(12)
「休みです。あーそびーまーしょー」
そういえば、夏休みはもう始まったのか。
近日中のスケジュールが詰め込まれていたので、実感が無かった。
「いや、予定があるから」
今日は缶コーヒーの気分なので、飲んでおります。
「私と仕事どっちが大切なんですか?」
1.ドングリの背比べ
2.どっちも大切
3.仕事
といった選択肢が浮かんだが、即答した。
「仕事です」
「うわ、最悪ですね」
一言で片づけ、一言で切られた。
無駄の無い理想的な会話です。
「何日かしたら、夏期講習だよ。それなりに準備があるんで」
「だからこそです。今は夏休みに入りましたよ? 今日あたりに出なくて、何時出かけるんですか?」
「そうだね……。うーん、来月あたりなら少し余裕が」
「旧暦だと、来月はもう完全に夕暮れが趣深くなっちゃいますよ。フォーリンラブですよ?」
秋で趣深くなるのは枕草子だっけ? フォーリンラブとはなんでしょうか?
「今のはギャグ?」
「はい。百点満点です」
満足げな顔をしていた。
「それは良かった」
今飲んでいるコーヒーより、甘い評価ですね。
そして僕は……。
「なんですかこれ」
「何って、見ての通りですよ」
森林浴できる、マイナスイオンたっぷりの川辺でバーベキュー。
最高じゃないですか。
テスト終わりからしつこかったので、予定は組んでいました。
皆の予定を聞いたらこの日が良いらしいという事で、あれから一週間もせずに合宿です。
気持ち程度の勉強要素は入っていますので、僕が大丈夫だと判断しました。
「合宿でプラス遊びに」
「そうではなくて、このアンテナというのも風情無いと文句をつけたい所ですが、現代化の波と多めにみます。それよりこれ。これは無いでしょ」
コンクリートを指差す。
「美しい絶壁。匠の技が光りますね。これを見ながらの食事はさぞ……」
「さぞ、不味いでしょうね」
まあ、これで味の変化は感じられないでしょう。
「お肉焼けましたよー」
「はーい。今行きまーす」
「どうぞ」
「ありがとう」
最近、油物ばっかり食べていましたので、盛り方が不満です。ちょっと肉多くないですかね。
「……あれ? 適応していないのは、私だけ?」
よく調べなかった、僕に要因がある。
予約が偶然にもキャンセルになったという事でとりあえず取ってみたら、ダムの近くでした。変に行動を起こすからこうなるのですね。
僕的にはあまり気にならなかったのだが、言われてしまったからには気になります。
少しでもの気分転換は、少しこけた形から始まった。
「ごめんねー。焼きの係、任せちゃって」
熱い中、火の番ご苦労様です。と冷たい飲み物を近くに置いておく。
半年ぶりくらいにじゃんけんを見ました。
「いえ、好きでやっていますから」
「俺は好きでやっていないのだけれど?」
「ごめん。それじゃあ、そろそろ代ろうか?」
じゃんけんに入れなかったので、申し訳程度の係の交代を申し出た。
僕はトングを貰おうとしたら、後ろに手を引かれた。
「いえ、嫌っていう訳じゃない……です。大丈夫ですから任せてください」
「おー、さすが男の子、じゃあ全部任せようかな」
その男の子と言われた年上が、うるんだ目でこちらを見てくる。
「大変だから。交代ごうたいでいきましょうか?」
自分を含めた妥協案。ちょっとだけ、やらない事を正当化しました。
ズルかったでしょうか? まあ、これで大丈夫でしょう。
「はーい。生肉くわされそうですもんね」
「そんなことしねぇよ」
何だか、楽しくなってきた。
感覚が麻痺しているというか、程よい運動した時の感じというか。
ドーパミンがドバーって。
そういうタイプではないのだが、少しそういった人たちの気持ちが分かる。
終わるのがもったいなく、またやりたいという気持ちが湧いてくる。
「それにしても美味しいですねこれ。外で食べるからでしょうか?」
両手に肉肉野菜肉野菜の彼女が話しかけてきます。
「それは――」
それは、全ては魔法のせいです。
なんかファンタジー映画のタイトルっぽいですね。
見た目は地味ですが。
調理の方にも力を入れています。
やっぱり火力は大事ですよね。味が違いました。
炭は自作です。面白そうなので、燻製用チップみたいに食物に香りが付くようにしてみました。
何といっても、ちょっと良いお肉を使いました。これがポイントです。
良い基礎があるからこそ、良い物が出来るという事です。
臨時の副収入が入りましたので、皆さんに臨時の御裾分け。
金に物を言わせたから美味しくなったとも言えますが、美味しいからいいじゃありませんか。
「おまたせ」
爽やか野郎がさっそう登場。
こっちは結構汗だくです。初めてうざいと思いました。申し訳ないので『ウザやか』とでも命名しましょう。これで失礼度半減しましたので、セーフです。気分的にもセーフになりました。
明らかに不愉快な顔をした人が、こちらを睨みつける。穴が開きそうです。
「なんであんたがいるの? 関係無いじゃん。ただでさえ二人っきりでなくて、お邪魔虫たちが一杯いるっていうのに」
僕の目線は一瞬、下へと向きました。
いつもの事だと気にしてはいないのだろうが、反射的に無意識にそう思ってしまったのだ。
「確かに学科の生徒ではないが、無関係ではないよ。お誘いを受けたのだ。無下に断る事は無いからね」
不満そうなのをしり目に、僕は目線から逃げるように焼けたお肉たちを運んでいた。
来る時、見かけたので声をかけました。
お誘いは……、もしかしたら、多分したのかもしれない。
面倒なので、お誘いした事にしましょう。
結構、世話になっているので。
実は世話好きらしく、時々勉強を教わっていたりする。
他の魔法基礎学に関しても合格点は取れないにしろ、そこそこにできるくらいには自信があります。テストはやりたくないですけど。
「あー! 私の肉」
「焦げる寸前のやつだからいいだろ?」
「焦げてからが美味しんですー。返してください」
まさかの、焦げ専が二人。どうなっているのでしょうか。
生専がいないだけマシですね。食中毒は怖いですから。
死なずに痛みで苦しみ続けるのでしょうね。生かさず殺さずです。
「早く食べないからこうなる。まだあるから、それを焼けばいいだろう」
「うぐぐぐぐぐ」
楽しそうで何よりです。
片付けが楽なのが、良いですね。
ミニチュアのコンロ台を作っといて正解でした。
これを現地に持ち込み魔法で巨大化。
火は魔法陣で召喚。
小物とか食材は転移魔法と残りは手で持ってきた。
残りは現地で、ほぼ手ぶらです。
片づけはこれの逆をするだけで、大体終了です。
下準備は程々にかかりましたけど楽しめましたし、何より――良く寝むれそうなほど疲れました。
疲れたのか、未だにソファーで寝ている。
そろそろ、起こした方が……。まだ、寝かしておこう。
そして僕は、甘かった。
食べ物と煙と緑の残り香で、少しだけ寂しい気持ちになった。




