リョウリノキジン その2
「また、ばんそうこう増えてる……怪我、気をつけないと」
「また包丁でやっちゃった」
「だめだよ、跡残っちゃうんだから。くどいようだけど、包丁使うのやめたら?」
「うん。でもなんだか、作ったって気がしないんだよね」
なんて会話していたのを聞きましたのは一昨日のことでしたが、今日もまた同じような会話をしています。僕に止めさせるように言えとにおわされましたが、無理な事は言うまでもなく。
負担を少なくするような事も僕なりにやんわりと言ってみましたが「趣味ですので」と言われてしまい「たまには外食したいな」とお誘いするのが限界でした。
料理に執着しているように感じるのでした。
なぜと聞かれると困りますが、そう見えたのです。
数日経つと彼女を心配していた気持ちはどこかと消えてしまいました。
というのも助手さんが過労で倒れた訳です。
そんなに仕事はさせていません。というと語弊がありますがとにかく無理はさせていません。
原因は栄養不足だそうです。
いつの時代ですかと思われるかもしれませんが、あながち変な事ではありません。
予期せぬ消費といいますか、珍しい症状ではないです。
特に今回のやつは徐々に削られていくような表に出にくい奴でした。
自己判断が甘かったというと辛辣でしょうか?
でも、教員側の人間です。
しっかりしてくださいと言わなくても起きた時に自己嫌悪に陥るのでそれだけで、僕から何を言う事はありません。
僕自身には責任というものはないのですが責任はある。主観と客観の違いですかね?
「はい」
「起きましたよー。はい、一日入院すれば大丈夫だそうです」
「後、よろしくねー」
「はーい。失礼しまーす」
看病は任せました。
ベッドの横で本を読んでいたら帰されました。
なんでも女の子にはいろいろあるそうです。はい。
責任とか人情とか抜きで起きるまではそこにいようと思ったのですが、一人帰らされると自分が薄情みたいじゃないかという気持ちがこみ上げてくる。
きっとこんな気持ちにならない為にあらかじめ対策を取ろうと無意識にしていたのかな?
さあ、お昼はどうしましょうかね?
「――私、ピッチャー派じゃん?」
知らんがな。
「『まだこっちにビールありますよぉ』ってもってきやがった――」
久しぶりに若者らしい会話を聞きました。隣の席ですけど。もう一言加えるならあっちの方が年上です。
なんか――新鮮でした。ピッチャーがどんなものか気になりますが、いつも聞いている子供っぽいというかおじさんおばさん臭いと言いますか、その中間な良い感じのやつです。
大学入ったらこんな会話するのだろうなってやつです。
少し興奮してしまいました。
なんか大人っぽい会話ってうらやましいなというお年頃なのです。
ごちそうさまです。
……あ、返却口混んでますね。
ちょうど手元に本があるので少しだけ時間つぶしましょうか。
「お手数掛けました」
「大丈夫そうで?」
「明日には大丈夫だそうです」
「それじゃあ、今日はもうゆっくりするといいよ」
「はい」と連絡を切りました。
切ったはずなのですが、なぜ研究室に勢ぞろいなのでしょうか?
「お粥ができましたよ」と僕の前にも一皿置かれました。有無言わず食べろという事ですね?
「調子悪くなったら言ってください。隣に運びますから」
どうも悪影響が出ているみたいです。
僕の場合は仮眠室です。決して寝室のように使っている訳ではないのです。
仮眠室で寝るなんて休めないはずです。今すぐ帰った方がいい――なんて言えるわけないです。
美味しいですね。上品な感じです。
でもまあ、体調が戻ってきている様なのでなによりです。
次の日は良い香りで目覚めました。朝食の匂いです。
彼女が料理を作っている姿を初めて見ましたが、なぜか品性を感じました。
言うなれば料理の貴人でしょうか? 身分が高い事とかぶせてみました。
なんて事を考えながら後ろ髪を触るとはねていました。
ソファーで寝かされたせいです。
なぜこんな事になったかといえば、休憩室で未だに寝ているこいつのせいです。
踏みつけてやりたい感じです。
それともこの開けてドアを寝姿を写真に収めてやりましょうか?
……お手洗い行きますか。
洗面台へ向かおうとすると助手さんと鉢合わせしました。
「体調はどう?」
「おかげさまで良くなりました」
「それは良かった」
なんか懐かしい感じがします。朝に人と会う事が久しく無かったからでしょうか?
さて、今日も一日がんばりますかね。




