青と白と赤と……
「なぁ、私は面白い話を所望している」
「……」
「無視するとは、いい度胸だな」
「……」
「……一人で話しているみたいで、バカみたいじゃないか?」
話し掛けるのをやめればいい。
「ほう。そのような態度……良いのか? クビにできるぞ?」
「録音と録画しているから何かあれば見せるだけ」と本に目を戻すとバシャンと頭から水をかけられた。先ほどまで読んでいた本もダメになってしまった。
睨みつけると「最年長者だぞ?」と威圧してきて――面倒だから諦めた。
「つまんないなぁ」
「なぁなぁ」
分かっていてやっている事に不愉快さを感じる今日この頃。
「そんなに邪険にする事は無いであろう? そんなに私が嫌か?」
「だったら頭に直接話し掛けるのを止めていただけませんか?」
「変な敬語を使わなくていいよ。どうせそんな事は意味無いから」
サトリの横文字はサイコメトリーだっけ? 心の内を読む能力。プラスでテレパシー持ち。
非常に不愉快。容量オーバーで頭がくらくらする。
それを知っていてやってくる。喜んでやっているのが目に見えて分かるのも不愉快。ほら尻尾が左右に振れているし。
「お前の様な人間は珍しい。不完全なのだが、完全なのだ。他の奴はほとんどがそれ以前で終わっている中、そこまで達している人は興味深い。最近会った中では一、二を争う位面白いぞ」
「そりゃ、どーも」
「最近も面白い奴が来たり、楽しいぞ」
お守り――いや、こいつの世話係はローテーションでくまれているらしく、僕にもそのお達しが来た。最近はインフルエンザで半壊しているので、自分はここに回されたという訳である。一人でも人手が欲しい状況らしいで。まあ、牧場に行かされるよりはましかと。畜舎は重労働も含まれる訳で。
「最近来た文学少女も中々だったぞ」
文学部はこの大学には無い。どちらかといえば文系よりは理系寄りで、どう言っても学園長の趣味が強いのです。
文系ねぇ……感情表現が豊か的な? 法学とかが近いかな?
「残念でしたー。普通学科の子でしたー」
はい。そうですか。
「もうめんどくさいから用意されたものを適当に食べて静かにしてください。時間が来るまでベンチで休んでいるので」
「食べる所を見られるのは恥ずかしくて……」
「うそつけ」
レヴィアタンというのを聞いた事はあるだろうか?
こいつはそれをモチーフにした大きな海ヘビとかそんな感じ。
魔獣学には精通していませんのでそんなイメージです。
先々代の学長が愛好者で品種改良品種改良の繰り返しで今の形になったらしい。
愛好者は少なからずおられる訳で、一匹うん百万とかするのもいたりする。
これは値段がつけられないらしく、学園の顔とかそんな感じにもなっている。
ちなみに値段は大きさにあらず、そんでもって配色の良い物が高い。
日本語に訳すとリバイア三色というダサいネーミングセンスの種類だそうです。
「ごちそうさん。物足りないのだが、何かないか?」
「それなら、高い物でも何でも好きなのを食べればいい。職員共通のカードは預かっている」
「それも録音されているのでは?」
「バレなければ問題ないし、言わなければ問題無い」
特に何事もなく食べたのだから共犯という事でいいのだと、僕はそう思った。
なぜだか――いや、なぜとか聞く暇も無く恋愛相談へと話は持ってかれた。
他人から見たら面倒くさくて面白くって、僕からしてみたら聞かれたく無くって面倒くさい。そんな誰かをいじめる様な不幸な様なそんな昼ドラとか小説の好きそうな彼が、それに食いつかない訳が無かった。
僕の心を見抜いている彼は、答えを知っているに違いなかった。
当然、それを教えてくれる訳では無く自分で聞いて自分で解決。彼の自問自答が繰り返される。僕は僕でそれに返答や相槌を打つ訳でもなく。頭にはその情景は浮かぶのでそれを見るだか、感じるだかは知らないけど、そんな永遠の独り言はずっと続いた。
帰り際の彼は励ます訳でも罵る訳でもなく、「面白い結果を期待しているよ」と別れ際の挨拶にした。僕は特に何を言う訳でもなく後ろ手に手を振って別れた。
後日の学園長室に呼ばれました。学長曰く、リヴに気に入られたらしい。
「という訳で飼育員が治るまで毎日通うことになりました。なので明日は空いていません」
「はーい」
興味なさそうに彼女は答えた。インフルエンザで相方が休んでいるというのに、わざわざ来なくてもいいのに。いや、来ないでいいのに。
「そういえば私も会いましたけど……でっかかったですね。普段水槽に入ったちんまい種類しか見た事無かったので、見上げる位あったのは新鮮でした。学園の顔なのに一般公開されていないのが残念です」
客寄せパンダ的彼は、何かイベントごとに会えるらしくはるばる遠方からお偉いさんも来るらしい。行列ができるのと抽選と様々なご対面形式なのだが、人気者って括りなのかな。僕は空いていてかつ誘われたら行くぐらいの関心度。なので流行に疎い。こんな機会が無ければ出会う事もなかったという事です。
「私、彼に好かれていないみたいですのですぐに外されました」
「ねぇ、普通科の生徒で自分の前日辺りに世話係になった人ってどれくらいいる?」と日付を指して言った。
「その日の前々日くらいは私で、普通科で割り当てられたのは次の週に二人しかいなかったはずですよ。たしか」
「ふーん」
「ねぇ。なんですか? ねぇってばー――」
――僕は「教えてあげない」と立ち上がり、お茶を一気に飲み干したのだ。




