(7)
「雨ですね」
「雨ですね」
連日の雨に僕たちの会話は行き着く所まで行き着き、稚拙に陥る。
会話に限界が来た。
「もうヤァダァ! 雨ヤァダァー!」
雨でもうっとうしいのに、駄々をこねる子供のように騒がれると僕のストレス値も上がる。
「仕方がないよね」と会話をぶつ切り。
しょうがない、仕方ないは魔法の言葉。それで諦めがつき、全部を終わらせてしまう。
「……そんなこと、わかっています。それでも! それでもどうしようもないから嫌なんですよ。」
再び、僕たちは並んで研究所の窓から止むことの無い空を見上げる。
近日の窓から見える景色は雨模様で、天気の調整のミスから来たものだ。
晴れの日が一日多かったらしいので、貯水量が想定より減っていたらしい。
それを戻すために連日の雨で洗濯物が溜まる。
魔法コーティングの服はストックが少なく、もうこれが無いと生きていけないレベルで必需品となっている。
寝る時だけは快適にしたい為に、現在は寝巻と化している。
今はジャージ生活だ。
実家から送ってもらっていて正解だった。
「服も無くなるし」
「乾燥機とかクリーニングに出したりしないの?」
「あの馬鹿はこんな時に熱出しやがるし」
自分でやるという選択肢は無いものなのか?
お料理の時点でお察ししたので、お洗濯もお察ししときます。
「馬鹿って言ってやるなよ。普段頑張ってくれてるんだろ?」
「むぅ。それでもタイミング悪すぎです」
「たまにの事だから許してあげなよ」
「そのたまがこれだから許せないんです」
ぽちっとテレビをつけて天気予報にチャンネルを合わせる。
「あと二日雨だよ」
知っていただろうけれども見せつければ諦めると思って。いつもより音量プラス二。
「ああああ。もう。服貸してください」
「綺麗なのはもう無くなった」というのは嘘で何となく貸したくなかった。
「それでは結構です」
「雨だね」
「雨ですね」
そう、生産性の無い会話はまだ続く。
「ああああ。もう。気分転換に外出ましょ。外。」
彼女は僕の意見を聞かずに扉の方へと向かう。
流石にこれ以上は限界だったようだ。
実際、僕もうっぷんが溜まっていたので付き添うことにした。
渡り廊下の窓からは雨の中、男性と女性の姿が。
顔は見えないが色と雰囲気的に。
「よくやりますよね。雨の中」
「卒業制作かな?」
「そうでなければこんな雨の中、外にいないですよ。行きましょう」
手を引かれた瞬間、カッパの中からちらりと顔がこちらに見えて、何だか良く分からない納得をしてしまった。
「なるほどね」
「……?? どうしたんですか?」
「しょっぱい物とか食べたいなと思いまして」
「はあ。そうですか」
こんなものまで売っているのか。
参考書。むむむ。少し欲しい。今後の参考に――いや、出来ればもう数ページ立ち読みしたい。にらめっこしていると横からスッと取られて会計へ持ってかれた。
読んだ後棚に戻した自分が悪いんです。ええ。
少しだけ、買う気があっただけに、イラッとしただけです。ええ。
「どうしたんですか? こんなところで、そんな顔して」
「うん。別に」
「そうですか。あっ! そういえば最近、書店が入ったって聞きました。図書館と違って入行の手続きがいらなくって楽なそうですよ。私興味ないんですっかり忘れていました」
「行く」
「……では、行きましょうか」
なんか微妙な間があったが気にしない。
コンビニを後にした。
そこは天国ではなく、地獄であった。
読みたい本は沢山ありました。
欲しい本も沢山ありました。
だからこそ地獄。
立ち読み対策はビニールが巻いてあってバッチリ。
そして、買えない。
つまりは生殺し。
「ねぇ、見てくださいよ。これ」
彼女は本の近くに置いてあるポップをこっちに持ってきた。
「店員に怒られる前に戻しときなよ」
「そんな事より見てくださいってば、ベストセラーですよ」
冷静に見ると今週のベストセラーと書かれていた。
売り上げを伸ばすためだけに書かれた様な売り文句で。
「山積みですよ。山積み」
店が出来たばっかりで山積み、さらにはベストセラーとは……、なるほどね。
つっこみどころが沢山だが、興奮する気持ちもわからなくは無い。
自分らが関わった本が並んでいる。
それだけで何かアレなものがある。
「すみません。あのー。これ書いていただけませんか?」と店員から小さな色紙を手渡される。
「サインですか? サインですか?」と彼女が煽ってくるが、僕は「メッセージでも書くよ」と耳打ちすると「えー」と返された。何が不満なのだろうか?
「あの後日までに書かせていただきますので、持ち帰っていいですか?」
「どうぞ、どうぞ。あとこれにサインも付けてくださいね」と本も渡された。
「私にもサインください」とからかわれたが、「絶対にやらない」
教訓として、見えは張るものではないという事が身をもって理解した。
教員割引でも中々に痛い出費であった。




