彼女は僕の過去だ2
ドアの前でノックする。
僕はドアに向かってゆっくりと話し始める。
「そこにいるん――だよね? 聞いているかわからないけど……」
けど、なんだっけ? 出だしでつまずいた。
でも言いたいことは決まっている。
諦めて気を取り直して話し始めようとしたら扉の向こうから「……さい」と声が聞こえてきた。「帰ってください!」
「帰らないよ。伝えたいことがあるんだ」とこれでもかというほど真っすぐに伝えた。
「聞きたくないです」
「ううん、言うよ」
「ひどい人ですね」
人の心に土足で踏み入るのはやはり向いてない。自分の心が削られる気がする幻覚さえ感じる。自分が無関心だったツケみたいなものであろう。『今の気持ちを伝える』ただそれだけを考えて。
嘘を付いている事はなんとなくだけど知っていた。
「貴方、エリーに何したのよ」
付かされているが正しいかな。
一番決着をつけないといけない人と先に出会って丁度良かった。
「立ち止まってないで、早く追いかけなさい。ねぇ!」
「……」
手を引かれるが僕は動かなかった。
嫌だなという気持ちがこみあげてくる。
その気持ちを抑えて、押し殺して。
「エリーが、エリーがどんな気持ちで。あんな体になってまで、貴方のことが……」
「ねぇ? 本当に心配してる?」
友人の言葉でわかっていた。
嫌というぐらいわかってしまう。
僕は昔から何も考えていなかった。
それに気が付けたのはさっきのことで、本当に自分が嫌になる。
気が付いていたけれど、重要視していなかった。
本当は考えなくてはいけなかった事をないがしろにしていた。
今までの僕の恋愛は受け身であり、他人事だった。
だから『何を考えているのかわからない』なんて言われたのだ。
何を考えているかわからないのではなくて、考えていなかった。
今更かもしれないけど、決めなくてはいけない。答えなくてはいけない。
見ていたのは友人の方だったからだ。
昔の僕を見ている様で本当に嫌だった。
「見ていて不愉快になるんだよね。友人をオモチャにしているみたいで。楽しかった?」
わかっってしまうんだ。
僕もそっち側だったから。
「ねえ。エリーって本当に僕の事好きだったと思う?」
「君は誰が好きなんだい?」
「……」
「僕の事はそれほどでもって感じだよね?」
「……」
「傷の事も聞いたよ。知らなかったのは僕の怠慢だ。ごめん」
扉をドンと壊れないかというほどの音で叩かれた。
なぜ貴方が謝るのですかと言わんばかりに。
僕がその立場だったらだったらそう言っている。
自己責任である事は僕も理解しているつもりである。
「君は生徒だからね」聞きたくない――いや、言いたくない言葉で僕をも締め付ける。
「何言ってるんですか? 最低ですね」
「一度でもエリーから好きと言ったことがあるのかい?」
「ありますよ!」
「君が誘導したってことはない?」
「そんな事……ないです」
「無理やりくっつけて遊んでいたのは君のほうじゃないかな? 最低なのは君じゃない?」
最低なのは二人だと僕の心がものすごく痛かった。
「あの子の体は傷付いてるんだよ? 手の絆創膏だけじゃなくて体に無数の傷があって……。それだけじゃなくて心も傷付いてるんだよ? どうしてそんなにひどいことができるの?」
「ひどい? それは誰に対して? 友人の事を思って? それとも自分?」
今の自分でもその答えを出せるかわからない問を投げかけた。
過去の自分だったら今みたいな顔をしてるのかな?
体調が崩れたり精神的なものに影響されて魔力は歪になるがその程度では怪我はしない。
気が狂うような魔法の使い方をしなければ傷がつかない。
魔力が薄くなっているところから体に傷が走っていった。
それは自傷行為に似た何か。
考えなくなかったからこそ痛みに向かって、吐き気がするほどのめり込む。
ほかの感覚で上書きして、考えないフリをした。
他の人から見れば逃げに見えるけどそうであって、そうであってもそれだけじゃない。
心が拒絶する。
「僕は君の気持ちに答えに来たんだ」
扉はまたドンと大きな音を立てる。硬いものが当たった感じで。
「君とは付き合えない。
自分勝手だよね。
僕は君の事何にも見てなかった。
だから、ちゃんと向き合う時間が欲しんだ。
それまでにキチンと答えるから」
向き合って別れるための言葉なんて僕も想定していなかった。
彼女と付き合うことは何があっても絶対にない。これだけは断言できる。
追いつめてしまった償いと、僕の思考の行きついた先の自己満足。
「今は、貴方と付き合えません。ごめんなさい」
帰り道で再び出会と僕に一言「許さないから」と言って去っていった。
僕は関係を崩してしまった。
それを何と言えばいいのかわからない。
ただ、今の僕はそれが友情とは言えなかった。
僕が犠牲にして僕も犠牲になった道は通らなくてもいい道で、通るべき道だと確信している。
夕日の差し込む研究室は待っている人がオレンジに染まっていて「どうでしたか?」とストレートに聞いてきた。
僕は頭をくしゃくしゃして「振られてきた」と口が言う。
「そうですか」と悟った様に答えた。
本当に僕は愚かで、想像していた以上に未熟で。
ここで、この章は終わりです。
色々挑戦はしているのですが、上手く書けないです。難しいですね。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。




