所が無いのでとりあえず講師室で始めることにした。
こうして、魔法陣を教えることになった僕は三人分のコーヒーを淹れるのであった。




