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魔法学校4

――この化合物は安定した形を必要とするためこの形に変移する。

この理論はこれから学ぶ魔法陣学で必要とするから覚えておくようにしてください。

こんな感じでいいかな? と最後のを送る。


今日中に全部の学生から来るのは相変わらずきついが、休みが来る事の幸福感は一層しみじみと感じる。

この辛い日常から逃避するのに妄想にふける。

「さっすがー。いい感じじゃないですか」

「え?」

目をつぶっている僕の後ろから声をかけられる。

「評判いいんですよ? ほらジジババばっかじゃないですかこの学校。年齢は近いし、噛み砕いた感じだし、分かりやすい、まじめだし、レポートもちゃんと添削してくれる。他の教員は自分の研究に没頭していますし、結構、放任主義の教員多いんですよ。親身になってくれる方全然いませんし、好感度高いですよ? 教授からも中々好印象ですし。それに反抗意識が出ないように私達が釘を刺しときましたので、問題は出ないと思います」

自分の普通はここには存在しなかった。


「ちなみに私が会う時間が短いと困るんで、授業数と受講人数は増やさないようにしました。何か飲みますか?」

「……コーヒーで」

「コーヒーですね? 了解しました」

色々思う所はあったが、今日はコーヒーで終わりにしよう。

深く考えないようにした。


魔法陣学は今年新設したばっかりの新しい学部だ。

魔法陣学はこれ以上魔法学史に影響しない事や志願志望者が0人と言う事で、学校建設段階では必要最低限の学部しかなかったため存在しなかった。姉妹校とかにも存在しないくらい人気は無いはずだが、この人数は物珍しさからくるものだろう。

人気の無い学部はだんだんと人の居ない学部は無くなる。追い出された教員もいる。

ここがそうなのだけれども、空きの研究室を貰ったって所だ。

空き教室の穴埋めって可能性もあるかもしれないなと考えたりする。

大学としても空き教室が存在するという事は格好がつかないだろう。


逆に生徒が1人でも存続しているところもある。

資産家の御令嬢らしいとか学長の娘とか色々噂があって真相は闇の中。

特に興味は無いが、回答が聞けるなら聞く準備は出来ている。

他人事のように言っているが、ここだって飽きられれば無くなる。

クビになった後は自分で退職、離職、辞職は決められない。

その後の人生は流れに身を任せるって感じだ。

そうなったら不平不満が出ないように落ち着くところは好条件の就職先に就くのが一般的らしいので、最悪な状況にはならないだろう。

まあ、この人が居る間はそうなる事が無いだろうけれど。


チーンと合図が鳴る。

「お昼出来ましたよー」

僕は読みかけの数学の本を開いたまま机に伏せた。

「今日のランチはBランチですよ」

学食のお持ち帰りサービスがある。昼限定であるが移動に中々の時間がかかるこの広い学園には必要なのかもしれない。

「ガッツリ系だね」

「今日のは特にねー。ミックスフライだもんねー」

見ているだけで吐き気がするくらいのギトギトした昼飯は箸をつけるのもためらう。

「先に食べたい物を取っていいよ」

「なんで女の子にそんな事いうんですか? 失礼ですよ」

「それでは、いただきます」

「待ってください」と箸をつけるのを止められた。

「いただけるものを貰わないなんて失礼じゃないですか? ササミのフライ二本と生姜焼き二切れ、野菜盛りちょっとください。野菜は美容にいいですから」

ミックスフライに手をつけ始める。胃袋がブラックホールな彼女の食べる姿に影響を受け自分も結構食べるようになったが、それでもこの量は結構きつい。忙しさを理由に任せず付いていけばよかった。まだ一日分のカロリーはありそうなこれは箸が止まるとそのまま残しそうなのでチョビチョビと一定間隔で食べ進めた。

「コロッケもください」とひょいと持ち上げる。

胃の中で油物がプレスされて気分が悪く、何かすっきりしたものを所望した。

確か冷蔵庫にアイスが……

「あ、冷蔵庫行くならケーキとってきてください。二人分あるので」

ギブアップ。


「お夕飯どうします? 今度はB定食でどうですか?」

「いや、Cとかがいいな」

「Cですか? 栄養が足らなすぎます。身長伸びませんよ?」

小さい事は諦めているが、そのなんかムカつく顔で煽られるのはシャクに障った。

「たまには帰ったらどうだ? そろそろ部屋に戻ってお友達と食事した方がいいのではないか?」

「……知っているくせに」

「知っているから言っているんだよ」

「今日はイケズです」

彼女もこのままではいけない事を忘れないでいて欲しい。

「私が悪かったです。悪いことしたなら謝りますから、そんなこと言わないでください」

「……今日も一緒に食べるか」

「わーい。大好き」

なんとまあ大好きの安い事、安い事。

彼女に何があったかなんて興味は全くないが、何かあるからこうなっているのだろう。

僕に強く言う権利なんて何もないが、出来れば同性の心を許せる人は一人ぐらいいないと。僕にも限界はあるし、そこまで出来ている人間ではない。


邪魔が入ると噛み殺しそうなそんな凄みで相手を睨みつける。

よほどの他人に嫌悪感があるのであろうか、今までのお礼に他人との距離を程よくするクッションくらいにはなれたらと考えているが、この分では先は長そうだ。

「あれはどうなの?」

よくしゃべるいつものイケ面を顎で指し示す。

「冗談は程々にしてください。今度はこっちが怒りますよ」

「さいですか」

「さいです」

いつものあれは当たらずとも遠からずと思ったのだが、恋心は中々に難しいものである。

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