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四時限目:ダブルブッキング

どうしようもなく、ただ椅子に座っている。

本当にどうしようもない時は、どうしようもない。

それでも解決しなければならない。

残り十分程度で。


事の始まりは一時間前。

講義室の前へ着くと声がした。

はて?

ドアについている小窓からのぞくと講義をしているじゃあありませんか。

部屋の前に付いている張り紙を見てさらにびっくり。

次の時間もこの講義が入っている。

僕の講義と重なっているじゃあありませんか。

とにかく教務課へと向かったのだ。


窓口に居るおばちゃんに事のいきさつを言うと確認してくれた。

ここまでは穏便だった。

まず始めに、講義室が一杯で講義が出来ないといった状況だった。

学生にだって予定があるわけで、夕刻や後日ってのも後味が悪い。

自分に悪い部分がないので余計に申し訳なく感じる。

一度聞いてしまったので、引くに引けなくなってしまった。

そこがマズかった。

始めにと言いましたが、次にとかありません。

あるとしたら立て続けに言われました。

数える余地も無く。


「どうしても空いている部屋は無いですか?」と一度聞いた位で決して何度も何度もしつこくした訳ではない。

とてもとても態度がふてぶてしいのだ。

さらには「貴方がしっかり確認しないからでしょ!?」と自分の責任にされる始末。

温厚な私でもかなりキている。

何処に発散すればいいものか、とりあえず椅子に座っているのだ。


記憶が走馬灯の如く色濃くフラッシュバックする。

流石に「お前が悪いから、自分で連絡しろ」は無いですよね?

「そんなにしたいなら研究室でやれ」、だそうです。

あぶくのように怒りが浮かんでは割れ、浮かんでは割れ。

そんな僕は頭の中が処理しきれなくなって通路の長椅子にもたれかかった。

自分の中のメモリーが過多になっていた。


そして今に至る。

落ち着いてくると周りが見えてくる。

とにかく皆に連絡を取らなくてはいけない。

メールで、それだけだと見られない奴が居るかもしれない。

こちらからも送る事と共に学生課からも連絡を。

無難な行動を選ぶか、そんな事を考えていると教務課の白髪と白いひげの男性がちょいちょいと手招きしていた。

確か一番偉い人だ。

「そこの会議室使ったらどうだい? 今日はもう使わないみたいだから」

入った事があるが、広さも十分でプロジェクターもあったはず。

「良いのですか? ありがとうございます。よろしくお願いします」

願っても無いラッキーが舞い込んでくる。

「話しにくいと思うから、彼女には僕の方から伝えておくよ。ついでに学生にも場所の変更のメッセージ送っとくから」

なんとその紳士のおかげで一気に解決してしまった。

有難いことです。

先ほどまでとは打って変わって、気分良く変更を送った。


数分遅れで始まった講義は予定時刻を過ぎて終了した。

次の授業まで時間が無い生徒はいないようで良かった。

カウンター横を通ると何やらもめ事が。

「ああ、またやってますね。あの人はいつもそうなんです」

生徒たちは達観したような眼で全てを語っていた。

「きっとあの人が原因でここになったんですよね? やれただけラッキーです」

「なるほど」

「いつもだったら諦めるのだろうけれど、今回よほどひどいミスをしたみたいだね、あの人。口では勝てないから、僕たちでさえ多少の事は目をつぶるのだけどね」

「なるほど」

「あの人貰い手が無いんですよ。結婚も職も。お情けでここに入れるんですよ」

「なるほど」

「今日は珍しく辛口ですね」

なるほど。誰かさんのがうつったのでしょう。


「私も昔このババァに苦しめられました」

昔か……一体何歳なのでしょうね。もしくは何時からここに通っていたのでしょうか。

そんなこと言えません。自分も最近一か月前の事昔って言っちゃいましたから。

「アレのせいで危うく評価下がりそうだったんですよ!? 特待生から落とされそうになりました」

学費減額の特待生。ああ見えてもやっぱり頭いいのだなと再確認させられる。

すぐ忘れますけどね。

「口で言い負けたんで、裏に根回ししといたんでなんとか無事済みました」

根回しというより手回しの方が正しい様な気がした。

ええ、何となくですけれど。

彼女が口で勝てないという事は、僕に最初から勝ち目は無いということで反論しなくてよかったと心底思った。


「義を見てせざるは勇無きなり。つまりは義が生じなければする必要は無いということだ」

「それを言う貴方は勇を持たざるという事ですよ」


夕食後なぜだかバックアップの取っていないデータはすべて消えた。

一度大きな不運に見舞われると些細な事も大きな不運に感じる。

そんな不運は翌日まで続いた。

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