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頭が痛い。
起きてからの感想はそれだけだった。
ん?
僕はテーブルの上に置いてあった、生ぬるいドリンク剤を飲んでしまいました。
飲んでから、メモの存在に気付いたのです。
『今日は大変でしたね。
体調悪そうなので置いときます。
良かったら飲んでください』
誰だ。
喉が渇いていたので、追加でコップに水を入れて一気飲み。ふぅ。
これを置いたのは『彼女』では無いという事だ。
字も違います。可愛い字で書くことはありません。
こんな優しい事をするはずも無く。
良い所って何処でしょう? 探すのって難しいですね。
そして何よりまずいのが、見た事の無いパッケージ。不安感倍増です。
……どうしましょう。
死にはしませんよね?
ここは冷静に推理する事が大切です。
鍵は確かに掛けていました。不法侵入じゃないですか! そんな奴のを飲んだのだから、冷静でいられる訳がありません。どうしま――。
「失礼します。だいじょーぶですかぁ?」
「あなたでしたか」
不審者が現れました。見知っている顔だったので、体に害があるレッテルを取り下げました。
「鍵、閉めてあったよね?」
「はい!」
良いお返事で。
「飲んだのですね! これすごくいいのです。徹夜明けに最適ですよ。四十八時間戦えます。シュッ、シュッ。」
シャドーボクシングをしながら戦えるアピールしているのですが、それって危なくないですか? 体が少し火照ってきたのですが、本当に大丈夫ですかね?
「何か飲むかい?」
「お気づかいなくー。オレンジジュースありますー?」
体から抜こうと、洗面台の蛇口から直接水を飲みました。
缶ジュースとコップを目の前に置きました。セルフサービスでお願いします。
「にしても、大丈夫そうで良かったです。」
本当に大丈夫なのでしょうか? 信じますよ。
「様子見ついでに、写真渡しに来ました。すごかったですね。特に、一発芸」
慰労会で教員の集まりに行ったはずなのではあるが……。
会場が酒臭かった事とほとんどの人が出来上がっている事しか覚えておりません。
「大丈夫だった?」
僕の曖昧な質問にハテナマークを付けている彼女は、納得したように答えた。
「ああ、多分、大丈夫ですよ。無礼講ですし」
それってアウトっぽいのですが。
「写真持ってきたのでした。見てください。どうですか。良く撮れているでしょう」
学内新聞の発行もしているサークルに所属しており、趣味と実績を兼ねて写真を撮っているらしいです。夏期中なので人手が足りないという事で、借り出されたという感じでしょうか? 大変そうですね。
写真で記憶を補完しつつ、記憶を無理矢理掘り出す。
ぱっと見た限り、早い段階で奇行に走っている気がするのですが、気のせいですかね?
「お酒飲んでないよね?」
「ええ、私の見ていた限り、たしか、飲んでないと」
それだけは確実に思いだしたので、再確認しました。間違えないです。
「場に酔っていたのでは、ないでしょうか」
場酔い? 聞いたこと無いです。
というか、写真で見た限りはギリギリセーフって感じでしょうか? うーん。危ないのは撮らないはずですし、意味無いかなー。思い出せそうにないので。
「今度の集まりで、あの時の一発芸を見せてくれませんか? 盛り上がりますよ!」
「さっきも言っていたけれど、一発芸ってなんですか? 記憶に無いので、出来ませんよ」
何となく悪い予感がするので、やりたくもありません。
「じゃあ、映像流します。それとも、映像撮りましたので、渡しますから本番までに練習しておきますか?」
「ワンコに没収させようかな」
「それは、嫌ですので、しょうがないですけれど、私だけのお楽しみという事で、夜な夜な見させていただきます」
「そうしてください」
落とし所でしょう。
肉を切らせて骨を断つって感じでしょうか。
「そうだ、写真、良かったらどうぞ」
「良く撮れているのにいいの? 使うんじゃないの?」
「あー。うん。もう新聞に使う分は決まっていて、私のは採用されなかったんだー。あっ、メールだ。もう遅いですから、それではまた」
余計な事をしてしまった。
こういう事は、もう二度としないはずだったのにやってしまった。
アレで寝むれないし、見舞いに来たお礼も兼ねて、ちょっと邪道だけど少し手を打ってみるか。
「結果はどうでしたか?」
いつものおおぐらいに僕は新聞の一面を見せてブイサイン。
「正義が勝つって事ですかね」
「なんにせよ写真が大きく飾った訳だから、これからは下手に雑な扱いはできないでしょ」
「この作戦は面白かったですけれど、正統派って感じで後ろめたさが足りませんね」
「面白かったなら良かった」
作戦は至極単純。写真を簡易な冊子にして、教員に配るというだけだ。基本はこれだけで、念の為に過激派の相手は彼女と学年一位の彼に任せた。彼女曰く、つまんないという位に過激派は動かなかったそうです。動かないという事は、一部が嫌がらせをしていたという事です。
嫌がらせといってもサークルの伝統とか内々のしょーもない決め事でしょう。
写真の実力はある程度あるのでこういった作戦でやってみたら、上手く行ったみたいで。
一度張られたレッテルを払しょくする事は難しい。ですが何かきっかけを与えれば、良くも悪くも変化するはずです。
今回は教員全員を味方にして、さらには僕の取り巻きがいるのです。賢い相手は下手に手出しできない、一方的な力の振りかざしです。
「女の涙は高いってことだよ」
「キモいですね」
「でしょ?」
「なんですかそれ」
心なしか呆れ顔の彼女も少しだけ誇らしそうでした。
僕は、よさげな写真と新聞の切り抜きをコルクボードに追加するのだった。
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