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(6)

「おかえりなさい」


三つ指ついておかえりなさいとか、けなげな女の子とか知りませんかね?

そういうのを助手にしたい。やっぱり、そうでもなかったです。


よくもまあそんな顔を出来るものだなと感心するくらいの気持ち悪い笑顔に迎えられたのだ。


「今日はいいお天気ですねー。あっ、そうだコーヒー飲みます? ちょうど美味しいのが手に入ったんですよー。後、机の上整頓しときました。きったなかったですよ。あれじゃあ仕事もはかどらないでしょー。おゆー飯も考えなきゃですね。私は行ってから決めますけど……お魚もいいですね。お肉も捨てがたい。――」


いつもより口数が多く、マシンガントークな彼女は、何か隠し事をしているのは明らかであった。

僕の手に負えないというか負いたくないであろう面倒な事だと直感的に何となく察していた。


「ええとー、後は後は――」


もう話す事が思いつかないギブアップ状態の彼女をスルーして、仕事机に戻るといつもと風変りしていて水槽が一つ置いてあった。

流石にパソコンを退かすという暴挙には至っていなかったが、仕事用のメモの大半ではなく全て消失していた。


「何これ?」と問うと「スカイちゃんです」と返された。

「は?」

「クジラ雲です」


そういった事を聞きたかったのではなかったのだが、クジラ雲という聞きなれない言葉の方に引っかかった。


「クジラ雲? うーん、クジラ雲か……」

「不満であればユーちゃんでも……」


あからさまに会話する気の無い彼女を話半分に聞きつつ、僕は不思議な生物の方へと目が行った。

大きさはグッピーとかその位。水槽の中にその不思議な生物が。雲の名前を有しているだけあって白く、また水槽に水が張っておらず、プカプカと浮いているのだ。


「かわいいでしょ?」

顔がどこにあるかわからない生物で可愛いという感情はさすがに出せなかった。

「これは何を食べるのんですか?」

ボーっとしていたのも相まって、ニュアンス的にぎりぎり理解できる程度の言葉が口から出てきた。

「かすみです」

仙人は霞を食べて生きていると聞きますが、それですか。

「可愛くって……、目があっちゃったのが運のつきです。」

そうですか。


未だに僕は、そいつから目が離せなかった。

なんか空に浮かぶ雲を見ているみたいで、いつまでたっても見飽きる事は無かった。


「……非常食?」

「ちがいますっ。どんだけ私を卑しい女に仕立て上げるつもりですか」


『飼い主募集 生物研究室まで来たれり――』そう、張り紙が掲示版に貼ってあったらしい。

何の種類かわからないが彼女は日ごろの疲れを癒しにペット見物に行ったらしい。

種類は書いてないですから犬猫くらいの大きさの動物に触れ合いに行こうと臨んだということだ。

行ってみたらほとんどの動物が持っていかれて、大型で飼えないものとか爬虫類ぐらいしか残っていなかった。

その中でもこいつと目があい、衝撃が走った。そういうことらしい。

疲れていたのかな?

イマイチ伝わってこないが、一目ぼれってやつなのかな。

うん、わからん。


「寮では飼えないの?」

「ええ。おばちゃんがダメって言っていましたから。ペット禁止らしいです」

最初に確認しろよと。そんなに数は無いはずだし主要な規則は把握しとけよと。

「あの、ここで飼っちゃだめですか?」

「ダメです。僕が世話するようになるじゃないか」

なんか、傍から見たら犬飼いたい親子の様な会話だな。


飼育メモに書かれていた情報をまとめると以下の通りである。

知性があるらしく会話に反応するらしい。

そこの暇人が何回か対話を試したらしいが話せる訳ではないらしい。

また、ストレス度により色が変化する。(白→グレー)

老廃物を出すために雨の様なものがでるため、吸水マットを敷く。

湿度によりストレス度が上がるため、マットは月一で変更推奨。

『臨機応変に』と書かれていたため、こちらのストレス度が少し上昇した。

ストレス過多により、消滅したりもする。

さらには時々ガラスを抜けて脱走する。

良く分からなく不思議な生き物である。

説明でまだよく解明されていないと書くのはどうかと思います。

それを飼い主募集する方もそうですけど。


「どうしても、ですか?」

「どうしても」

『自分でやりますよ』とか言わない時点で、僕が世話する事は確定なのか。

少しのにらみ合いは心に後ろめたい部分がある方が負けた。

「わかりました……。返してきます」

かなり寂しげな後ろ姿の彼女を見送った。

仕事の邪魔になるのと責任を押し付けられるのはちょっとね。



そんなこんなで僕はこいつに餌をあげている。

風邪をひいたから仕方がなく。


研究室前に設置されることになったこの水槽。

あの後、学生課に直行したそうだ。

世話役はそこに居合わせた巡回警備員で勝手に申請されたらしい。

廊下は大学側に管轄があるため、僕に文句を言う権利も権限は無い事は言うまでも無く。


「おはよーございます。あれあれ? 餌をあげているなんて、気に入っちゃいましたか? ねー、クラウドくん」



○かすみ一号

十三食入り。粒サイズ0.25mm

極小型の魚向け用おやつです。

無添加をモットウに作らせていただいております。

かすみは一号から十号まで取りそろえており体格により段階ごと別れています。

原料:餌用かすみ、中麦粉、イモ類でんぷん、地上オキアミ、雲生成油、その他

栄養が偏るため、あげ過ぎに注意してください。

アレルギー三品目、甲殻類、麦、豆

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