S:スタート地点
「ありがとうございます」と少女の乗った車椅子は頭を下げて去って行った。
この時、いつもある本の一節を思い出す。
公平に接するとはどういう事かといったものだ。
それには筆者の考えや答えが書いてあって正論である。
しかし、それが正しいのかと何故か頭に浮かぶ。
その意見を否定する意味ではなくて、なんとなく納得できなかった。同意が出来なかった。
かといって、捨てるという選択肢は僕には無い。
だから、出来る時はやることにした。
それが、自分が出した答え。
なんだかやるときはやるみたいでいやなのだけれども、全部手を付けるのは無理だと誰でもわかっているから、目に映る世界だけ出来る範囲でやることにした。
答えのない答えを探す。
僕がここにいる理由を見つける為に。
意味を見出す為に。
僕が食事休憩をしていると、二十ほど年上の女性が話してきた。
「いやー、来てくれて本当に助かっているよ。ここは人手がいくらあっても足りないからねー」
「缶ジュースごちそうさまです」
「いいのよー。いつも頑張ってるから」
「確か、ボランティアの――」
「うれしいな。覚えてくれていたんだ。私は――」
人数はそれほど多くないので、見たことある人の名前ぐらいは確認しましたよ。
この人は不眠不休で働いているタフで有名なので覚えずとも頭に入ってしまっています。
「貴方は居なくてもいいのですよ? 私一人でできますから」
「あなたこそ、ここを辞めたのでは? 戻ってこなくても私一人でできますよ?」
僕は苦笑いをしていると「大丈夫ですよ」、「行ってらっしゃい」と二人に見送られたのを今でも覚えている。
一人は「帰ってこられるよう」にと僕の為。
もう一人は「居場所を一つでも多く残す為」と友人の為。
僕の引継ぎをしてくれることになった。
目的は違えど進む道が同じなのがなんだか可笑しくて、安心した。
二人の関係がより一層そうさせた。
ジュルジュルと僕は野菜ジュースを飲む。
これ、美味しいな。
部屋で食べる食事は寂しかった。
周りも静かで物がないので閑散という言葉が当てはまる部屋です。
足を伸ばしたまま両手を床につけた姿勢で天井を見上げる。
凝り固まった首がミシミシといって背筋が伸びる。
「ふー」とゆっくり息を吐く。
やることは変わっても、やるべきことは違えない。
よし。
そして、僕は仕事に戻るのだ。




