サイドエピソード(3)あるはなしとないはなし
「ふんふんふーん」と心地よく鼻歌を刻む。
今日は少しだけ肌艶が良く、髪が良い感じで気分が良かった。
私はいつも通りのいつも通りの場所で勉強を始めた。
私は可愛い。可愛い私。
誰にも褒められる事が無いので、自らを褒める。
誰に迷惑を掛ける訳でもなく、誰に言われて欲しい訳でもない。
私が私を保つための日課だ。
物事に詰まるとなぜここにいるのかと自問してしまう。
確かに入学前は目標があって目的があってここに来たはずなのだが。
勉強は誰に負けているつもりもなくて。
でも、分からなくなっていた。
最初は確かに親の為とか魔法に興味があったからとか、なんかこう曖昧で漠然とした目標的なものは確かにあったのだ。
いつの間にか私は置き去りになっていた。
他の人はなんかはっきりとした目標があって、隣の芝は青いってことかなと思う。
それは、思うだけで。
この時、私は一歩引いている事に気が付いた。
それだから友人もできない事を知っていた。
考えるのは疲れるのでやめた。
私の精神は荒んでいった。
考えていたところで結局は変わらなかったということはなんとなく分かっていたので、変わらないのなら疲れない方がいい。
それでも人には限界は存在した。
上限はあるのかは分からないけれど、自分でも気付かない綻びというか――体に不調が現れる。
彼に近づいたのはそういった心の悲鳴からだったと今だから思う。
気持ちが安定した今だから考えられる事は多かった。
なんですかね、これ。宿題多くないですかね。
行き詰るどころのレベルじゃなく、多いのですが。
終わるのですかね?
吐きそうです。
一個だけに集中すると時間が持たないので他の事を考えながらだらだらとやってきましたが、もう限界です。
いったん休憩です。
自分で入れたやつなので文句を言えず難なのですが、コーヒーの匂いに集中力をそがれたのもあります。
「コーヒー飲みますか?」
好きではないし嫌いでも無くて愛飲している習慣もなかった。
だから、ちょっとだけ高い豆を買っていた。
小学生くらいの見た目でブラックコーヒーを買っていたのがやけに印象に残っていた所からだ。
それが話のタネにはなった訳ではあるが。
今、好きですか? と聞かれたら私はノーと答えるでしょう。
飲んでいる時も勉強と同じで、過去の事を並行して思い出すのだもの。
結局、私は勉強に戻った。
私の口から出る言葉は意味が無くて、価値が無くて。
でも、心の内は知って欲しくない。
そんな私はなんでこんなこと言ったのか自己嫌悪に陥る。
私にとっては誰でもよかったと、そう思うと私はさらに私の事が嫌いになっていった。
その中で心は彼を選んだのである。と思う。
私の劣等感、卑屈さが世界を成していて、もう何も見えなくなっていた。
その中でも少しだけ彼のおかげで、今の自分をちゃんと見れるようになってきた。
やっぱり変わっている訳ではない訳で。
終わった。
「んぁー」とひとつ大きな伸びをして、冷めた残りのコーヒーを一気に飲み干した。
夜風は冷たくて、星空がとっても綺麗で。
私はこの時だけが唯一、楽しい時間だった。
明日は何をしようか。
あの人とどんな事をしようか。
ちょっとだけ前向きで……。
その時、私は気が付いてしまった。
そうか、好きだったのか。
彼の事が好きだったのか。
一目ぼれだったのか。
だったら、言ってしまえばいい。
明日出会ったら、言おう。
そうだったら良いな。
そうなれば良いな。
「コーヒー飲みませんか?」




