夏の終わりに
「よし。決めた」
僕は映像に映っている彼女をここに来てまともに見ました。
『何をですか?』
「やることもあるので、そろそろ帰ります」
『は?』
僕は不器用で、
『何を言っているんですか』
自分の事で精一杯なのに
『ここから、どう帰るのですか?』
他人を思いやる事までしようとしていた。
僕はそこまで上手に生きていなかったのを今更ながら思い知った。
「まあ、適当に」
ねぇ、僕がいなくなった後どうするの?
そんなことありえません。
想像でもいいよ。こんなんでも教師ですから、理由くらい聞いとかないと。
せっかくだから、それに乗ってあげましょう。そうですね――。
一緒に帰らないのか? とかでも良かったかもしれませんね。
『君の適当って、本当に適当なんだよね。完璧と言うべきに適しているんだよね』
まずは、左腕の腕輪かな。
ガチャン。
本当に針が出ている。もっと慎重にすべきだったかな。危うく眠る所でした。
金属アレルギーは持っていなかったのですが、慣れない物に手首がかゆい気がします。
『!! 魔法が、なんで』
どういった仕組みでこうなっているのかは気になりますが、出口へと向かいますか。
扉は……なんだろ? 金属? うーん。まあ、いいか。
うえ、気持悪。すり抜けるのは慣れませんね。何か置いてきた様な気分です。体内を違う温度のものが通るからでしたっけ?
抜けてから気が付いたのですが、ロックをかけられていないようでした。
警戒し過ぎでかね? 慎重過ぎるのも問題ですね。
残り魔力は二十九。平じゃなくって、甲の方が見栄え良かったな。
ビー、ビーと警報音が鳴り始めました。
想像よりうるさいですね。
「止まりなさい」
隊列を乱さず、こちらを包囲する人たちは、まるで軍隊みたいでした。
ロープに警棒みたいなのと――銃!? 銃は流石にまずいですね。
「あのー。銃は降ろして「黙りなさい。抵抗せずに――」
ここでのすり抜けは良い選択ではないですね。直進しても付きまとってくるし、ここが地下なのか、地上なのか、はたまた高層だったりしたら手段が変わりますね――。
そうだ。
「殺すんじゃない。捕えるのだぞ。先行隊、行けー」
「せっかく、良いアイデア浮かんだのに」
「浮いた……。こんなことも想定内だ。鉄砲部隊、構え」
なるほどね。
「打てー」
カッ、カッ、カッカッと床から聞こえた。
「居ない。居ないだと! 探せ! どこ行った!」
『上の階。速く行きなさい』
「し、失礼しました。お嬢様」
『後で、隊長として責任とってね』
「……」
大人しくなったかな?
銃が人に当たっていないようで、なによりです。
思っていたより、駆けつけるのが早いですね。
「第二部隊、麻酔銃構え」
なるほど、麻酔銃か。薬効きすぎる体質なのですが、死にませんよね?
左手のナビ機能。これいいですね。褒めてくれる人がいないので、自画自賛です。
即席で作ったにしては便利です。方向感覚ばっちりですしね。
なんとなく、地下な気がしていましたけど正解でした。
あの時、エレベータを行き帰りに二回乗りましたけど、階数表示が無かったのです。やけに時間がかかっていたのを覚えていますが、ここは結構深かったのですね。出口に着くまで大変そうです。
ちゃんとナビゲートしてくれています。何かある訳ではないですが、面白かったので、帰ったらしっかりしたものを作りましょうかね?
今、何階でしょうか? 疲れましたね。水平になったので、地上あたりだと思うのですが……。
帰ったら美味しい物……いえ、いつもの定位置でグダグダしましょう。
ドー……、ドーン、ド――ン!!
目の前での爆発。コンクリート片で死ぬかと思いました。判断が速かったから良かったものの……。
「大丈夫ですか?」
「なんでここに?」
爆発の次に驚きました。死ぬか生きるかはやはり印象強いですね。
「おーい、皆こっちだー」
「助けに来ました」
「先ほど、位置情報が分かったもので」
あの部屋は、魔力遮断でもされていたのですかね。
「体中アザだらけじゃないですか!! 本当に、本当にもう、心配したのですよ。」と僕に抱きつき、涙を流した。魔法陣を体内で発現させただけで怪我ではないのですけどね。これってアザに見えるのか。
「そっか、ごめんね。みんなも――、うん。お迎え、ありがとう」
「なんですかそれ」
「じゃあ、帰ろうか」
「いえ、俺にはまだやる事があるので」
「え? おっと……」
残りはまだあるのに。ああ、魔力の反動が思ったより強かったのか。ここで知り合いに出会って安心した事もあるのかな。緊張がプツンとなりました。
「大丈夫ですか。ってあれ? アザが消え……?」
「あれは魔法発動の印みたいなものだよ」
目眩、頭痛、吐き気。意識が遠の……。
まだ、まだだ! 帰るまで。皆を守り、帰るのだ!
『もう、ギブアップ。ゲームオーバーです。帰っていいですよ』
「いいや、俺はまだ話がある」
『私には無いので、そっとしておいてください』
最後に別れの言葉くらいは言わせてくれても良かったのに、声も出なくなっていた。
「わざわざ、皆でこっちに来なくても」
目がかすんで不確かですが、エントランスから広い場所に来たのかな? 視界がぼやける。
「はぁ」と彼女は大きくため息をつく。
「もう関わらないでください。私に嫌がらせですか? なんなんですか。なんで邪魔をするんですか! 嫌味を言うし、突っかかってくるし、なんで、いつも、いつもいつもいつもいつも! 私は貴方の事が――「好きだ!」
「俺は小さい時から、ずっと君を見てきた。
最初はなんてことなかったけど、なんか放ってはおけなかった。
自分の家のせいで話す事すらままならなかったんだ。
そんな自分が大嫌いだった。
そして、もっと自分の事が嫌いになった。
君がいじめられていた現場を見てしまったからだ。
助けられなかった。
助けられるのに助けなかった。
そんな自分に嫌気がさした。
だから僕は、それに負けないように頑張った。
ダサいだろ? でも何か変わりたかった。
努力も何もかも自分が今まで出来る事は全部した。
だれにも負けないように。
それでも、あの時の事は未だに忘れられない。
自分は変われたのか分からない。
もし、許してくれるなら……じゃない。
こういうの苦手なんだよ。
簡潔に言うぞ。」
一呼吸、二呼吸くらいか、少し時間を置いて彼は言う。
「好きです。大好きです。僕の隣を一緒に歩いてくれませんか? 僕にもう一度、チャンスをください。」
僕が見聞きして覚えているのは、ここまでです。
意識が深く、深く、底の無い闇へとゆっくりに落ちていきました。
沈みながら、僕は思った。
他人の告白を間近で見るほど、嫌な物は無かった。
違う。
そっか、僕も彼女の事が好きだった。
いまさら、解ってしまった。遅いけれど、気付いてしまった。
頭の中で、理解されてしまった。
僕なんかの短い付き合いで勝てる訳がなかった。
最初から決まっていたじゃないか。
という諦めろという感情と未練が心の中で競り合う。
そして、未練だけが残った。
可能性はゼロで無いにせよ。
諦めた時点から完全に終わっていたのだ。
彼女と一緒にいる選択肢を切ってしまっていた。
僕は動かない。
全てのツケがここに来たのだと。
何かを伝えたくても、伝えられなくて。
僕はこのまま意識を失った。
これにて、この章は終わりになります。
書いているうちに、まだまだ未熟な部分が多いと実感しました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回更新は未定ですが、10月になってから考えます。




