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無駄な時間

「待った?」

「いや」

「何読んでるの?」

「これ」

「すみませーん」と店員を呼んで「彼と同じものを」と注文した。

「相変わらず忙しそうだね」

「教えるのも楽じゃないですね」

「教師の大変さを味わえ」

「うえ」

少しだけ冷めたコーヒーをすする。

今日は僕たちの他に客はおらす、とても静かである。

店内に響き渡る声は僕たちしかいない。

そんな昼下がり。


「ここ解らないんだけど」

「そこは――」

「ああ、なるほど」

「これは?」

「それは――」

プチ勉強会です。

僕の勉強はいまだに続いている。

魔法の無い世界からこっち側に来てしまったための保険という名の何か。多分、精神安定剤に近しいもの。そう思いたくなくて、きっちりと考えていない。

でも、意欲があるから続けられるのである。

彼は彼ですべての魔法を習得したいと僕の授業料代わりに知識を提供している。

講義では無いので学科生には含まれません。

ズルいですかね? まあ、ズルですけど。


魔方陣学科に入らなかった理由はきっとあれがなんだけど、結論的に無駄な時間を省くため。

意味がないみたいに取られるのは不本意ですが、生きている時間が違うみたいな事です。

一を聞いて十を知るとは意味合いが違いますが、一を一で取らなくても一以上の事ができる人なので講義というものをする必要はないです。

自己満足と言ってしまえばそれまでですが、そう感じさせない本当の天才なのだと思います。

努力の天才とかいう言葉がありますが、それとは別の本質が違う天才です。それは間違いありません。ここにきてから一番の長い付き合いの人ですから。


「やっぱりここにいたんですね。……って、か、か、彼と知り合いっ、なんですか?」

「そうだよ」

「さ、サイン良いですかね?」っと小声で尋ねてきた。

「サイン欲しいって」

「喜んで」

「ちょっと外行ってきます」

急いで出て行ってしまいました。

「有名人だね」

「多分、そうなのかな?」

顔を見合わせてお互いに苦笑いした。

本当に変人で通っているのはここの大学だけ、外部からすればむしろ色つやなのであろう。

助手さんも外部の人間でましてや大会の何かにかけている人である。

そりゃ目の前にすごい人がいるなら興奮しない訳がないです。

「何連覇だっけ?」

「二連覇」

「そりゃすごい」

「そりゃどうも。ところでお邪魔でしたかね?」

「うーん。間違ってはいないけど、大事な用事らしきものが後回しになっている点がかな?」


色紙を買いに行ってからから三十分ほど経ちましたが、興奮さめやらぬ助手さんに用件を聞きました。

「今日中にこの前のレポートを再提出だそうです」

「は? ――そのー、どういう事?」思いがけない事に強く当たってしまいましたのを軌道修正できました。

「ええっと、なんでもデータの紛失だそうです」

データを取り込んだコピーなのですが、生徒から預かったものです。少しだけ怒りがこみ上げてきます。

「……いつまでですか?」

「今日中だそうです」

さすがの僕でも溜息しか出ませんでした。

「大変そうだね。今日はここまでってことで」

「悪いね」

「いいよ。しょうがない」

「それじゃ――あ」良いこと思いついた。「時間まだあるよね? 助手さん置いてくから自分の代わりに使ってよ。ある程度頭に入っているし」周りがすごいだけでひいき目に見なくても助手はまあまあ優秀だと思います。

「む、無理です。そんな、教えるだなんて……」

「じゃあ、逆に教えてあげてくれ。よろしく」

「ええ……」

僕はそう言って店を去った。

気温は基本地元に準ずるらしいが、体調を崩さないように緩やかに変化する。

例年より冷えるらしいため、帰る道は温かくもなく寒くもない。

変な感じだ。


紛失者に直接コピーを突き出してやりました。

戻ってきたので一息つこうかと考えていると助手さんが帰ってきました。

「出してきたよ」

「ご苦労様です。良いご友人ですね」

なぜ僕は彼と未だに付き合いが存在するのだろうかと考えたことはなかったのだが、今の言葉で思ってしまった。考えていなかった、考えたくなかったというのが正しい。


なぜかと言えば、――彼との時間が大切だったのかもしれない。曖昧なのは正確な答えが出ていないからである。

それでも確かな事は、嬉しかった。嬉しかったのだ。

対等――いや、自分をちゃんと年下と見てくれる彼と。


自分の心のバランスを保つため、数少ないそういった関係を僕は大切にしたいと思っていたのか。

そういった結論が出て、僕は自分の都合で利用している様な少しの申し訳なさと安心がでた。

まだ続けられる安心を。


彼は孤独であった。

それは天才ゆえもあるかもしれないが、それは百では無い。自身の術が性格が環境がそうさせていたと思う。

頭が切れるからこそ余計な事を考えてしまう考えてしまう。

僕とはまた違う無駄な時間の所有者だと感じた。どこか、こうシンパシー的なものを感じた。


いつだかは定かではないが、僕に対して「友人で良かった」という言葉を口にした事があった。

そんなストレートな言葉に僕は戸惑った。本当に戸惑った。

僕はそれに対して答えが出せなかった。


僕は助手さんに対して「それは良かった」と返した。

僕の中でからの位置づけが決まった。

決まった所で関係は今まで通りで変わらない。

それが一番だと思うから。

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