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魔法学校2

「やあやあ、自分も僕のおかげで食べられるのだから君のというより『僕に』感謝して欲しいね」


階段の上から覗き込んでいる青年に対し、「うわ……」といったあからさまにいやだといった表情を彼女はした。ついでに声にも少し漏れていた。


「貴方のというより、貴方の親でしょ?」

「一緒の事だろ? 僕は一族の代表としてここにきている。だから親のすることは一族の為であり、僕はその一族の一員だ。家族の為は僕の為、僕の為は家族の為。何か訂正するほどの事があるか? それにきみだって親の一部の金でここに来られるのであろう? まあ僕の父が貢献した金額に比べれば雀の涙ほどだがな。はっはははは」

「ムカつく。わざわざ突っかからなくてもいいじゃん!」

「いやいや。僕がこの学校の出資しているのだから経営が成り立っているんだよ。その事を忘れた馬鹿な学生がここにいるもんで優しく教えてあげた。ただそれだけだ。」

「ムカつくムカつく。そういう態度が嫌なんだよ。なんで私が楽しんでいる時に邪魔に入ってくるかな」


また、争いが始まった。

この学校には我が強い人物が多く、些細な事で騒ぎが起きるため、日常茶飯事のことである。時と場所をかまわず。この二人に関してはどちらかが突っかかれば火に油を注いだように白熱する。

授業中に行われる事も少なからずあると聞くが、僕ら職員にはそれを止める権利は無い。

学生の親で経営が成り立っているからである。

当然、気を害してしまえば出資が無くなる。

そんなこと十八才の僕にだってなんとなしに理解はできた。

ましてや年上のみのこの学校で、僕が力で勝てる要素も無いので解決する手段はほとんどなし。

今回のベストな手段は時間が解決する。これ一点だ。


「こんな下らない事に時間を使っている場合じゃないわ。はやく戻って食べましょう。」


今回は意外にもあっさり終わった。

せっかくだからタイムでも計っておくべきだったかもしれない。

意味は無いですけれども。


「ふん。良く理解してここでの生活をするのだな。さらばだ」

「二度と目の前に現れるな、ベーだ」


「季節のパスタは買ったかい? あれは中々だった。」

争いはもう少し続きそうだ。


僕の寝室と化している休憩室に折りたたみのテーブルを出して買ってきたものを並べた。

この部屋は冷蔵庫も完備で引きこもるには最適環境である。

契約上は住居が必要なため教員宿舎を借りてはあるが、段ボールがまだ残っている状態で手を全くつけておらず住むには手を加えないと不敵な状態である。

管理人もおらずパスを通すだけで通れる簡易なものだから気がねなくこちらに居付いている。

研究室自体に簡易シャワーとか十分な設備があるため、宿舎に帰る理由が無くなってしまっていた。

大事なものや盗まれそうなものはむしろこちらに置いてあるくらいで、倉庫としてすら使っていないレベルだ。


「ああああ。ムカつくムカつくムカつく。」

僕は咀嚼音さえ出さないようにしめやかに食べ進める。

タイミングを見計らって目の前にデザートをコトンと置いた。

「優しくしてくれるのは君だけだよぉ」

これで怒りが少しはおとなしくなるはずだ。


彼女は学内で十の指に入るお家で支援も見逃せない所にある。

金持ちしかいない大学で生徒たちはおぼっちゃまとかお嬢様とかそういった印象より個性的が先行している人が多かった。

初対面の彼女は借りてきた猫といった印象で、他の人よりお嬢様っぽくて妙に目立っていたのを覚えている。

態度が一変したのは僕の年齢を知ってからだ。

利用できるとかそんな風に思ったに違いない。

最初からうざかったが、だんだんそんな環境にも慣れてくるものである。

慣れてきたのは自分の方だけじゃなかったかもしれないけれども、そんな会話が日常と化してくる。

今では程々な距離を保っている……気がする。

僕もここに来た当初ろくな知り合いもおらず、右も左も分からない状況だった。

一枚の論文から教職に就いた様なもので、単身乗り込んだここは金銭面にせよ魔法基礎知識にせよ場違い感が半端無かった。

コレに目をつけられてからは諦め半分で従っていた。

その時は他に手段が無かったのだ。


少しは慣れてきた頃、周りを見渡せば以外にも勉学に励む生徒しかいなかった。

不真面目なのが自分だけみたいな環境で不安な気持ちが増した。

その事を考えると、明後日から始まる授業が億劫でたまらない。

僕が教えるしかない勉学ではあるが自信が無い。

教員経験の無い僕が務められるのか、その一点だけでも戻しそうになるくらい。

小心者と言われるだろうが周りは年上しかおらず、勉強に対する姿勢が真面目ときた。

自分と対比すると申し訳なさで一杯になる。


「コーヒーはさっき飲んだから、お茶入れるね。美味しいのが確かここに――」


それでも彼女と一緒に居る事で少しはそんな不安な気分が紛れる。

ちょっとした緩和剤になっているのかもしれない。

そのウザさが時々有難いなんて本音は絶対に言わない。


ここまで一緒にいると、ちょっとした噂にはなるものだ。

恋仲とかお気に入りとか金魚のフンとか。

僕たちの間にはどれも成立しない。

ごっこ遊びをしたいだけの子供で。

何かを埋めようとしていた。

心細かった。

何かに依存したかった。

彼女を見ているとそうとしか思えない。

そうにしか見えなかった。

ここに来てからほとんどの時間過ごしているのだから間違えは無い。


だって彼女にも友人がいなかったのだもの。


金持ち同士特有の友人関係なんてものだけが色濃く反映していた。

一代で財を成した彼女の親にはそれがなかった。

ましてやこの性格だ。

二つの意味で出来ていなかった。

さらには毛嫌いする人物さえいる。

そのなかでも本能的に利用出来た、都合のいい人物なんてここにいた。

僕が居なかったら自滅していたかもしれない。

そんな彼女に同情した僕は巣立つまで一緒にいる事にした。

そう、心に刻み込んだ。

昔を思い出さないように。


そろそろ仕事の時間だ。

最近の出来事に入り浸っている場合じゃない。

僕は嫌な作業へ戻るのだった。

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