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夏期の長期休暇の入りは、黒いスーツから始まる。
ネクタイは久しぶりに付けたなあ。年中クールビズですから。
ビニールに入りっぱなしのものを先日開けたばっかりだ。
クリーニングから返ってきた時は、開けるんでしたっけ? そのままにしておくんでしたっけ? 良く覚えていなかったのでとりあえず埃が付かないようにそのまましまっていた。奥の方にしまっていたのが運のつき、引っ張りだすのに時間がかかった。
バタバタしていたので、片付けはまだやっていません。帰るのが少しだけ億劫です。
少し不謹慎でした。追悼の席で、雑念は一旦横に置きます。
魔法生物の追悼式。
あくまでも生物です。魂というか意思というか、そういった物があると考えた先人は多い。言葉が話せる者がいる影響は大きかったのであろう。そう考えると、何かはしなければならない。
人間のエゴイズム。
『天命を全うする』そう書けば見栄えは良いが、実験の失敗で短命なものや元々短命なものの召喚。
はたまた実験体にされたもの、元々生まれ出で無いもの。
これらは果たして倫理的にどうなのか。
こうやって見ているだけでも、考えさせられる事は多い。
人間の観点でそうならないように厳守するルール付けはしているのだが、それは正しい事なのか。
やはり、思う所は多い。
専門分野外ですので、偏見があるかもしれません。
真実はもっと幸せだったかもと、少しだけ楽観的に考えてもいいかもしれない。
名前を呼んで涙を流している学生もいた。
これを見ると、大切にされていた奴もいたのだなって再確認させられる。
寿命で亡くなったペットの葬儀も同時に行われていました。
「なんだか、ここに来ると感受性が強くなって、涙が出てきますね」
この場では特に思う所はありませんでしたが、後で冷静に考えると精肉されたものとか結構食べていますよね。何匹分そのお腹に収めたのですか、という奴があの場に居合わせたのだよなと複雑な気持ちになりました。
一番に複雑に感じたのは、例の彼が泣いていた事です。それはもう周りがドン引くぐらいに。女学生に肩を貸してもらって、休憩室だかに運ばれている所まで見てしまいました。
つもりはなかったのですが、教員数名は後ろの方で立っておりましたので、一部始終を温かい目で見守りました。
そんな色々な思いを乗せて、しめやかに執り行われました。
教員や生物関係を専攻している人たちが強制参加なのは何となくわかるが、学生も全員参加するのは立派である。
見た目というのも重要であることは間違いない。中身も伴えばそれに越した事は無い。
「辛気臭いですね」
僕にその言葉を耳打ちしないで欲しかった。
一人がこれだと何人かこんなやつがいるのではないかと疑いたくなるじゃありませんか。それに僕まで他の事を考えているようで薄情な感じがするじゃないですか。やめてください。
僕は研究室に戻ってから、ネクタイを緩めた。上着はしわになるのでハンガーに掛けましたが、クリーニングに出すのであまり意味が無かったかもしれない。とにかく、着替えるに至るまでの気力が出なかった。
彼女といえばですが、そこらへんに上着を脱ぎっぱなしです。
ここを何処だと思っているのですか?
少し伸びた前髪を、ヘアゴムでまとめ、足の指で器用に靴下を脱いでいた。
「お腹すきました。さあ、学食が開いたら食べましょう」
何処からそんな言葉が出てくるか。
「今日の食堂はいつもと違うメニューだけど、いいの?」
この不謹慎野郎に少し嫌味ったらしく言ってみた。
追悼式典という事で数日間、学食は魔法関連の食物は使われないで提供される。
「流石に私だって、この後、食べようなんて気になれません。どんな時どんな状況、何が無くても、お腹はすきます。でも、今日食べるほど下衆ではありません。私をなんだっと思っているんですか。ショックです」
彼女は、彼女なりに考える所があるようで。
「でも、食べる事による追悼という考え方もありますので、明日はそちらに参加しましょう。これ、食事券です」
黒いカバンから、食事券。金色の文字で書かれたチケット。
思考停止していました。そういった考え方もあるのですね。
「明日のキャンセルは?」
「無いです。高かったんですから」
今日の所は、色々考えさせられた。




