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S:欠片たち

時というものは、人の心や思いなんかを置き去りにして進んでいく。

消化する暇も無くて、暇も与えない。

決して速く進んでいる訳でも無くて、皆に一定の時間を与えながら決まったスピードで進んでいく。


僕も例外では無く、許される事無くて今日まで来た。

考える前段階。

決める以前の位置に心が取り残されていた。


毎日が目まぐるしく進む。

こんなにも大変だとは思わなかった。

そんな実習は僕を縛った。

僕自身が何をする訳ではないが――何か、何か無駄に消費している気がした。


それは何か別の形となって失われている、そんな気がした。


講義は今まで自分が満足できる程度には出来たのだが、見るに堪えない。と言うか見直せていない。

やる事が増えたというのが一番の理由だ。


そして追い打ちをかける様に前借分が来る。

それは「大丈夫ですか?」と聞かれるほどで。

それが考えていたよりも体を疲弊させて。


『彼女がいなくなった』ということが大きな変化で、それ以外は変わっていないのかもしれない。

でもそれが一番重要なピースで――。


気絶したようにソファーに倒れた。

人は秩序が失われると時間の感覚さえ失われる。

夜中に目が覚める。

そんな日々が続いていた。

昼間に睡眠をとっている訳ではないのだが、それらが相まって最近は日中に意識が飛ぶようになってしまった。

その時のせいもあって心配される事が多くなった。


数日後には枷が無くなるのではあるが、はたして体は心は楽になるのだろうか?


あの事件からすぐに講義に戻った。

僕の要望が強かったせいかもしれないが、実習が始まるからである。

そんな実習も二回目を終えた所です。

実習は説明とかなんたらでほとんど講義と変わり映えがしなかった。

生徒はそれでもレポートに書かなくてはならないので大変そうではある。

僕としてはこれに関してはやる必要がなさそうではあったが、大学の方針的なもので書かなくてはならない。無い物を書けとするのは、量の多い宿題より苦戦しそうだ。

そして、講義で僕の忙しい日々はまだ続きそうである。


一方、僕の研究室は少しだけ賑やかさが減った。

彼女が確かに存在した、そんな名残が残っていた。

コーヒーやお菓子は食べきれず残っている。

これらに関しては、食べられなくなった時に捨てればいいと思っている。


でも、僕の使わないカップはどうすればいいのだろう。


返すタイミングを失っていた。

彼が来たときに一緒に持っていってもらえば良かったのは言うまでもなく。

いっそ割ってしまって捨てた方がましなのだが、僕は手が動かなかった。


「エリー、居る? あれ? まだ来ていない?」

僕の隣までやってこなくてもいいのに、わざわざ並んで話しかけてきた。

「またコーヒーですか? よく飽きないですね。私、オレンジジュースで」

僕はこいつの事が嫌いだ。

理由は単純に不愉快だから。

僕はだまって冷蔵庫から缶ジュースを手渡した。

「どうも。元気出してください。振られたんですよね。多分。」

こういったずかずか入り込む所も嫌いです。

「良い人紹介しましょうか?」

「こんにちはー」

元から会話などするつもりはなかったが、もう一人の来客のおかげで返さずに済んだ。

こちらもわざわざ僕の前に来て挨拶をしに来た。


この二人が新しい居候である。

彼女の空席を埋めるがごとく、すぐに来た訳で。

空いてたら空いてたで面倒なのであろうなので、それが結果的に良かったと思うようにしている。

まあ、よいはよいでもどうでもよいが半分以上を占めています。


「あのっ。お茶入れますね」

「おっ? いい感じじゃない?」

「もうっ」

じゃれあっている二人を見て僕は心が動かなかった。


淹れてもらったハーブティーを一口飲んで、仕事へと戻る。

これの香りだけはなんだか、ちょっとだけ好きになりそうだった。

そんな難しい事は考えない為に今日も仕事を進めるのだった。

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