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「傷の具合、良さそうで良かったです」

彼女はこちらをじっと見つめ、おでこに手が触れる。

こういう事をする所は、同い年なのだと思い知らされる。

包帯の隙間から、汗ばんでいる様な湿っぽさを感じた。

身長が自分より少しだけ低いのとあどけない顔立ちで、大人ぶっている子供だと思っておりました。若者の人間離れ――違いますね。

「監禁されているってのに抵抗されないのですね」

特にあらがうことも無く、適応力二重丸って感じですかね。

「なんとなくね」

僕は左手で右手首を握り、グーパーさせていました。

「気分やなんですか?」

「うーん。そうだね」

「次はあれに乗りましょう。あれ」

あー、小学校以来乗った記憶もないし、楽しかった記憶も持ち合わせていない乗り物です。


今の状況は、監禁という言葉は似合っていない気がします。軟禁って感じでしょうか? もっとゆるい気がしますけど。特に縛られるといった事はされていません。

部屋の監視カメラで二十四時間監視されているくらいでしょうか。

何か用事があれば部屋から出る事は出来るが、用事が無ければ部屋にいる事を決められています。

廊下もトイレ風呂位は移動できて何不自由なく、隣には彼女が住んでいるので困ったことがあれば何かしてくれるらしいです。

時間を潰せそうなものも置いてあり、特に考えなければ普通に暮らせそうである。

羞恥心ってものを持ち合わせていた気がしたのですが、どこに落としてきたのでしょうか?


という訳で、ただ今コーヒーカップに乗っております。まだ、回転しておりません。

客はいないのですが、この年齢で乗るのとこの状態でいるシュールさが、かなり滑稽で恥ずかしいです。羞恥心残っていました。それとも遅れてきたのでしょうか? 気を逸らさないと乗れません。勇気が要ります。

日ごとの予定を組まれており、本日は遊園地らしいです。

「どう?」

「初めて乗ったもので、気持ち悪く……」

たしか、逆回転だっけ? おお、少し遅くなった気がします。

「ありがとうございます」

もっと落ち着ける乗り物だったと記憶していたハズなのですが、違いそうです。

話でもと思っていましたが、終わってからにしましょう。

なんか、人生と例えていたのを思い出しました。

めくるめく景色が変わって――同じ所をくるくる回っています。同じ事の繰り返し、立ち往生。そんな教訓では無かった気がします。

これっていつ終わるのでしょうか? もう大丈夫です。


「次、あれに乗りましょ」

気も乗りたくないっておっしゃっておりますし、足元フラフラな状態の彼女を無理矢理に乗せる趣味を持ち合わせてはおりません。

「少し休んだら?」

『僕もちょうど休みたかったし』なんてそれに続く、無駄な言葉が頭に浮かんで来て、本当に気持ち悪い。

「なんだか、つい。じゃあ、丁度いいのでお昼に――」

「食べられるの?」

「今はちょっと。でも、貴方が食べたいというなら無理してでも」

「少し話がしたいな」

僕は他愛もない話を始めた。

彼女が面白かった、つまらなかったなんて気持ちはどうでもよかった。

何かを心から出したかった。それが、話となって口から出た。

それでも本心は見極められたくないから、本当に意味の無い話を続けた。

何かから逃げてるのかな?――いや、きっと逃げたかったのだ。そして、単純に話したかったのと話していたかっただけ。

だから、僕の心には似たような別のものが溜まっていった。


「おいしい」

「そうかな? 私、料理しか取り柄が無くって」

『そんな事は無い』といった方がきっと良かったのを知っている。否定されるよりは、肯定される方が嬉しいじゃないですか。それでも、そっちの方向へ向かいたくなかった。

「昨日の夕食も君が作ってくれたの?」

「ええ」

「ありがとう。美味しかったよ」


「ねぇ、嫌じゃない?」

「何がです?」

「僕と一緒にいる事」

「うーん、良く分かりません。男の人の事、良く知らないので。でも、一緒にいて苦ではないです」

「あなたは誰なの?」

「分かり得ません。初めから誰かの世話をする為に作られましたから。身の回りの世話とか、そんな事は全般出来ます。私はお嬢様のお世話をする為に生まれたのではないかと。そのはずで生きてきたのですが、お嬢様は私を急に話し相手に指名しました。きっと何かあったのだと思います。毎日のように貴方の写真を見せて、貴方の話しをずっと聞き続けました。会ってみたら、なんだか聞いていたイメージと違いました。上手く言えないのですが、良くも悪くもです」

水筒に入ったコーヒーを飲みながら、そんな今朝の事を思い出していました。


「貴方の子を作る心の準備はいつでも出来ています」なんて変な事も言うから、それも思い出してしまったじゃないですか。変な冗談は苦手です。

「女の子の事、良く知らないから……」

「じゃあ、試してみます?」

「……気が向いたら」

「はい」と笑顔で答えた。

変な返しまでしっかりと頭の中でリバイバル上映です。


『どうでしたか?』

「見ての通りだよ」

『そうですか。では、また明日』


僕は決めた。


ぼくは、あきらめることをきめた。

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