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十四時限目

この時期、他の教員はさらに忙しそうである。

僕はといえば、就職生がいませんので相も変わらず講義に勤しむのでした。

缶コーヒーがうまい。


実技試験の予行演習です。

実技内容は物質転移。

単純にみえて実は奥深いと勝手に思っています。

不可能な事を限りなく成功にするというのをやってもらおうとしているのです。

あるものにビニールを被せ、箱詰めしたものを中身だけ転移させるというのをやってもらっています。

知識は初歩的なものですが、技術はトップクラスに難しい。

というか自分でもできるかどうか怪しい代物です。十回に一回ぐらいビニール片が一緒に転送されるくらいの実力です。僕と比べるのはおこがましいかもしれませんが。

評価換算するのは容易ですが、やってる方はたまったものじゃないという代物です。

魔力というより精神力の方が必要であろう実にいやらしいやつです。

他の試験と重なるかもしれませんので、時間効率に関してはウィンウィンだと思っています。

試験時間という名の拘束時間も短い方ですし、練習するほどの事かといえば完璧主義者ぐらいじゃないですかね?


実技日の天候に関してはあらかじめ予測しておこうかと思いましたが、お任せしました。

間違っていたら申し訳ないですし。

自分も測定しておくつもりですが、面倒なのでパスです。

今やっている内容ですが、一人が魔方陣を描く→討論→発動→討論の繰り返しです。

全員が同時に作成と発動に適う広さではありますが、体が持たないであろうと推測してでこの形となりました。

明らかにまずいと思うものを指摘できる為でもあるこのローペースです。

十人十色、十人いないのですが中々面白い意見も出るので自分としても感心させれますね。


「はい、ここでいったん休憩をはさみます」


さすがきついでしょう。

「ハイペースじゃないですか?」とさっき耳打ちされてそうなのかと気が付きました。

いつも通りだったので、感覚がマヒしていたようです。

舞台稽古を終えた時並みに疲れていますね。使えた部屋がそれなのでたとえがこれです。

ノートをまとめたりしている方もいるので余裕ありそうですけど。


「あのっ」と休憩中ながら声をかけてきた。

ずいぶん熱心に語っていましたがふら付き、僕の方へもたれかかりました。

けいれんしているように震えていて、体調を保持しようとして少しだけ熱っぽい。

魔力も限界みたいですね。

討論で魔力回復を図りつつの計画でしたが、ペースが少し早かった様です。

グロッキーですし、ここまでですかね。


「この後もこれの繰り返しのつもりでしたが、皆さん優秀ですからこれくらいにしましょう。まだ時間があるので僕の実演と助手の実演を見て評価してください」

無茶ぶりに、マジですか? という視線を感じますが、諦めてください。

僕はそういう教授ですよ。


箱を設置して、学生の使用していたのを使わせてもらいます。

ズルではないです。自分で適当に描くとアレンジしてしまうから参考にならないですのでしょうがないです。そういう事にしといてください。

ちゃちゃっと付け足して発動。

スノードーム?

「持主は?」

「はい。私です」

「ありがとうね」


……あっぶねー。

下手に前の人のを借りる物では無いですね。

好きなものでやっていいと無責任な事を言わなければよかったです。

平静を装いましたが、内心は心臓が一瞬止まるくらい肝が冷えました。

傷でも作ろうものなら――。想像すると気分が悪いです。

助手さんバトンタッチです。


お、良い感じの陣で。上手じゃないですか。

専門外でここまで出来たら十分ですよ。



――でも評価の対象なのは僕のじゃないのです。

失敗は成功のもとなんて都合のいい言葉がありますね。

失敗の方が目立つというか参考になりますので、悪目立ちしますが今回は我慢してください。

「ここ、ずれていない?」

「それと、ここが間違っていて……後、ここが足りてない」

「ここも。それと――」

予想以上に年下に言いたい放題言われていますね。

彼女も似たようなお嬢様学校出身なのでプライドがあるでしょう。

少しだけ涙目です。

他に格下が居ないので、我慢して辱めにあってください。

後でケーキでもおごってあげます。


「今日はここまで、ゆっくり休んで……って言っても聞かなそうなので、体壊さない程度に頑張ってください。後、三時間ほど使えますので最後の人は僕の研究室に鍵を返しに来てください」

って言いましたけど、監督不行になりませんかね? 少しだけ恐ろしくなりました。

気を張っていたので戻って休みたいと思いましたけど、研究室に荷物を置いてから考えますか。


助手と共に戻る研究室への道は西日が目に刺さって眩しかった。

「教授はすごいですよね。ぱぱぱっと描いて完璧な事をやっちゃうんですから」

「完璧じゃないよ」

「え?」

「完璧は存在しないんだ。哲学的にもそうだけど……。そうだ、前に正解はないって事話したのを覚えている?」

「はい。発展途中の学問の話でしたっけ?」

「うん。それと共に間違いも存在しないんだ」

きっとはてなマークが似合いそうな顔でしょうね。

「つまりは間違いを指摘できないってことなんだ」

そう明確な間違えは指摘できたとしても、不明瞭な間違えは間違えと断言できない。

一度外れると脱線した電車の様にそのまま走るしかない。

障害物があれば止まれるが、無ければそのまま突き進む。

僕の進む道はどうなのだろうか?



……やめた。今考えてもしょうがない。

「甘いものが食べたいから付き合って」

「はい」

今は何も考えずに、とりあえず甘いものだ。

少し休んでから様子を見に戻りましょう。

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