十五時限目といろいろ
授業開始一時間前に目を覚ます。
段ボールに入ったままのジャージを引っ張り出して着る。
ほつれた袖を隠すため上に白衣を羽織って、予備の眼鏡をかけて教壇に立つ。
「はい。本日の機能形態学を務めます――」
僕の分野じゃない事をやるのですから、身振り手振りでごまかすのであった。
「魔力は皆さんがご存知の通り、小さな分子であります。
魔法物質間の引力によって体にまとわりついているように見えます。
それは表面積に魔力量が比例するというわけではなくて遺伝子によって決まります。
魔力保有遺伝子Mが起因しており、表皮細胞に多く介在します。
魔力は貯蓄するものではないというのはここからきています。
魔力はとても小さいため皮膚を通過します。
その性質を利用して――」
この教科書わかりにくい。
教えるための教科書じゃないなこれ。
自分の持ち分じゃないし、どうしましょうかね。
他の教授に悪いですし。
自分の担当だけは教科書に沿ってやりつつ、補足知識を入れつつ、試験の事を考えてって感じでしょうかねー。
あれ? 物理学とか科学寄りですけど……まあ、いいでしょう。
とにかく、教科書が分かりゃいいんです。
どうせ、全員が役立てるわけではないですし頭に入ればいいんです。
そういう事にしましょう。
一時間半後の生科学も僕の担当ですね。
魔法陣学に絡めてやれば簡単なのですが……。
そんな感じでやりますか。
終わると外に出るものと残るものに分かれた。
こちらに来てからのこの光景は、僕の中で不自然になっていて、どのタイミングで立ち去るかが難しかった。
この状況は自分に分相応の対応であるものか、それとも不自然に左遷してきた僕に対する警戒か。
――どちらにせよ昼飯です。
学食は学生で埋め尽くされ教員が入る隙はなかった。
特に僕はそれで、さらには人混みは苦手ですので無理そうです。
コンビニなんて便利なものは無くて、購買に軽食があるくらいで適当にパンと飲み物を買いつつ時間をつぶすのだ。
物足りない分は魔法で作る。
レーションみたいなものを魔法で変換する。
自分の記憶の中にあるものに書き換える。
そのままでも食べられますが、味気ないので貧乏人的手段です。多分。
午後の講義が終わり、数時間もすれば人は半数ぐらい減ります。
なんとなく気分が落ち着きます。
そういえば、あっちにいた頃も学部の生徒以外はそれほど出会っていなかった気がします。
どちらの状態にせよストレスはかかるものですね。
書類を書くだけで目一杯なので、新しい研究のレポートは作れそうにありませんでした。
永遠にも感じる膨大な量の書類は、僕を辞めさせるための物。
出世のための左遷でもノーとしたい所の僕ですが、どちらかといえば責任の為の島流しってことです。
ある日、一人の少女は手紙を残していなくなった。
その責任を負う形で僕はここへ来たのだ。
ここは、そういう人を働かせる為の場所でもあるので、良く言えば更生施設。
実態は職場復帰できないので、人材のごみ箱とか墓場とも言われている。
ここで働くという選択肢もなくはないですが、給料は安くて過酷と言われています。
と、二人に脅されてきましたが、ほぼ間違っていないのが何とも言えません。
それでも、できる所まで挑戦してみようと思う。
何か自分を変える、転機みたいなものが欲しかった。
それで自分なりの答えを出せる、そんな気がした。
翌日は実習の副講師です。
やばいですね。いろんな意味でやばいです。
内心はそれくらい焦っています。
皆さんが落ち着いているのが不思議です。
内容は五人組で魔法をするというもの。
自分が見ているグループは生成魔法でした。
ポンとやってポンと終わり。
そんでもって、重要なとこを匂わせつつ終了。
後片付けで約三時間の講義は終了した。
実習の前解説がほとんどを占めるものでした。
自分の感想としては無事終わってくれてよかっただけでした。
もう一つの意味でここはそう呼ばれている。
学生が障碍者であるのだ。
主に魔力が影響する障害。――魔力障碍者の集まりである。
ある者は親の魔力異常の影響で身体に負ったもの、ある者は魔力自体が合っていなくて体に異常をきたす魔力アレルギー所持者、低魔力者や特異魔力所持者など生活に支障をきたす者など何処かが魔法に不一致な人が通う学園だ。
一人が一人分魔法使いになれない、そんな場所だ。
僕はそこで働く。
僕は何を出来るわけでもない事は理解していて、それ以上に無力さを感じさせる。
誰もそんな期待はしていないのに。
そんな無駄な考えさえ頭を巡らされるのは、どこかで余計なことを考えているから。
理想論と正義論がそこへと至らせているのだ。
理想の自分なりの答えを出せる、それも僕のわがまま。
適当な理由をつけてきっかけを作りたかった。
そう思う。
僕はを流し込む。何かを流すために。
美味しさが、味覚が、五感を分散させてくれる。
この前に美味しかった野菜ジュースを再び飲んだ。




