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魔法学校3

赤い文字が書かれた紙を一人一人に返却していく「授業が始まる前に自分のレポートを読み返しておくように」と言ったが、誰一人返事もせずレポートを読みふけている。


この風景は新任当初、少し戸惑った時を思い出す。

学生時代のテスト返却みたいに成績に関わるものは少しざわつく。成績のいいもん同士で確認、仲の良い同士での点数の言い合いとか。静かになるまで何秒かかりましたよってやつ。よくやる先生が居ました。小学生扱いされているようですごく不愉快だったのを今までも覚えている。そういえば速効でゴミ箱に捨てる不届きものが居たらしいです。隣のクラスに。

とにかく提出を返された時のリアクションに真面目というものを通り越して、人間らしさにやや欠けるとそんな印象が根付いてしまった。

それが気味悪く変なプレッシャーを感じ、今でも手が汗ばむ。


「今日は何をするのですか?」

「今日は前回の続きで、有機化学と残り時間で新しく数学を覚えられそうな範囲内かな。早く根幹の部分をやりたいだろうが、これができないと授業と並行して独学になるからね。基礎はしっかりしておきたいから、ごめんね」

余計な事を考えていたら、しどろもどろな話し方になってしまった。気をつけないと。


「そんなことないです。僕は教授を尊敬して学ぼうと受講したのです。教授の深いお考えがあるのを理解しております。簡単な内容ではないですが、教授についていきます。ここまで親身にしてくれる先生に何の不満もありません」

これを誰が言っていたのかも覚えていない。

吐き気がする。

もしかしたら幻聴ではないかと少し願った。

さらには皆が何かを求める様な感じの眼差しを向けている。

盛って言っている訳ではないですよ? 盛って話したらもう今日中に語れる気がしません。

そんなんだから僕の胃は悲鳴を上げ、胃薬を所望する。

自己評価と他人の評価のギャップの大きさがそうさせる。


魔法陣学なんて誰がやりたがるのだろうと、そう思っていた時期が僕にもありました。

意外にも希望者数が多くて断り厳選した結果こうなる。厳選したからには学内の成績上位者のみで構成されてしまうのだ。この学科は六名の内、四名は五の指に入る特待生。

それが今のこの状況。

もう次の授業をするのが嫌になる。


もう一つ苦しめているのは勉強に学生時代より頭を悩ませている事だ。

自分と比較するのもおこがましいが、やらないと本題にいきなり入るのは、はっきり言って無理だ。才能云々ではなく基礎をこなすには圧倒的に時間が足りない。しっかりやっていたらそれだけで一年以上行うことになり、学科名自体変えた方がいいレベルです。基礎は助長する程度に軽く触れて残りは自力でという他人任せ。

それに趣味で考えた論文が評価されてすぐ教授。

そうなってしまったものですから、計画性なんてとうに無理です。

当然教科書なんて大層なものを作った事は無い。

事前の準備なんて物をしている暇もあるわけでもなく、知識や伝手なんてものも無い。

無いものだらけの最終手段は、陳腐な臨時の塾講師的立ち位置に近い教え方しかできなかった。

色々思い当たる節が多々ある中、なぜだか悪評が立たない。

悪評を流すなんて事をする人たちには見えないが、これを一カ月。

文句の一つや二つありそうなものだ。

盲目の度が過ぎる。


それらを講義中にずっと頭の中を巡り葛藤している。


講義も残り半分、急ごしらえの問題プリントは二十分以上残して終わらせていた。

生徒はじっとこちらを見つめる。

もう何も出てこないよ? 評価に影響しないよ? ここまで来ると怖い。

もう辞めたさと申し訳なさがまだかまだかと肩を叩く。

分かりにくい所は先に解説してあるはずだが、質問というものは湧いてくるらしい。

時間がかかる質問については各諭に配布されたアドレスから後で送る。

そんなような事を話してやっと終わる。

拘束時間は1時間。

1時間も拘束された先生なんて僕が学生の時なんていなかったし、逆に宿題を忘れた生徒が、放課後居残りにされる事の方が見かけたくらいだ。


ああそうだった。他の授業が終わったらもう一度、生徒が来るのだった。

放課後の自由なんて何処へ、あのころに帰りたい。

帰らなくてもいいから引きこもりたい。

やや人見知りの僕には精神的疲労度が三割増しなのでなんとか、なんとかしたい。

週三回の授業なんて必要か? 否である。

基礎をこれ以上やると本当に何の学科かわからなくなる。

どうすればいいか相談もできない状態でさらに頭を悩ませる。

二十代、三十代の教授なんて一人もいないし、ほとんどが七十代といった状態で誰が気軽に声掛けを出来るだろうか? 人見知りだぞ。

準教授でさえ五十代が若いと言われるこのありさま。

当面の相談相手は元同級生になるしかなかった。

外部に情報漏えいが無いように、一回検閲されることを覚悟で送る。誰かに聞かれている前提で電話をする。

そのせいかここで唯一仲良くなった学校関係者は検閲の人である。

年が近い人がそれだけ少ないということでもある。

近いと言ってもアラサーだけれども、職員関係者で心を許せる人物がこの人しかいない。

中々に寂しい生活を送っている。

では生徒に相談したら? と疑問に思う方もいるだろうが、その選択肢は全くない。

生徒に手を出した教員の事は学長から脅――聞かされた。

マイルドに表現すると消されるというあれだ。

そんな先人が居ることから前から厳しかった規則がより一層増した。

金持ちの数が段違いですから納得もする。

そういった事で自分からという選択肢は最初から存在しないそうです。

とにかくそこらへんは厳しいらしい。

まともな知識が与えられているのか?

このままでいいのか?

そんな不安と後悔に毎日駆られる。


「おわったよー」

元気な声で僕の不安は打ち切られる。

エヘヘヘとふにゃけた顔で僕を見つめる。

これで僕はなんとか繋ぎ止められている。

それだけでも今の僕は十分だった。

生徒の学則にもそれをにおわせている所はあるらしいが、結局はその人の取り様って所が強い。

こちらだけの一方通行的ルール。

このルールのおかげで僕たちは無害な存在に成り果てる。

それで僕は守られている。


「すみませーん。今、お時間大丈夫ですかー?」

「どうぞー。そっちの空き部屋に入ってねー」


それでも、胃薬は欲した。

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