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(8)

晴れが気持ちよく散歩に出る。

洗濯もので部屋が埋め尽くされているので、乾くまでの時間つぶし。

日差しを浴びたいのは嘘ではなく、何となく、今日はそういった気分になったのだ。

空は澄み、心地よい風が感じられるほど清々しいお天気ですが、鳥の鳴き声がやけに耳につく。ピーチク、パーチクと。

飛んでいく方向を見ると屋根に人が立っていた。

手に鳥か。へぇ。

僕はなんか興味がそそられてそこへと向かった。


どっから降りたのでしょう?

近くの廊下まで来たはいいが、そこから向こうの屋根に立っている。

段差は腰丈ぐらいの高さで降りるのは勇気がいる。

ましてや斜めっているので、滑れば五メートル下へ落下。

むう。どうしたものかと考えていたら青年が話しかけてきた。

「そんな怖い顔しないでください。鳥たちが怖がってしまいます」

鳥使いの青年は続けてこうも言った。

「右手方向の非常用梯子で下りられます。良かったらこっちへ来ませんか?」

僕は言われるがまま梯子へ手を伸ばした。

思ったより滑るその屋根を伝い、青年の横にちょこんと座った。

「いい風ですね」

「そうですね」


十、二十、いや、三十分。それくらい長く感じた。

無言に耐えかねた僕は「どうして魔法陣学科に入ったのですか?」と尋ねた。

「いや、決して悪いとかそういう事じゃなくて――人生相談。なんでこれを……いや、何をすればいいのか行き詰るであろう将来に向けての相談。その参考に」

「なんですかそれ」と彼はほほ笑んだ。「なんで入ったのか? ですか……。そうだな。僕は鳥たちを守るためかな?」

「鳥……」

僕は少し遠くを見つめた。

「ええ。僕は幼いころから鳥たちと一緒に生きてきた様なものだからね。自然保護が目的かな?」

それは、動植物学とかの方がいいのでは?

「魔法陣学科関係ないとか思っていそうな顔ですね。一つ目は魔法陣の移動技術が自然を壊さず使えそうだからですね。応用とか効きそうだし」

「なるほどね」

そこに僕の興味は無かったのかもしれない。

「もう一つは楽そうだからですね」

「やっぱりね」と何となく笑みが漏れてしまった。

決して勉強が楽という訳ではなく、相対的に時間が少なくて済むという事である。

やればやるほど身になる事も事実ではあるが、空き時間を利用して学習すればなんとか物になるのもまた事実。

彼の勉学の実力はトップクラスで、一度聞けば忘れない天才型だもの。


彼はクンクンと犬のように鼻から音を立てる。

「もうすぐ雨が降りそうだからそろそろ降りましょうか」

そういえば雨が降ると言っていたな、――後一時間か。

僕が非常用梯子の方角へ向かおうとすると、ひょいと抱えられた。

人生初の御姫様抱っこです。

感想ですか? 聞かないで下さい。

五メートル下へ飛び降りですよ。心臓に悪かったです。

一番心臓に悪かったのは半分過ぎたぐらいで「ヤバッ」って声が聞こえた時でした。その時、自分の顔が一番地面に近かったです。神に祈る時間もなく地面へと墜落しました。


結果的には無傷では済みませんでした。

特にお気に入りの愛用ペンが。

ペンには魔法陣をテスト的に刻み込んであったので、それが作用して僕たちは軽傷で済みました。

まあ、ペンの方はメッキリといきました。ご臨終です。

男同士なので無事か? 大丈夫か? とかの言い合いは特になく、目を合わせただけで終了。はにかむってこんな感じなのかな?

たがいに無事で良かったとの感想です。

まあ適当に話してせっかくだから研究室に寄っていかないかと聞いたが、予定があるとのことでそこで別れた。

変な友情が僕の中で芽生えた。


戻った時、呼ばなくて正解だった事に気がついた。

とりあえず汚れものが出来たので、シャワーでも浴びようかと吊るされているタオルを手に取り、浴びに向かった。

こんなところにも傷があったのかと、二の腕が少し染みた。


後日、僕の研究室に届け物が来た。

布を開けると桐の箱だ。はじめて見ました。

丁重に包まれていたおしとやかな柄の布が、高級感をさらに拍車をかける。

箱だけで結構ビビっているのに中身を開けて、まあなんと光沢のある事。

手あかをつける事をためらうほどの万年筆が入っているじゃありませんか。

僕はそれをガラスキャビネットへと封印した。

 

「使わないんですか? せっかくのいい奴なのに」

「使った事ないからね」

「練習用に使ってみてはいかがですか?」

練習で使うのは無理と躊躇せず言える位高級で。

「貧乏性ですね。分からなくもないですが」

ガラスの中から僕へと目線が向けられた。

 

あの時落としたペンは、万年筆の形をしたボールペンであった。

黒歴史まではいかないので、色的に灰歴史でしょうか?

グレーゾーンなのでセーフです。

見た目の良さで買ったはいいが、使いにくく、手にフィットしなかった。

その後の行動は人によりいくつかあるが、僕が選んだ道は改造という考えに至ってしまった。

一、手に合うように少し削り、色を塗り直す。

二、グリップをつける。(手にタコできているくらい使い込んでいますよとアピール+若者的なアピール=玄人アピール)

三、ここまで来るとインクの具合が気になる。インクのムラや詰め替えの不便さ。それらの改良。大衆用のインクに詰め替え可能。さらにはインク量で重さ調整可能。

一か月のお小遣いを何割かと、数日を費やした力作です。

これは精神的ストレスで作り出してしまった一品だと、現段階での推察です。

変な愛着があり、今でもまだ隠れて使っていたのですが、壊れたら壊れたで諦めがつきました。


「本当だったら今頃これを処分していたんですが、見た感じ大丈夫なので今回だけは見逃します。それにこんな顔しているのを見たこと無いので」

今の僕はどんな顔をしているのか、ガラスに反射して見えるそれからどう違うのか自分では判別できなかった。

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